M-Zero6 あの日、ボクは【三なし】(ナッシー)に会いにいった。

「だけど最近おかしな噂があんだよ。【三なし】が不良どもを集めて何かしてるってさ」

 えっ、どういうコト?

「おれはガセだって言ったんだけど、上級生の奴らはすっかりイカレててさ、チーム作って『喧嘩統一』なんてステッカー売って金集めてる。その時点でお察しだろ」

 なにそれこわいよ! 一番はそのセンスの無さが。

「そんで今度見てこようと思ってんだよ。どんな神輿・・を担いでるのかさ」

 何言ってるの! 一人でそんなコトしちゃ駄目だよ! 絶対ダメ!

「2回言うって何のフリだよ? だったら一緒に行こうぜ。隣町のライブハウスがアジトだってさ」

 フリじゃないってば! だいたい心配してる人を何で逆に誘うかな~。

「じゃあ、あんたは行かねぇのかよ」

 い、行かないとは言ってないでしょ?

「なら行こうぜ」

 ……わ、分かったわよ。でも会ってどうする気?

「そりゃあ戦うさ。拳で語るってそういうもんだろ?」

 え~、武道家は礼に始まって礼に終わるって教わったんだけど。


 「おいおい、おれが正面から来てやってんだ。そっちも出てこいよ、【三なし】さんよ!」

 土曜の夜、9時を回ったところ。ボクたちはライブハウス『SUPER-KING!』の客席の真ん中に立っている。

 周りには飲み物やジャンクフードが置かれたテーブル。そのテーブルをはさんで30人ほどの不良たちが遠巻きにボクらを見ている。

 はじめは裏口から様子をうかがうはずだったけど、あっクンが手形のステッカーを持ってると言ったので正面に向かった。すぐバレちゃったけど。だからカラーコピーじゃ無理だってば! えっ、お金がもったいなかった? 

「その格好、てめえ【闇シバ】か? 仲間に入る気になったのか?」

「あんたら次第だな。まずは【三なし】に会わせろよ」

 あっクンは全身黒ずくめ。ひざ下のハーフパンツに、上はTシャツにミリタリーベスト。手には振り出し警棒。これが闇シバの定番スタイルみたい。

 ボクはいつものバミューダパンツにTシャツ、パーカーの楽ちんスタイル。顔が隠れるし丁度いい。


「有名人のお客さんだね。ようこそ、ボクが【三なし】だよ」

 小柄な子を先頭にして、制服に腕章をつけた2人の幹部らしい不良が楽屋袖から登場。【三なし】さんは袖無しのカンフー着、首にヌンチャクをかけている。ブルースモデルだね。そして何故か3人ともサングラス。

 【三なし】さんは、小柄といってもボクよりは身長がある。だけど細身で……あ、お付きの幹部がぶつかってよろけてる。うーん、やっぱり格闘技をやっている人の動きじゃない。もう【三なし】じゃなくてナッシーでいいんじゃない?


 次にナッシーはヌンチャクを手に持ってパフォーマンスをはじめる。ピュンピュンすごい音がしてるけど、それ練習用のプラのやつだよね?

 あっクンが手近にあった灰皿を投げつける! ナッシーはそれをしゃがんで躱すけど、やっぱりどう見ても隙だらけだよね。う~ん、パリパリ。 

「それで騙せると思ってんのか? おれも舐められたもんだ。おい、あんた……って、何普通にポテチ食ってんだよ!」

 ご、ごめん、何かおなかすいちゃって……って、こらッ!

 あっクンがボクのフードを取る。それを見たお付きの幹部の1人から「あーっ!」と声があがる。

 あれ? サングラスを外したそいつに何か見覚えあるような……え? 

「お前はやらかしていなくなったはずだろ! 何でここに来てんだよ!」

 エビルゥゥゥ! またお前かァァァ! それにやらかしたのはボクじゃなくてお前のほうだろがァァァ!!

「えっ? 誰? エビィ、あいつ誰?」

 ナッシーがエビルに言う。エビルの顔は真っ青だ。

「あいつ、本物だ……本物が出た……」

「マジで? じ、じゃあ【闇シバ】と【三なし】が手を組んだってことか? う、うちらを潰しにきたのか? お、おい、聞いてねーぞ、そんな話!」

 もう一人の幹部がエビルに怒鳴る。そして3人の慌てぶりが辺りに伝染していく。


「馬鹿か? お前らにそんな価値あるわけねぇだろ」

 あっクンが鼻で笑う。そしてボクの方を見てため息をつく。

「やっぱりあんたが本物じゃねぇか。つまんねぇ嘘つきやがって。……やる気が失せた。もう帰るわ」

 ちょ、ちょっとあっクン! 自分で誘っておいてそれはないんじゃない? さすがにボクも30人相手じゃキツいってば! ホント、手加減できなくなるし・・・・・・・・・・

 ボクの言葉に不良たちが殺気立つ。

「は? 何言ってんだコイツ? 30人相手に手加減? 頭おかしいのか?」

「よせヨージ! あいつに構うな……」

 いきり立つ幹部ヨージをエビルが制止するけど、彼はその手を振りほどいて指示を飛ばす。

「1対30だ。負けるワケねーよ! おい、出口ふさげ!」

 そしてドアの前に、他の幹部っぽい不良が立ちふさがる。

「おいおい【闇シバ】、お前も何帰ろうとしてんだ? 逃げんなよ。ついでに死んでけや!」

「チッ、面倒くせぇな。……おいあんた、今からおれと勝負しようぜ。どっちが多く倒すかだ」

 ありがとう。だったら10人は任せていい? 後は何とかするから。

「本当かわいくねぇな。おれは負ける気ねぇって言ってんだよ。先制ボーナスは貰ったぜ!」

 言うが早いか、あっクンはステージ前の幹部3人に向かって走り出した。

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