Count 7 まどろむ魔王が待つものは

 ……オレは今【きみなぐ!】のラスボス、【魔王】ユビキタスとして魔王城の玉座にいる。どうやらゲームの背景イントロ回想・・しながら眠ってしまったようだ。


 ここはARPG『君が世界征服を諦めるまでボクは殴るのをやめないッ!』通称【きみなぐ!】の世界だ。ARPGはRPGにアクションの要素を加えたテクニカルでハードなゲームだ(注:個人の感想です)。

 そのストーリーは世界征服を企む【魔王】ユビキタスを倒すため、プレイヤーは【物理の聖女】アンリミテッドや【魔女の騎士】フルスロットルなどのキャラクターとなり、魔物やステージボスの五星王を攻略していくというものだ。

 五星王は【魔竜】をモチーフにしたゴーレムで、水星王から土星王までの5ステージを攻略すると、【魔王】が待つラストステージ魔王城に進むことができる。


①各ステージは魔方陣のパネルになっていて水星王が8×8の64面、金星王7×7の49面というような構成になっている。


②全面をクリアする必要はない。縦横ななめのいずれかをビンゴ状態にすれば攻略したとみなされる。ただしクリアするビンゴの数はステージごとに増えていく。準ラスの土星王は3×3の9面だが、そのうち8面をクリアしないと5ビンゴにならない。


③ステージではビンゴするごとにランダムに回復や攻撃力アップといったアイテム報酬が出現する。


 なおアイテムの購入ポイントは存在しない。つまりアイテムを手に入れるためには弱いステージにも何度も足を運ぶ必要がある。このダルさが【きみなぐ!】のクソゲーの一因でもある。

 しかし伝説的クソゲーと呼ばれる所以は他にも幾つかある。空中での方向転換といったバトルアクションの難しさとか、ステージ攻略のパズルギミックの凶悪なバグ(パッチ等なく注意喚起のみ)とか、死んだときに残機システムでなく他キャラに強制的に入れ替わるタッグマッチシステムとか……まあ、それもクソゲーを楽しむ要素と言えなくもない。その不幸がオレ自身に降りかかってこなければだがな!


 この【きみなぐ!】の世界は、オレの母さんがプレイヤーから魔子マミをほんのすこしずつ分けてもらうために魔法で作ったものだ。そしてクソオヤジはこのゲームの管理者だった。

 クソオヤジは初めこそ【きみなぐ!】の世界で右往左往するプレイヤーの失敗を笑い、そこから吸い上げられる魔子マミに満足していたのだが、だんだん遊ぶ人がいなくなり魔子マミが得られなくなると、「飽きた」と一言残してあっさりトンズラした。

 それだけならばまだいいが、クソオヤジは行きがけの駄賃とばかりに、オレのパラメータをメチャクチャにいじった挙げ句、底上げした魔子マミを根こそぎ奪っていった。オレの色素異常もこのときのせいだ。オヤジだ何だという前に、お前の血は何色だと正座させて小一時間問い詰めたい!


 このせいでオレは魔臓庫の容量は大きくても中身は空っぽという不遇な少年時代を過ごす。魔法の理論は完璧でも実戦はガス欠でからっきしだったし、体力や魅力などの数値パラメータも低いままだから当然いじめられ、ぼっちになり引きこもった。

 その後は食事や体質を改善したり、魔子マミを練り込んだ薬用飴を定期的に摂取したり。そのおかげもあってオレの中にも魔子マミが貯まりつつあったが、今度は母さんにリミッターをかけられ、魔子マミの薄い巫子芝の世界に飛ばされることになった。理由を訊けば、「オレを【きみなぐ!】に監禁して魔子マミを大量に星から吸い上げようと画策している悪の組織から身を隠すため」などとのたまう……A Hard Day's Night、デスマーチがやって来るYah!Yah!Yah!かよ。何でオレの人生はここまでハードモードなのか!


 ……そしてあの日、空手の会場を後にした負け犬のオレは、魔法使いの悪の組織にこちらから接触した。巫子芝のいないところに行きたい、ブラックな世界でも必要とされる場所があるならもうそこでいいじゃないか……自暴自棄なそんな振られ気分だった。


 ……しかしどうやってかは知らないが、巫子芝はオレを追いかけて【きみなぐ!】まで来てしまったのだ。

「ユビキタス様」

 側仕えの月霊姫が扉の前に立っていた。さっき最後の五星王が倒されたと報告があった。他に残っている誰もいない。

「【物理の聖女】が到着しました。いかがなさいますか」

「……特別扱いは必要ない。いつも通りプレイヤーとして迎えよう」

 オレの言葉に一礼し、月霊姫が退く。


 何やってんだよ、巫子芝……。

 そうつぶやきながらも、オレは頬が緩むのを抑えきれなかった。

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