第2話 アリスとの出会い


 シエレナ10歳、孤児院で初めての朝を迎える。


(ふぁぁぁ眠い。今何時?)


 時計を見ると時刻は9:00を回っており、シエレナは目をこすりながらパジャマから、黒の制服へと着替えた。その足で、教室っぽい部屋へと向かう。


 ガラガラっとドアを勢いよく開けると、孤児院ではすでに授業が開始されていた。シエレナは半分あくびをしながら、教室へと入っていく。


「来ましたね。シエレナ、おはよう」


「——ふぁっ? あっ、えっと。おはようございますっ!」


(フツーに寝坊しているんだけど私。初日から遅刻とか大丈夫なのこれ?)


 彼女は内心めちゃくちゃ焦っていて、深々とお辞儀をした。だが、先生はシエレナに構わず朝礼を続けた。


「シエレナ。いつものことなので、誰も気にしてないです。そんなに、頭を下げて、かしこまるなんて。今朝は熱でもあるのですか? 席についてください」


「はっ、はい」


 シエレナはキョロキョロと当たりを見渡し、適当に近くの空席に座った。


「シエレナ。そこは……レビィ君の席ですよ」


「あれ、そうだっけ。ハハハッ、そうだ。レビィ君の席でした。すみません」


 一番右端の席に座り直した。


「それでは、1時間目を始めます。本日は魔術式学からです」




 〜お昼時間〜


 シエレナの頭の中は知らない単語と意味の分からない数式? いや文字式の羅列で爆発寸前だった。


 (訳わからんて!魔術神経系接続、魔法武器の使い方とか。自分の知らない単語で溢れている! 全然使えないし! こんなの、ゲームの設定に出てきてなくない?)


「シエレナちゃん。大丈夫? 今日は本当に体調悪いみたいだけど」


「ダイジョブ、ダイジョブ。ワタシはちょっと頭が——頭がぁ……」


 金髪のフワフワした髪に、綺麗な顔立ちをした少女が話しかけてきた。もちろん、シエレナはこの少女を痛いほど知っている。


(アリス。間違いない。ちょっと背が低くて、子供だけど——アリスだ)


 アリス。それはオリファンの主人公であり、5人の攻略対象とイチャコラし放題の美少女である。


(ひゃーーーーーーーっ、可愛い。かわいいいいいいいいぃ!! 何よこのビジュ! どういうことなの?)


 シエレナの頭の中で、最初に過ぎった感情は「驚き」ではなく、「カワイイ」という4文字。


「ねぇ、あなた。ちょっとほっぺた触らせてよ」

「えっ? ——別にいいけど……」

「ひゃー本物なのねー。お肌もぷるんぷるんじゃないの。白雪姫みたいだわ。どの角度から見ても可愛いって、そりゃ攻略対象も惚れるわー」


 シエレナはアリスが放つ底知れない輝きに無我夢中であり、重要なことを忘れていた。目の前の少女が、いつか自分の命を奪うというシナリオ設定を。


「あの、シエレナちゃん……その、そんなにじっくり見つめられると//」


「ごめんごめん! そんなつもりじゃなくて、可愛すぎてつい……」


 シエレナの口から出るのは全て本心だ。


「ありがとう// シエレナちゃん、今日は本当に熱とかあるんじゃない? こんなに元気なの久しぶりで、空元気みたいな」


「私って普段どんな感じだっけ?」


「うーん……。無口であまり喋らない子だと思ってた」


アリスは首を傾げながら、寂しそうにそう言った。シエレナになったばかりなのだ。自分自身のことをまだよく分かっていない。


(なるほどなるほど。これは有力な情報だわ。無口>友達いない>孤独>シナリオ通りに事が進む>死亡。これは阻止しなくては——)


 こうしては居られない……とシエレナは頭を悩ませながら、今日の授業をなんとか終わらせた。授業が終わると大食堂で、10歳〜13歳までの子供達は一斉に食事を取る。


 晩御飯で出されたのは、カボチャのスープと雑穀米のみ。


「嘘でしょ……食事シーン、あんなに豪華だったじゃない」


 シエレナは覚えている。アリスがとある戦地へ派遣されて、王国に招かれた夕食会では、ステーキやグラタン、スイーツまで画面越しに伝わるその美味しそうなビジュアルには記憶があった。


「どうしたんですか。シエレナ。さっさとお食べなさい」


「はい。先生」


 錆びたスプーンでスープを一口パクリと……。


(……不味っっっ!! なにこれ、カボチャなのに甘くないし、てかしょっぱいし、これ食べなきゃなの?!)


「シエレナ。どうしたの?」


 隣のアリスが話しかけてきた。


「なっ、なんでもないわ。美味しい、美味しいですわ。このスープ。ほほほほほっ!」


 スープと雑穀米をかき込みながら、食べて完食した。その後は、シャワー室にて冷水シャワーを浴びて、自由時間を過ごした。

_________________________________________




 孤児院は意外と広く、中央の庭を囲むようにサークル状の建築物になっている。シエレナは自分のゲーム知識を書き留めるために、ペンと本が置いてある図書室へとやってきていた。


(さて、まずはこの世界について整理しないと)


 シエレナはペンと紙をとった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

裏切りの魔女シエレナは、それでも戦地から逃げ出したい @panda_san

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ