短篇集

佐久早 比夜

第1話 魔法少女と茶番

 

 桜の開花宣言が平年よりもだいぶ早く出ていたくせに結局平年と変わらないことが判明した今日此の頃。(私の街では)未だ満開とはいかない新年度の始まり。恋する春の季節に邪魔する輩が多いのは魔法少女をやっているものなら必然的に知っている。

 


 「掛かったわね! 早くでてきなさい!」



 今日も今日とて悪魔退治に必死の私こと柏川睦羽。漸く中学生になって憧れの新入生が来るというのに、半年前に辞めた部活を今度は何にするか決めずに何をしているんだか。一般人には悪魔の存在は見えないので、端から見れば唯の中二病丸出し少女。決めポーズのウインクピースビームは流石にこの年でも既に嗚呼痛い。

 基本的に私に任されることになる悪魔は雑魚〜中雑魚程度なので最早ゲーム感覚。しかし、レベルが上がれば敵も当然強くなるので、怖いと思ったら直ぐに辞めれるホワイト戦隊。……まぁ高校生になったらそこそこの報酬もでるし続けるつもりでいるけど。




 ただ……一つだけ我慢しなければいけないことがある。それは「彼氏が余りにも出来なくなる」ということ! 小3までモテていた私だが、魔法少女を始めた小4からは何故か「厨二病女」と罵られるようになった。決めポーズがダサかったのか、言動が厨二病風情になってしまったのか原因はさておき。当時はそれでも良かったものの、高校生になってからを考えると少しだけ我慢しなければならないところではある(私の先輩はうまく隠し通せているようだが、私がそんな器用なことをこなせるとは到底思えない)。

 ツッコミ役であったがち猫(命名私)も新人育成委員会に所属して初の研修に出ているし、私一人このノリで悪魔を倒すなんて小っ恥ずかしくなってくる。



 「はぁ……なんか最近不調だし良いこと無いなぁ」




 ――と、不貞腐れているとピコン、ピコンとカバンにつけていたバッチから機械音がする。これは緊急事態だから早くいかなくては! 私は駆け足で坂を降りていき、目的地へと向かった。

 




 「っはぁはぁ……待たせたわね。悪魔c!」




 私がビシッと悪魔を指差すと、悪魔は指を指さないと私を注意した後にコホンと咳払いをした。悪魔の掴む手の先には人質であろう小柄な男の子がいる。此の儘では彼が危ないが、先ずは様子見からだ。マジで悪魔のノリについていけなければ悪魔は何をしでかすかわからないし普通に機嫌が悪くなる。それだけはご勘弁だ。



 「あぁずいぶん待ったぞこの小童め! 一体何をしておったのだ。まさか私から逃げられるとでも思っていたのではあるまいな」


 「いや普通に学校の図書館で宿題をしていました。君と遊ぶ為にね!」


 そう言って攻撃を仕掛けようとしたが、悪魔はひらりと身をかわしてしまった。それを悦んでいるのか、やや調子乗った様子で此方を煽ってくる。



 「おやおやどうしたのかな魔法少女君。君はもしかして雑魚雑魚の雑魚ちゃんかい? こんなひ弱な俺を倒せないとはねぇ〜」



 「いやそこ自分のこともひ弱だって言うんだ……」



 私は悪魔の言葉に耳を傾けて間髪入れず返すけれど、未だに倒せそうにない。普段だったらふつーに会話するだけで悪魔の能力値が下がるのに〜! もしかしてアプデでも入ったのだろうか。 


 そうこう言っている間に人質の男の子は解放できたが、肝心の必殺技を相手に打つことができない。何回も治癒魔法や攻撃魔法を使ったからか必殺技のダメージ量が少ないのかもしれない。



 「ハッハッハッ 貴様此処までなのか? 意外と骨があって楽しかったあんちゃんだったけどなぁ」


 「……くッ、あと一撃で倒せそうなのにっ!本当、私を小童とかあんちゃんとか毎回違う名で呼ぶなんて、キャラブレブレ過ぎるわね!」


 「もう終いだな」




 悪魔が私のそばによって、私を取り囲もうとする。私はそれをただただ目で追うことしか出来なかった。

 悪魔の言う通り、魔法少女は一度負けたらもう終わり。くッ、此処まで、か――高校生でバイト代わりに稼ぎたかったのに。

 私の思いとは裏腹に悪魔はニヤリと気持ち悪い笑みを浮かべて此方へと一歩二歩と近づいて来る。まぁ、私を取り囲んでも人質までは追わないだろうしせめてもの救いだと諦めていた丁度その時――四枚の緑の葉が太陽に照らされてとても良く輝いた。



 「っえ?」



  私が気づいたときには悪魔はもう既に焼き尽くされていた。どうやら人質になっていた男の子が取り出した四葉が、太陽に当てられることで悪魔を燃やしたらしい。いや凸レンズで日光の日差しを集めた訳じゃないし……と突っ込む前に、悪魔はもうグワァアアアアアアと呻き声をあげながら消滅していっている。ホッとしたような、何やねんこの結末と思いつつ彼の方を見上げると、彼は少々荒い呼吸を整えながら安心したようにニコリと微笑んでいた。



 「ぐっ……ぐうかわ。何だこの生き物は」



 私は彼の様子に悶えながら起き上がると、彼の肩に手をおいた。彼が悪魔退治に関わったことがバレれば私は処分がなされるだろうが、今はそんなことは二の次だ。先ずは彼の体調を気遣って、彼にこの件を秘密にしてもらわなければならない。



 「っあ……」

 


 彼の小さい不安そうな声色に、私はどう言葉を掛ければ良いかわからず、息を吸った。取り敢えず、強い言葉は掛けず、感謝を伝えよう。



「結局君に助けられちゃった、有り難う」




 「いえ、僕は最初捕まっていたので……助けて下さり有り難うございました」



 「いえいえこちらこそ〜怪我はない?」



 彼に怪我がないことが確認できると、私は彼に背を向けて一目散に帰ろうとした。が、彼に手を捕まえられると、驚いたようにそのままもう一度彼の方を見る。


 

 「……どうしたの?」


  彼はパクパクと口を動かして、言葉を選んでいるようだったが、軈て意を決して私の目線をジャックする。



 「あの、貴方は」



 「紗友莉だけど?」



 「紗友莉さんは未だこんな危ない仕事を続けるんですか」



 「……続けるよ。私にとって魔法少女になることは昔からの憧れだったし、それに」


 「それに、君みたいな子をこれからも助けられると思うと、やりがいを感じられるから。趣味と似たようなもんかな」


 「そ、ですか。 僕には危険そうに見えてとても賛成はできませんが。でも、確かに貴方が輝いているように見えました」



 「良かったら貰って下さい」と彼から手渡されたのは、先程悪魔を退治に使ったであろう四つ葉のクローバーだった。四つ葉のクローバーをまじまじとみたのは何年ぶりだろうか。こんな嬉しい日もあるもんだと、私はこのとき、ほんの小さな幸せを噛み締めていた。












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