K製薬に内定をもらった件~24卒の叫び

雪阿メイ

第1話 希望と絶望



 ---誠也さんのますますのご活躍をお祈りしております---

 またしてもお祈りメールが届いた。これで何通目だろうか……。俺は小林誠也、絶賛就活中だ。


 もう三十通もの落選通知が届き、溜め息が漏れる。同じ大学の友人たちはもう内定をゲットして、遊んでいる。しかし、俺にはその幸せな時間がまるで手の届かない場所にあるように感じられる。


「こんなに努力してるのに、何が悪いんだろう……」俺は自問自答するものの、答えは見つからない。何度も企業研究して、何度面接練習したのに一向に内定がもらえない。


 日が沈むにつれ、部屋の窓からは遠くの街の明かりが見える俺の心は不安で絡まり、未来への道はますます見えにくくなっていた。果たして、この先どうなるのだろうか……。


 ピロン!

 カバンの中で眠っていたスマートフォンが、通知音を響かせた。


『一次面接通過のお知らせ』


 その瞬間、俺の手がカバンから離れたままで止まった。驚きと喜びが胸を満たし、俺の表情は一気に明るくなった。


「一次面接通過! やったあ! しかも、ここは大手企業の会社だよね!」と、俺は自分の感情を抑えきれず声に出して叫んだ。一時の喜びと安堵が心を満たしていた。


 新たな可能性が開けたような気がして、俺の心は高鳴っていた。果たしてこの先、どんな展開が待っているのだろうか。そんな思いに浸っていると、再びスマートフォンの通知音が鳴り響いた。思わず手に取って見ると、今度は電話の着信だ。


 今度は電話の着信があり、俺は元気よく電話に出た。


「やほー! 誠也~就活どんな感じ?」と、彼女の美優からの声だ。彼女の声は心地よく、まるで天使のようだった。この声だけで三発はヌける。


「実はK製薬の一次面接通過したんだ」と、俺は興奮気味に伝えた。


「ほんとに! すごいね!」美優の声には喜びが溢れていた。美優の存在は、俺の心をいつも癒してくれる。

「凄いじゃん! 流石誠也! 凄いよ!」美優の声には感激と応援の意味が満ちていた。


「いや、まだ一次面接だし……それに美優はもう内定貰っているだろ」


「誠也もうそろそろ時間がヤバいかも……」


「う、うん。電話ありがとねなんか美優のおかげで元気出た」


「そう良かった! じゃあまたね」


「うんまたね!」


 彼女との癒しの時間が終わってしまった。しかし、美優と話したことで自信が湧いてきた。


 俺はその勢いのまま、K製薬の面接を順調に受けていった。そして、その結果、内定を頂くことができた。


 長い道のりを経て、ついにその時が訪れた。


 俺はK製薬から内定をもらったことを家族に報告した。父と母は大喜びで、俺の頑張りを称えてくれた。彼らの笑顔が何よりも嬉しかった。


 さらに、おじいちゃんとおばあちゃんも内定の知らせを聞いて大喜びした。二人はK製薬のサプリメントを買い始め、健康的な生活を送ることに意欲を燃やしていた。


 この一報で家族全員が幸せで包まれた。そして美優も自分が内定貰った時よりも喜んでくれた。

 数か月後、新社会人としての一歩を踏み出すことが待っていると胸を躍らせながら、俺は未来に期待を寄せていた。しかし、その期待とは裏腹に、現実は容赦なく変化していった。


 大学時代、長い間オンラインで学んできた俺にとって、社会人生活は新たな挑戦と楽しみがいっぱいだと思っていた。やっと直接人と交流し、現場で経験を積んでいくことが楽しみだった。


 しかし、K製薬のサプリメントに使われている物質が有毒だという事実が明るみに出た時、俺の世界は一変した。


 内定を喜んでいた矢先に、衝撃のニュースが飛び込んできた。メディアが騒ぎ立て、商品の安全性が問われる中、K製薬は大きな打撃を受けていた。


 家族も驚きと共に、心配の表情を浮かべた。父は怒りを抑えきれず、母は心配そうに俺の手を握った。

 おじいちゃんとおばあちゃん何度も飲んでいたK製薬のサプリメントに疑問を抱き始めていた。


 そして数日後、事件は急展開した。報道が伝える死者の数は増え続け、その中には俺の身内からも名前が挙がった。そう、俺のおじいちゃんとおばあちゃんも、突然襲ってきた腎臓の異常で入院することになり、そして亡くなった。


 この衝撃のニュースを聞いたとき、俺はどうすればいいのか分からなくなった。まさか自分の内定先がこんなことに関わっているなんて、ただただ絶望していると、周りに響く着信音が俺を現実に引き戻した。美優からの電話が響いた。その時、彼女の口から放たれた言葉は、まるで氷のように俺の心を凍らせた。


「誠也、別れよう……」


 突然の事に、俺は言葉を失った。


「な、なんで……」


「だって誠也、人殺しの会社に入社するじゃん! そんな人とは付き合いたくない」


「いや待って‼ 俺は関係ない!」


 しかし、電話の向こうからは無慈悲なブチッという音が響き、その瞬間、俺の心は砕け散った。


 ああああああああ! 俺はどうしたらいいんだ! 本当にどうしたらいいんだ!


 もう三月だから内定辞退もできない。大学二年間病原菌で学生生活を棒に振って、その結果がこれとか……


 俺がこんな会社に入らなければ……おじいちゃんとおばあちゃんは死なないで済んだのに。それに美優とだって……


 突然の事態に対する絶望と自責の念が、俺の心を苦しめていた。眠れぬ夜が続き、どんなに考えても答えは見つからなかった。

 そして絶望感に押しつぶされながら明日俺は社会人になる。

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