第38話 第三回魔物会議

 

 食後に皆でお話していたら、ドワーフさんへのお土産を思い出した。


 ヴァイア姉ちゃんのアドバイス通りにニア姉ちゃんにそのことを相談したけど、小銅貨三枚じゃ買えるお酒はないみたい。お酒ってお高いものだったんだ。


 色々あってフェル姉ちゃんがドワーフさんへのお土産を買うことになった。買うお酒は「ドワーフ殺し」っていう、ちょっとお土産としてどうかと思うお酒だった。でも、よく聞いたら、ドワーフさんが死んじゃうくらい美味しいお酒って意味みたい。安心。


 アンリがフェル姉ちゃんにお金を渡そうとしたら、アンリの心意気に打たれたからお金はいらないって言いだした。フェル姉ちゃんが五割増しで格好よく見える。


「フェル姉ちゃんが恰好良く見える……!」


「いままでどう見えていたのか言ってみろ。怒らないから」


 それは言わぬが花。普段から格好良く見えるけど、それを言っちゃうのは粋じゃない。


 ヴァイア姉ちゃんとディア姉ちゃんがお仕事に戻るみたいだからお開きになった。皆で宿の外へ出ると、二人はそれぞれ雑貨屋さんと冒険者ギルドへ戻っていった。


 残ったのは、アンリとフェル姉ちゃんとリエル姉ちゃんだけだ。


 フェル姉ちゃんが一度伸びをしてからアンリ達のほうを見た。


「よし、次は畑に行こう」


「正直なところ、畑を案内されても困るんだが、暇だから行ってやるぜ」


「今日は会合を開く日。そろそろ時間だから早く行った方がいい」


 と言っても、ついさっき決まったことだけど。皆を待たせるのも良くないから早めに行きたい。


 フェル姉ちゃんは不思議そうな顔をしているけど、そのまま畑のほうへ歩き出した。リエル姉ちゃんも歩き出したから一緒について行こう。


「村を案内してもらってるけど、いい男がいねぇなぁ。畑にはいるといいんだけど」


 リエル姉ちゃんが小さな声でそんなことを言っている。


 そういえば、ディア姉ちゃんもこの村にはいい男がいないとか言ってた。少し前にイケメンっぽい兵士さんがいたんだけど、夜盗を連行するためにリーンへ戻っちゃったからもういない。リエル姉ちゃんはタイミングが悪い。


 そんなことを考えていたら畑についた。


 畑では皆が畑仕事をしている。


 基本的にこの村は自給自足だっておじいちゃんが言ってた。お塩とかは他から買わないといけないみたいだけど、それ以外は何とかなるみたい。川で魚も取れるし、森にはワイルドボアもいるから肉類も結構豊富。


 夜の森は危ないみたいだけど昼間ならそれほどでもないから、この村はそんなに悪い場所じゃない。でも、たまに来る商人さん達はよくこんなところで暮らせるね、とか言ってた。


 よくわからないけどそういうものなのかな?


 でも、フェル姉ちゃんが来てからこの村はものすごく面白いと思う。いつの間にか畑も広がっているし、村の広場ではスライムちゃん達が踊ったりしながら練り歩いてる。もっともっと面白くなりそうな気配を感じるんだけどな。


 考え事をしていたら、いつの間にかフェル姉ちゃんがおじさん達と話していた。


 あれ? なんだか会合の話になってるみたい。おじさん達は魔物会議のことを知らないのに。


 フェル姉ちゃんはアンリのほうを見て不思議そうにしている。これはちゃんと教えておかないと。


「フェル姉ちゃん、会合はあっち」


 ひまわりちゃん達がいる畑を指す。あのあたりでいつも魔物会議をやってる。よく見るともう集まってるみたいだ。早速始めないと。


 フェル姉ちゃんはちょっと顔をしかめてから、おじさんに「邪魔したな。向こうに行ってみる」と言って歩き出した。


 皆がいるところへ来ると、フェル姉ちゃんはドワーフさんと話を始めちゃった。


 アンリは魔物会議の準備を始めないと。


「遅くなっちゃったかな?」


 ジョゼフィーヌちゃんが首を横に振って否定してから地面に文字を書き始めた。


『問題ありません。お立ち台として木箱を用意しました。こちらで挨拶をお願いします』


 いつも思うけど、スライムちゃん達はみんな優秀。必要なものが必要な時に用意されている。


 でも、さっきから気になることがある。


 この緑色のスライムちゃんは誰だろう? フェル姉ちゃんが魔界から呼んだのかな?


「なぜ、スライムちゃんが四匹いる?」


 フェル姉ちゃんがジョゼフィーヌちゃんに詰め寄ってる。何をしゃべっているのかは分からないけど、どうやらフェル姉ちゃんも知らなかったみたい。


 緑色のスライムちゃんが一歩前に出てきて、アンリに頭を下げてきた。そして地面に文字を書く。


『マリーと申します。以後お見知りおきを』


「マリーちゃんって言うんだ? 私はアンリ。これからよろしくお願いします」


 アンリも頭を下げる。その後マリーちゃんはフェル姉ちゃんに挨拶していた。それ以外にも色々話をしているみたいだけどそれはよく聞き取れない。


 ジョゼフィーヌちゃんが木箱を持ってきてくれた。うん、そろそろ始めよう。


 木箱の上に乗って背中の魔剣を掲げる。


「第三回魔物会議を始める」


 皆が拍手をしてくれた。うん、三回目にして結構いい感じ。


 スライムちゃんが看板に字を書いた。どうやら新しい住人の自己紹介を始めるみたい。最初はドワーフさんだ。


「あー、儂はグラヴェじゃ。村で鍛冶師をやるつもりじゃが、まだ工房がない。それができたら色々作るから何かあれば言ってくれ……儂の言葉は通じてるんじゃよな? 言っておくが、ドワーフは魔物じゃないぞ? あと、言葉も分らんから筆談で頼む」


 アンリくらいの背丈に髭もじゃのドワーフさんはグラヴェって名前みたい。グラヴェおじさん……だよね? 多分、結構な歳だとは思うんだけど、もしかして若いのかな?


 次は女性の人だ。二十前半くらいで、茶色の髪を三つ編みにしてる。結構美人さんだけど普通の人に見える。魔物さんなのかな?


「シルキーです。炊事、掃除、洗濯が得意です。ちなみに二日間何もしないと体が震えてくるので、どこでもいいから掃除をさせてください。なんでもしますから!」


 何かの病気なのかな?


 あれ? シルキー姉ちゃんの言葉が分かる? 普通の共通語をしゃべったのかな?


 こういう時は質問だ。元気よく手を上げると、シルキー姉ちゃんは微笑んでから「ご質問ですか?」と聞いてくれた。


「シルキー姉ちゃんは魔物なの? 言葉も分かるし、普通の人族に見える」


「はい、私はシルキーと呼ばれる妖精の一種ですね。一応魔物枠ですが、人型なので共通語を話せます。ちなみに魔物言語も使えますよ……シルシル」


 皆が笑った。何か面白いことを言ったのかな? 多分だけど、生麦生米生卵って言った気がする。


「すごい、それならみんなの通訳もできるってことだよね? アンリは地面に文字を書いてもらったりしてるけど」


「あー、できますね。魔物の皆さんも人族と働いているので必要であれば通訳をやりますよ。でも掃除や洗濯もさせてください! ところで宿にいるニアさんって何者ですか? あんなに美味しい料理を作るなんて私に対する挑戦ですかね? 負けませんよ!」


 ニア姉ちゃんに勝つにはかなりの腕前がないとだめだと思う。シルキー姉ちゃんも料理が得意なのかな?


 それと、エリザベートちゃんとシャルロットちゃんが不敵な笑みをしている。掃除とか洗濯に反応したみたい。


 とりあえず、シルキー姉ちゃんの自己紹介は終わった。でも、次も普通の女性に見える。


 ちょっと心配になるくらいに肌が青白い。黒い髪がおなかのあたりまで伸びてるし、このお姉ちゃんも魔物なのかな?


「初めまして! バンシーです! 吟遊詩人になるのが夢です! シャウト系の歌が得意ですけど、バラードも行けます! 歌が必要になったらいつでも言ってください!」


 思いのほか明るかった。しかも笑顔が素敵。吟遊詩人といえば、こう英雄みたいな人とかを詩にする人だった気がする。


 また質問があるから手をあげる。バンシー姉ちゃんは笑顔でこっちを見てくれた。


「バンシー姉ちゃんも魔物さんなの? シルキー姉ちゃんと同じように言葉が分かるし、普通の人族に見える」


「はい、私もバンシーという妖精の一種ですね。たまーにアンデッド枠と間違えられますが、正真正銘人型妖精枠ですよ! まあ、人の死期が分かると叫びたくなっちゃうので、そういう部分がアンデッドっぽいんでしょうね……これは本能なんです!」


 見た目の問題だと思うんだけど、違うのかな? でも、バンシー姉ちゃんは妖精枠ってことで理解した。でも、気になる。さっきからマンドラゴラちゃん達が目の敵のようにバンシー姉ちゃんを見てる。ライバル的な関係なのかな? 叫び枠?


 次はキラービーちゃんだ。アンリくらいの背丈の蜂さん。全体的に黄色い。


「ハチハチブーン」


 残念だけど何を言ってるか良くわからない。キラービーという種族でクィーン種って言ったのかな? それとハチミツの研究をしているって言った気がする。


 アンリはちょっと困った顔をしていたんだと思う。シルキー姉ちゃんが通訳してくれた。すごく助かる。


 やっぱりアンリが感じたとおりのことを言っていたみたい。もしかしたらアンリも魔物言語を理解できるようになってきたのかも。


『ハチミツを作りたいので花が欲しいのですが、ありますか?』


 キラービーちゃんがそういうと、フェル姉ちゃんが質問した。


「ハチミツを作るのに花が必要なのか?」


 ハチミツって花の蜜から作るんじゃなかったっけ? おじいちゃんからそんなことを教わったことがある。あと、ハチミツはクマが好物だって教えてもらった。


『ハチミツを作るのには花の蜜が必要なんです』


 シルキー姉ちゃんの通訳で、アンリが教えてもらったことは正しいと証明された。キラービーちゃんはハチミツを作るんだ。それは素晴らしいことだと思う。全面的に支持したい。


「なんだ。じゃあ、ハチミツじゃなくて、ハナミツじゃないか」


 フェル姉ちゃんがそう言ったら、キラービーちゃんがフェル姉ちゃんに詰め寄った。


『あれはハチミツなんです! 原料は花の蜜ですが、蜂が集めるからハチミツなんです!』


 目に涙を溜めて訴えてる。うん、アンリもそう思う。花の蜜を蜂さんが集めたからハチミツ。花だけじゃ作れない。


 フェル姉ちゃんも理解したのか、首を縦に何度も振っている。そしてヒマワリさんやアルラウネちゃんのほうを見た。


「花の蜜なら、ヒマワリかアルラウネからもらえばいいんじゃないか?」


 良く分からないけど、ヒマワリさんやアルラウネちゃんが下を向いて震えている。マンドラゴラちゃんがそれを慰めている感じだ。


「えっと、どうかしたの?」


 シルキー姉ちゃんに聞いてみたら、「セクハラ案件です」と言われた。なにがどうしてそうなったのかは分からないけど、植物さんからすると、蜜を取られるのは嫌な行為みたい。アンリも気を付けよう。でも、ヒマワリさんの種は欲しいな。そう言ったら、パワハラになるかな?


 とりあえず、フェル姉ちゃんの謝罪で事なきを得た。その後、フェル姉ちゃんはちょっと離れた場所の岩にリエル姉ちゃんと一緒に膝を抱えて座っちゃった。


 とりあえず、自己紹介は終わりなのかな。議題はここまでなのかも。


 そう思ったら、ジョゼフィーヌちゃんが手をあげた。そして看板を掲げる。


『住居についての案、募集』


 住居? シルキー姉ちゃん達が増えたし、近くにある小屋だと狭いのかな?


 皆が色々な意見を出している。ここはアンリもボスとしてなにか意見を出さないと。


 ……そうだ。魔物の住処といえばダンジョン。昨日教わったダンジョン学でそんな話を聞いた。


「魔物と言えばダンジョン。ダンジョンは作れない?」


 アンリの言葉に皆が驚いてくれたみたい。よし、この線で皆の住居を何とかしよう。

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