第20挑☆でもデモだって助けたい! 蕾の勇気

 私の名前は蕾。ヘーアンの国の農家生まれ、農民育ちの14歳。




 小学生のころから大切な友達だった藤花が、赤鬼と関根というプレイヤーに誘拐された。藤花のパパは大統領。誘拐犯が大統領につきつけた要求は、




「明日の夜までに、国民ひとりひとりに100万ゴールドを返し、米の売り上げの90パーセントを国民の取り分とする法律を定め、世界に向けて発表しろ」




という内容だ。




 でも、何時になっても大統領が要求を飲んで実行する気配がない。




 私たちに100万ゴールドなんて返ってきていないし、米の売り上げの配分に関する話もまったくなし。




 かといって、藤花が助け出されたって話も聞こえてこない。




 私は自分の家で、チョーとカイソンたちが戻ってくるのを待っていた。あの二人なら、藤花を助けてくれるかもしれない。




 お願い、早く戻って来て。




 祈りながら一晩を過ごして、次の日はそわそわしながら農作業をしていた。藤花や、チョーたちのことが気になって、仕事どころじゃなくて。




 なんで、一晩経ってもチョーたちは戻ってこないんだろう。まさか、殺されちゃったとかじゃないよね?


 あの二人、簡単には死ななさそうだもん。苦戦してるのかな。モコも戦っているのかな。




 藤花は痛い思いとかしていないかな。もう、怖い思いはいっぱいしているよね。早く助け出されてほしい。




 大統領は、何をやっているんだろう。藤花の救出部隊が出てるみたいだけど、全然助けられてないじゃん。


 誘拐犯の要求を聞き入れないと、藤花を殺すって言われているんだよ? あの犯人、藤花のマネージャーのこと、あっさり殺したし。人を殺すことにためらいはなさそうだったし。なのに、なんで要求を聞き入れないの?




 ……なんか、同じことをずーっと考えてる。私、このまま農作業して待っているだけでいいのかな。私にできることは、何もないのかな。




 私は、作業を中断してお父さんのところに行った。




「お父さん、私、もう待っていられない」




 お父さんは額から流れる汗を拭きながら、




「まあ、待ちなさい。私たちにできることはないだろう」




「でもっ。……でも」




 チョーが言ってた。




「なんでも無理って決めつけんなよ」




 ……って。




 私にできること……そうだ!




「お父さん、私、大統領の屋敷に行ってみる」




「何を言っているんだ。行ったところで何が……」




「一人じゃないよ。できるだけたくさんの人に声をかけて、みんなで行くの。きっと、みんな、藤花のこと心配してる。藤花を助けるために、できることをしたいの」




「……デモか」




 お父さんは難しい表情になった。「そんなの無理だ」って言われるかもしれない。でも、もう、黙って待っているなんてできない。本当にあきらめたらダメなことだってあるんだよ。




「お父さんっ」




 お父さんはしばらく考えたあと、うなずいた。




「よし、わかった。お父さんも協力しよう」




「えっ」




「手分けして、できるだけたくさんの家を回って声をかけてみよう。大統領のやり方に不満を持っている人間もいるはずだ。そういう人たちに事情を話せば、いっしょに大統領の屋敷に行って、声をあげてくれるかもしれない」




 お父さんの表情が、生き生きしている。いつもの、何もかもあきらめている感じの、疲れた表情じゃない。なんか、頼もしい!




「うん!」




 私はうなずいた。




「じゃあ、蕾は屋敷より西側、お父さんは東側の家を回ろう。みんなを連れて、18時に大統領の屋敷前に集合だ」




「わかった!」




 私たちは田んぼから出て、畦道を走り出した。




 近所のおじちゃん、おばちゃんはもちろん、知らない人の家にもどんどん声をかけていった。




「すみません! ちょっと話を聞いてもらえませんか」




「ヘーアンフェスティバルで大統領の娘の藤花が誘拐されて……」




「大統領に、誘拐犯の要求を聞いてもらって、藤花を助けたいんです」




「大統領に話すの、協力してもらえませんか」




 近所のおじちゃん、おばちゃんは、




「そんなことになっているのかい」




「蕾ちゃんの頼みだ。もちろん聞くよ」




「私でよければ協力するよ」




 と、快く聞いてくれた。




 でも、会ったこともない、話したこともない人には、簡単に聴いてもらえないかもしれない。走って、声をあげても、無駄かもしれない。




 不安だった。こんな私の声が届くのか、とても不安だった。




 でも、それよりも藤花を助けたい気持ちが強かった。




 私はずっと、藤花に背中を向けて来た。藤花に嫉妬して、勝手に嫌になって。藤花の顔を見られなくなってた。




 でも、フェスティバルのときだって、藤花は私を追いかけて来たんだ。私と話そうとしてくれてた。




 藤花への嫉妬心で、わからなくなっていた、私の本当の気持ち。




 私はもともと、藤花が大好きで、いっしょにいて楽しくて、幸せだった。藤花は大切な友達なんだ。




 ただの農民の私なんかじゃ、話を聞いてもらえないかもしれないけれど、藤花のために、あきらめたくない。




 できることを、精いっぱいやるんだ。




 そうして、18時まで駆けずり回った結果。




 大統領の屋敷の前に、およそ2000人の人たちが集まった。




 声をかけた人が、さらにほかの人に声をかけてくれて。私やお父さんだけでなく、たくさんの人たちがそれぞれに協力者を呼んでくれた結果だ。




 画用紙に、




「誘拐犯の要求を飲め!」




とか、




「藤花を助けろ!」




とか、書いて持っている人もいる。




 大塗料の屋敷の門の前で、私とお父さんは合流した。




「お父さん、みんなが……っ」




「ああ。みんな、来てくれたな」




 お父さんの目が輝いている。ほっぺたも赤くなっているし、こんなに興奮しているお父さん、見たことあったかな。でもきっと、私も同じ顔をしている。




 私たちは大統領の屋敷に向かって、声を合わせて叫んだ。




「藤花を助けろー!」




「誘拐犯の言うことを聞けー!」




 屋敷の門の前に、警備の人たちが集まってきて、私たちを押し戻そうとするけど、私たちは引かなかった。




「おい、お前らやめないか! やめんと撃つぞ」




 警備員が脅してくる。拳銃をちらつかせてくる。でも、負けるもんか。




 みんなも同じ気持ちだ。




「撃てるものなら撃ってみやがれっ」




「藤花さまを助けろって言っているだけだ!」




 大人の男たちと警備員がもみ合いになる。大人の男たちが警備員を殴ったり蹴ったりしている。




「やめろっ、やめんか!」




 警備員の一人が、空に向かって発砲した。




 すると、一瞬、みんながしんとなった。




 ……。




 ……あれ?




 ……なんか、飛んでくる。




 プロペラの音?




 私は太陽が傾いてきた空を見上げた。




 一機、ヘリコプターが飛んでくる。こっちに向かってる。




 大統領の屋敷内から、ヘリコプターを撃ち落とそうとミサイルが発射された。ヘリコプターからもミサイルが発射されて、空中で相打ちになり、大きな爆発音が響いた。




「わあっ!」




 私たちは思わず身をかがめた。




 ヘリは屋敷内からの攻撃にかまわず、こっちに向かってくる!




「……あれ?」




 ヘリから縄梯子が降りた。梯子に手足をかけて降りて来たのは。




「チョー⁉」




「蕾~! すげーじゃねえか、この人だかり! いったいどうしたんだ?」




「どうしたんだ、じゃないわよ! そっちこそ、どうなってんのよ!」




「今からもう一回大統領と話してくるわ! 待ってろよ」




 えっ。




 今、ヘリの搭乗口からちらっと見えたのって、藤花⁉




 と、カイソンだけじゃなくて、藤花を誘拐した奴もいなかった?




「いったいどうなってんの……」




 ヘリは屋敷内の敷地に降り立とうとしている。




 この状況で、おとなしく待ってなんかいられないよ!




 私は、ぽかんとしている警備員に向かって叫んだ。




「中に入れて!」




 私の叫び声で我に返ったのか、まわりのみんなも、




「そうだ、中に入れろ!」




「大統領を出せ!」




と、次々と声をあげた。




 私たちは一丸となって、警備員のガードを押しのけようとした。




 どのくらい押し合ったのか。




 ふいに、大統領の屋敷の門が開いた。




 私たちは屋敷の敷地内になだれこんだ。




 屋敷の庭には、何人か倒れている警備員がいる。チョーたちがやったのかな?




 きっと、チョーも藤花も屋敷の中だ。




 みんなで屋敷をぐるりと取り囲み、どこからでも侵入できる態勢を整えた。私は、玄関の前にいる。ここの警備員も倒れている。




「藤花、今、行くからね」




 私は勢いよく玄関の扉を開けた。


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