第9話

 「大変申し訳ございませんでしたっ!」

 私は地に頭をつけてレイ様に謝った。ボディーガードが警護対象から目を話すなんて、一番やってはいけないミスだ。 

 「いいから顔を上げろ。」 

レイ様はそう言ってくれたが、この声は絶対に怒っている。 

 恐る恐る顔を上げると…。 

「ケガはないか?」 

レイ様は私の心配をしてくれているようだった。 

「私は別に…。」 

レイ様に優しくされて、私はまた浮かれてしまう。チョロいぞ私…! 

  

 その後私は、レイ様を壁際に寄せて彼を守るようにして立った。 

「まだ油断はできませんので、レイ様はここから動かないでください。」 

 私は左右に意識を向けて、まだ追ってくるかもしれない敵に警戒した。 

 

「なあ…。さっきの言葉をお前はどれくらい覚えているか?」

後ろからレイ様は私にそう尋ねてきた。 

「さっき…?ああ、『魔王をかばうのか』ってやつですか?」

頭がおかしくなると、人はヘンな思考回路ができるのだなと思った。 

「お前も、俺にずっと警戒していたから気づいていただろう?」 

別に警戒はしてない。というかちょっと待て。と言うことは…。 

「もしかして、レイ様…。」 

「そうだ。俺がこの世界の魔王だ。」 

レイ様は後ろからそう言った。 

  

 なるほど、だからこいつの身が狙われているのか。私は納得した。同時に私が彼の警護をするということは…。私は魔王の仲間になってしまうのか。 

 私は思わず何も言えなくなる。

 一度死んで転生して来た身なので、正直現世はどうでも良いのだが…。魔王の味方も違う気がする。 

 

「やっぱり、引くよな。じゃあ俺たちも今日でお別れだな。」

レイ様はそう言った。 

 前を警戒しているから、レイ様の顔は見れないけれど、悲しんでいることが声でわかる。 


「別に、嫌だなんて一言も言ってないですけど。」 

私は、前を向いたまま言った。 

「私はあなたのボディーガードです。契約期間が切れるまではあなたの警護をいたします。たとえそれが悪の根源でも、私には関係ありません。」 

 

 だって、私を女の子扱いしてくれるなんて、魔王しかいないから。

ちょっとでも長くレイ様の警護をしていたいと思った。 

 

 たとえ私が世界の敵になっても。  

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