8️⃣
「アタシ、自由が欲しいの。そのためにはリーロンと婚約しないといけないの。だから、アタシのために死んで?」
「なに、言ってやがる……気でも狂ってんのか……?」
「そうよ、アタシは
真っ赤な瞳の中に、ハートの紋様がある。その瞳から目が離せなくて、この少女が己を殺そうとしていることを理解しているのに身体が動かない。
「——だ、れが……だれが、誰が! 誰が死んでやるか!」
やっと、俺が言えたのはそんな喚き文句だけだった。少女は「だよね」とあっさり俺の文句を受け流す。
「だからさ、一騎打ちをしようよ。正々堂々、手段を選ばず。アタシを殺せばアナタは生きる、アタシに殺されればアナタは死ぬ。
戦い方の手段は問わない。ただ、
“王”と、少女はリーロンを視線で示す。そして彼女は左の姫袖の中から何かを取り出した。否、何かが
それは2mは超えるかと思われる白皮の大蛇だった。今のマリアと同じ
「——リコリス」
マリアが呟いた。その声で大蛇は瞳を閉じ、その身体は刀に変わる。マリアはその柄を掴み、刀を持ち上げた。
「「はっ?」」
俺の声と、ガゼボに居た青年達の声が重なる。大蛇が変身しマリアが掴みあげたその刀は、刀身が2mほどあるペラペラの刀だった。刀、なのかもわからない。その刃はリボンのようで薄っぺらく、重力に負けて殆どが地面に着きっぱなしだ。これはなんだ、と俺は思った。きっとガゼボに居る青年達も同じことを思ったに違いない。
「アタシは魔法を使いません。アタシの魔法は魔神の力を借りたものだから、使ったら
リコリスはアタシの身体に住まう大蛇。ご覧の通り刀になれます。この刀だけで、アナタを殺します」
勝てる。俺は確信する。この女は自らあの強大な力を手放した。驕りだ、だがその驕りを上手く利用してやる。
そもそも、あんな刀でどうやって相手を攻撃しようと言うのか。マリアの背の高さと腕の長さでは、刀を構えることすら出来ないだろうに。どうしてあんな刀で戦おうと思ったのだろう。
いや、簡単だ。考えるまでもない、あの娘は少しでもリーロンの気を引こうとしているのだ。わざわざリーロンの目の前で“一騎打ち”なんてパフォーマンスをして、少しでも“王”と呼んだリーロンに気に入られようとしている。この女はリーロンとの婚約に拘っているようだし、その可能性は大きい。
だが、その小細工と驕りを上手く利用させてもらおう。この場を切り抜ければ、またあの煙臭い酒場に戻れるのだから。日銭を稼ぐ日々でも、ここに居るよりは余っ程良い日常に戻れるのだから。
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