叶わぬ恋と身体。

あまたろう

本編

 俺はつい今しがた、姫の部屋に招き入れられた。

 それとともに従者が部屋の外に追い出された。

 従者は困ったもんだという顔を浮かべて部屋をあとにする。


 第二王女という肩書の彼女は、俺などが気軽に部屋に入っていいような存在ではなく、どう考えても身分不相応である。

 しかし彼女は安心しきっており、かなりラフな部屋着……というよりは、レースのワンピース姿というかなり煽情的な服装である。

 化粧っ気がなくても国内一といわれる美貌を持つ王妃の遺伝子を存分に受け継いだ端正な顔立ちと、見る者みな吸い込まれてしまいそうな知性と母性を兼ね備えた大きな瞳、何物にも染まらないという決意すら感じさせる白銀色の髪は魔性を帯びているかのようだ。


 俺も雄であるから当然そんな姫に並々ならぬ好意を寄せているのだが、それを知ってか知らずか姫は扉を閉めるなり俺を抱きしめる。

 姫との密着を堪能しつつ、これから起こることに否応なく期待してしまう。


 姫はいったん俺から離れ、自身のベッドに腰を下ろすと俺に隣に来るよう手招きする。

 俺はというと、期待が過度に表に出ないよう気を付けながら姫の隣に座った。

 ふふ、と微笑んだ姫は、そんな俺の気持ちには構わずベッドに横たわり、俺を抱き寄せると体にキスをした。

 全身がゾクッとする感覚も束の間、姫は俺をさらに強く抱きしめた。

 俺はというと、姫の柔らかい身体の感触を生々しく味わいつつも、情けないことに手も足も出せない。


 俺は姫に体を預けることにする。

 手も足も出せないのは仕方がないこととして、俺にできるのはこの体を目一杯広げることぐらいだ。

 頭を包んでしまうといけないので、俺は姫の首から下をくまなく覆い、やさしく包む。

 俺の体温が心地いいらしく、全身を包まれた姫は吐息を漏らしながら恍惚の表情を浮かべているようであった。

 姫の身体を締め付ける力を強めたり弱めたり、時には部分的に強めてそれを全身に波のように伝播させる動きをすることで、姫は声にならない息を強めている。


 少し意地悪をしたくなって、俺は姫の敏感な部分に力を込めてみた。

 姫は一瞬体を震わせたかと思うと、もう、と抗議をしてくる。こんなやり取りも愛おしい。


 ――30分ほどそうしていただろうか。すっかりリラックスした姫は静かに寝息を立てている。

 そろそろ頃合いか、と判断した俺は、姫の全身を覆っていた自身の体を元の形に戻した。


 ……所詮叶わぬ恋だな、と思いながら、俺は姫の部屋を出る準備をする。

 といっても、自分には荷物も服もないので姫の身体が冷えないように布をかけてやるぐらいだが。

 もし俺がせめて人間だったら、身分の違いぐらい乗り越えてやろうという気も起こるが、そもそも俺が人間であれば姫とこのように関わることもできなかっただろうと思う。

 それを考えると、この関係も悪くないという風に感じる。

 姫の美しい寝顔を見ながら、この関係が長く続くことを願った。


 そこに従者が入ってくる。


「マッサージは終わりましたか、スラリン殿」


 ……ぷるぷる。

 俺は体を震わせて肯定の意を伝えた。


 姫の専属マッサージ師として王宮に勤めるようになって早や1か月。

 仕事とはいえ、姫の部屋に入ってその身体をくまなく触っていることになるので、複雑な感情を持て余していることに間違いはない。

 いつの日か、姫にこの気持ちを伝えることができれば、と思う。

 その時、姫はいったいスライムであるこの俺にどのような態度をとるのだろうか。

 そんなことを考えつつ、俺は従者にもらった報酬を体に収納して家路についた。


(おわり)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

叶わぬ恋と身体。 あまたろう @amataro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ