第40話 入学試験 模擬戦編 その一

カインを見捨てて登録を済ませてきた。


「さてと・・・ 一回戦は・・・」



 ・第一回戦 十四番


 レイド・フォン・ユーラル & エレーヌ・バイセン 


 ヤン・ケーニッヒ&ハンス


 

「貴族と・・・ 使用人ですかね?」

「聞いたことのない名前だな・・・」


「まあ、脅威になるとは思えませんね。さっさと片付けてしまいましょう」

「ああ、目指すはトップだ!」


「・・・レイド、見てください」

 エレーヌは他の選手名簿を見て困惑している様子だった。



・第一回戦 二十六番


 カイン&ロベルト


 ファブリス・フォン・ユーラル & ゲルティ・フォン・ロスコフ



(カインと・・・ 俺の兄だとっ・・・!)

 なんとカインの対戦相手はファブリス、つまり俺の兄だったのだ。


「なんでこいつがここを受けているんだよ・・・!」

「学園は十七歳まで入れますし・・・ 仕方ないことなのでしょう」


 レイドは兄のことが大嫌いだ。魔法が使えないことで散々差別されてきたからだ。


「でも、よく考えたら相手はカインだぞ? 勝てないんじゃないか?」

「・・・それは私も思いました」

 カインは近距離に向いてないが、近距離でも戦えるだろう。バイセン家の訓練は伊達じゃない。


(ロベルトってやつも知らないし、今は考えなくてもいいだろう)

 レイドはいったん忘れることにし、エレーヌと共に試合会場に向かったのだった。



 〜第一回戦〜


 試合会場に着いた。闘技場の隅にある小さな練習場所だと思われる。


「それでは、予選を開始する! 位置に着いて・・・」

 試験官がコールを始めた。

 

「っ・・・!」

「ヤン様、相手はあのバイセン家ですよ!」


 対戦相手はとても動揺しているようだ。


「レイド、まずは牽制用に大型魔法を打ち込みます。私を守っててくれますか?」

「ああ、もちろんだ」


 レイドは魔剣インテグリーを構えた。それに続いて、エレーヌも宝杖フェイスを前に出す。


「試合・・・ 開始!」

 合図が出され、エレーヌは早速詠唱の準備に入った。


「くそぉ! こうなったら!」

 ヤン、ハンスは意図を理解して、突撃してくる。近接戦闘を主軸としているのだろう。


(だが、たどり着く前にエレーヌが詠唱を終えてしまうだろう)


「Ω φλόγα... ιερή φλόγα... γίνε ο όλεθρος που καταναλώνει ό,τι του ανήκει!」


 フェイスから巨大な火球が創り出され、ヤンたちに襲いかかる!


「こんなの・・・ 無理だろおおおおおおお!」

「ボガアアアアアアンッ・・・!」

 彼らは為すすべも無く炎にのまれてしまった・・・


「そこまで! 試合終了!」

「うわあああああ! ・・・あれ? 生きている?」


 ヤンたちは自分が生きていることに驚いているようだ。


「闘技場内では、絶対に死なないよう防御魔法がかかっている。安心したまえ」

 そう試験官が答えた。


「良かった・・・ こんなのはもうこりごりだぜ」

「ヤン様、まだ敗者復活が残っています。そこで頑張りましょう・・・」


 そう言いながら試合会場から出て行ってしまった。

(なんか申し訳ないな・・・)


 レイドはそう思うのだった・・・



 それからというもの、レイドたちは圧倒的な実力で受験生たちを薙ぎ倒していた。


「Έκρηξη ... Ω οργή του ουρανού! Εμφανίσου! Δώσε μου δύναμη!」


「グわああああああああ!!」


「Εξαφανίσου! Δυνάμεις της γης, ανελέητη εκδίκηση κατά του εχθρού...!」


「どわあああああああああ!!!」


(・・・要るのか? 俺は)

 レイドが戦う前にすべて倒してしまっている。

 つまり、レイドは何もしていない。



 ついにレイドたちは決勝トーナメントまで勝ち上がった。この試合は闘技場を使い、観客有りで行うらしい。


「あ! カインとロベルトがまだ生き残っているぞ!」

「・・・では、レイドの兄は負けたのですね・・・」

「あんな奴、負けて当然だよ」


「そんなことより、次の対戦相手を確認しましょう」

「そうだな、さて、どれどれ・・・?」



 ・決勝トーナメント 第一回戦


 レイド・フォン・ユーラル & エレーヌ・バイセン


 マルク・フォン・シャロン & ベアトリス・ド・マルシャル



「・・・王族だよな」

「はい・・・ シャロン・・・ 王族ですね・・・」


 マルク第二王子、武道を重んじ剣術の達人だという。

 そんな人が相手だというのだ。


「・・・いたぞ! レイド・フォン・ユーラル!」

 急に見知らぬ男から声をかけられた。


「失礼・・・ どなたですか?」

「我はマルク! この国の第二王子であり、貴様との対戦相手だ!」


「すみません・・・ 王族とは知らずに・・・」

「そんなことより、さっきからあの試合は何だ! ずっとそこの女の影に隠れたままで・・・ 貴様は何かしないのか!」


「いや、気付いたら相手が・・・」

「そんな言い訳は通用しない! 貴様の兄も言っていたぞ! 貴様は魔法を使えない軟弱者だと!」


(ファブリスめ・・・! また変なことを言ったな!)


「次の試合は我が直々に下してやる! 女の影になんか隠れるなよ、”魔力無し”」


「・・・・・・」

 そう言うとマルクはどこかへ行ってしまった。


 レイドは怒りで頭に血が上ってきた。

「レイド、大丈夫ですか・・・? 落ち着いてください・・・」

(エレーヌの前であんなこと言われて黙っていられるか! 潰してやる・・・!)


「いいだろう・・・ 一人で相手してやる・・・!」

「はぁ・・・ 何のプライドですか? 私は貴方が強いことを知っていますよ」


「いいや、エレーヌ。これは戦わないといけない」

「王族相手にですか・・・ まあ、好きにしてください」


(ふふふ・・・ マルク、首を洗って待っていろよ!)






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