第10話 SHY×SHY①

 体育の授業の片づけを終え、校庭から駆け戻るメイは、ひとりだけ遅れていた。

「早く! 早く戻らないと、着替える時間がなくなっちゃう!」

「鈍くさいくせに、ほかのやつの用まで引き受けるからだ」

 宙をすべるようについてくる小さな破壊神が、あきれたように言う。


「でも……たのまれちゃったから」

「たまには断れ」

「しょうがないんです。次の物理、小谷さんは係で、実験の準備とかしなくちゃだし……」

「そいつはおまえが困ってる時、なにかしてくれるのか」

 辛辣な冷笑まじりのコメントに、メイは初めて、お返しをもらったことがあるか考えた。


「んー、そういえば、今まで一度も……そういうことはないかも。でも……」

「いいように使われて、満足かよ」

「はい、わりと。わたし、今までたよられることとかなかったから、それだけでうれしくて」

「おめでたいやつ」


 などとおしゃべりしながらも、気にせず走り続けていられる自分にふと気づき、メイは、あ、毎朝とろとろとでも走ってるの、ムダじゃなかったんだ! と、ほんのりうれしくなる。

 だが気分良く昇降口にたどりつき、靴箱を開けたとたん、

「!」


 固まってしまった。

 上履きの上に、ピンクの紙が載っていたからだ。

 さっき運動靴に履き替えた時には確かに、こんなものはなかった。

 授業時間中に入った、ということは──


(もしかしてこの紙も……オバケだったりして?)


 でも、どかさないと上履きを履けない。

 おっかなびっくりつまみあげたが急にはばたき始めたり、塵になる様子はなかった。

 普通の紙のようだ。

 ほっとして、あらためてよく見る。


 きれいにたたみ、自然にほどけてしまわないよう端を折りこんである。可愛い。

 だが裏表くまなく見ても、宛名もなければ差出人の名前もなかった。

「なんだ。手紙ってやつか?」

 わきからのぞきこんでくるスサノオにちょっと待って、と身ぶりして、そっと周囲を確認。


 クラスメイトはみな先に行ってしまい、昇降口にはもう誰も残っていなかった。

(わたしも早く戻らないと、一日ジャージで過ごすことになっちゃうけど……)

 我慢できず、すばやく紙を開く。

 淡い桜色の、品のいい便せんの中ほどに小さく丸い、ボールペンの文字が並んでいた。


『はじめまして。

 とつぜんのお便り、失礼します。

 どうしてもお伝えしたいことがあり、筆をとりました。


 好きです。


 読んでくれてありがとう。』


 頭が真っ白になってしまい、メイはぼうぜんと立ちつくす。

 文字を読めないスサノオが興味津々でたずねた。

「なんて書いてあるんだ?」

 返事する余裕など、あるはずもない。メイはおぼつかない手つきで便せんをもとどおりたたんでポケットにしまうと、ふらふらと教室に戻った。


 着替えもせずスマホを手に廊下に出、今日は登校していない野々宮楓にメッセージを打つ。

『お仕事中にごめん。ちょっと相談に乗ってほしいことが……』

『どーしたの?』

 ちょうど楓も休み時間だったらしい。

 すぐ戻ってきた返信に励まされ、メイはとつとつと、うそみたいな現実について訴える。


『ラブレターみたいなもの、もらいました』

『ほう!』

『どうしよう。できれば直接、見てほしいんだけど……』


 数秒おいて、楓から喫茶店の店名と所在地が送られてきた。

『今週末、土曜の晩八時。来られる?』

『行く! ありがとう!』


 そういうことになった。


        ◆


 数日後の夜、メイは野々宮楓と、おとなっぽいカフェのブース席にすわっていた。

 楓だけでなく、今日はメイも私服だ。

 おかげで、いつもさりげなくおしゃれな楓とくらべて、

(わたしってもしかして、びっくりするほどやぼったい……?)

 と自覚してしまうメイだったが、それで感謝の気持ちが目減りすることはなかった。


「忙しいのに時間とってもらってごめんね……ホントにありがとう!」

「いやいや、匿名のラブレターなんてそんなおいしいネタ、見逃せるわけないでしょ」

 楓はいたずらっぽくウィンク、上機嫌で席につくなりメニューを広げた。


「やー、ここ、ごはんおいしーのよ。楽しみー」

「えっ、野々宮さん、今から晩ご飯?」

「そ! ロケから帰ったあと、さっきまでレッスン漬け。もうおなかぺっこぺこ」


 楓は慣れた様子でホールスタッフに声をかけると、大皿パスタにサラダ、冷菜盛り合わせにケーキ二種類、コーヒーまでしっかり注文。まさか二人分? とびっくりしていると、

「メイは? なんにする?」

「えっ? あ、わ、わたしは食べて来ちゃったから……」

 言ったものの、ホールスタッフが注文を待っているのに気づき、あわててメニューを開く。


 絶句した。

 高い! 飲み物も食べ物も、コンビニの十倍以上もする。どうしよう。

「ええと……で、でもお水だけ、はお店に悪いよね。コーヒー……は飲めないし……」


「ココアもあるよ」

 楓の助け船に、

「あ、じゃあそれでお願いします」

 消え入るような声で、かろうじて注文をすませる。


 こんなお店に入るのは生まれて初めてのメイは、おどおどと周囲を見回した。

 ひかえめなBGMと間仕切りのおかげで会話の内容までは聞き取れないが、周囲は仕事モードのおとなばかり。パソコンに向かってヘッドホンで打ち合わせしている人までいる。

 メイはすっかり気おくれしてしまい、


「野々宮さんよく、こんなお店知ってるね……」

「最初は事務所の人に連れてきてもらったんだけど、気に入っちゃって」

「えー、すごい。わたしなら絶対、ひとりでなんて来られないよ……」


「あはは、それはともかくここなら地元からそこそこ離れてるし、仕事で使うお客がほとんどで家族連れとか来ないから。学校の誰かに見られる心配、まずないと思って」

「あ、それ大事」

「でしょ?」


 言って、楓はきょろきょろとあたりを見回す。ちょっと声をひそめた。

「ところで今日、あんたの神さまは? ちゃんとうちに置いてきた?」

「うん。野々宮さんと会うだけだから、って言って。納得してくれたみたい」

「お母さんは? こんな時間に外に出ちゃダメ! みたいな感じの人だったと思うけど」

「前はね。でも零課のお仕事始めてから、遅く帰ることが増えたから」

「えー、よく許してくれてるね」


 メイの両親、特に母は、零課がメイの勧誘に来訪した時、「うちの子に警察官はムリ!」と反対してゆずらなかった。


 それで、魔法のような能力者の課長が両親を「拝」み、どんな職業なら許可できますか? とたずねた上で、『幼なじみの野々宮楓のつてで、モデル事務所にスカウトされた』ということにしてしまったのだった。


 そんなわけでメイの両親は、メイはモデル事務所にスカウトされ、デビューめざして日々レッスンにはげんでいる……と信じている。


「あんまり遅くなった時とか、お母さん心配して〈事務所〉に問い合わせの電話してる。でも、零課のサポートチームにかかるようになってて、うまくフォローしてくれてるみたい」

「ふうん。じゃあ大丈夫か」

「だと思うけど……ときどき心配になっちゃう。零課のこと、いつかバレたらどうしよう」


 楓の注文したサラダが出てきた。

 大きなボウルからあふれんばかりのサラダにゆで卵、ハム、ムネ肉までトッピングされている。それをフォーク一本でテンポ良く、すいこむように食べていく楓にメイは目をみはる。


「野々宮さん、スリムなのによく食べるね! モデルさんって小食なのかと思ってた」

「んー、人によるし、コンディションにもよるんじゃないかな」

「そうなんだ?」

「あたしも運動量に合わせて食べてる。モデルって太るのは論外だけど、肉づきわるいのも意外とダメなのよ。体力いるし」


 たちまち完食したところに残りのオーダーが運ばれてきて、テーブルがいっぱいになった。

 ココアも出てきて、思わずかしこまるメイの前にきちんと置かれる。

 見ると、ココアの表面に真っ白なミルクでクマの顔が描いてあった。可愛い。


「あ、ありがとうございます……」

 蚊の鳴くような声でつぶやくメイをよそに、ホールスタッフは職業的笑顔を崩さず、ご注文はおそろいですか? と確認、伝票を置いて去った。


 メイはおそるおそる、温かいカップを手に取った。

 ココアの甘い香りが鼻をくすぐる。しかし、表面に浮かぶ愛らしいクマさんを崩すのがもったいなくて、なかなか口をつけられない。


 楓が笑った。

「キモチはわかる。写真、撮っとけば?」

「え?」

「写真。スマホで撮れるでしょ」

「え、や……やったことなくて……」

「ああもう! 貸してみ。ほら、ここをこうして……」


 面倒見のいい楓はわざわざ席を立ってテーブルのこちら側に回り、メイのスマホで、ココアアートを撮ってくれた。

「うわー、すごい。うわー」

 メイは、初めての「お店のココア」をうやうやしく味わい、さらに感動し、そうする間に楓はテーブルを占領していた大量の料理を、ぺろりと平らげた。


 空いた皿を重ねて場所をつくり、テーブルをお手拭きで軽くふいて、

「さて! お手紙、拝見」

「あ、うんうん」

 熱いココアのしみいるようなおいしさに他のことをほとんど失念していたメイは、あわてて肩掛けポシェットから輪ゴムで束ねた手紙を取り出し、テーブルに置いた。

「これです」


「あ、増えてる」

「うん。ほとんど毎日……入ってて」

「読んじゃっていいのね」

「いいです。どうぞ」


 楓は手紙の束の輪ゴムをはずし、まずざっとあらためた。

「おー、ホントだ。全部無記名。宛名もなし。万一、誰かに拾われた場合の用心かな?」

 丁寧に折り目を開き、上から順に読んでいく。


 一通目は、体育の授業から戻った時に見つけた『好きです』だけのもの。

 次は、翌日の朝、登校したら靴箱に入っていたもの。


『こんにちは。

 ふたたび、失礼します。

 昨日さしあげた手紙で、お気を悪くされていないといいのですが。


 名乗る勇気がないことをお許しください。

 見ているだけで幸せです。


 読んでくれてありがとう。』


 三通目は、同じ日の午後、校内一斉美化活動から戻った時に発見。


『こんにちは。

 怖がらせてしまっていないか、心配です。

 もしご不快でしたら、靴箱にそのむねメモで残してください。


 潔く、やめます。

 思い出にします。

 

 読んでくれてありがとう。』


 四通目は、間に一日おいて、下校しようとした時に見つけた。


『今日は、雨になりそうですね。


 先週雨が降った日、傘がなくて困っている人に、

 傘を貸してあげているのをお見かけしました。

 その後、返してもらったでしょうか。

 それとも、あげてしまったのでしょうか。


 さしでがましいとは存じますが、

 昇降口の傘立てに、ビニール傘を置いておきます。

 目印に、四つ葉のクローバーのシールを貼ってあります。


 良かったらお使いください。


 読んでくれてありがとう』


「この手紙は昨日もらったやつ、ってことだね。確かに夕方、すごい土砂降りだった」

 なにか考えながら言う楓に、メイはうなずく。


「うん。ちょうど学校出ようとしかけた時に、降り出しちゃって」

「あんた、傘、持ってなかったの?」

「朝、お母さんに『今日は傘持って行きなさいよ』って言われた時にあげちゃったこと思い出して……登校途中にコンビニで買うつもりだったんだけど、忘れちゃって」


「じゃあ、この人が置いといてくれた傘、使ったんだ」

「うん。すごく助かった。ひと晩よく乾かして、たたんで、今朝、もとの場所に返しといた」

「えー、今日って休みなのに学校入れた?」

「入れたよ。部活する人のために校門、開いてるから。零課のお仕事のついでに寄ったの」


 楓は「ふうん」と生返事をしながら、便せんを照明に透かしてみたり、折り方をくらべたり、鼻を近づけてくんくんとかいでみたりと忙しい。

 きちんともとどおりにたたみ直してメイに返し、言った。

「メイ」

「はい」


「あんたのことだから、傘返す時に、なにかひとこと添えたでしょ」

「うん。『ありがとうございました。助かりました』って、単語カードに書いてテープで貼りつけといた。……いけなかった?」

「いけなくはないけど……」


 意味ありげに言葉を切る楓に、メイは緊張してしどろもどろになる。

「え、えと、その……もっ、もしかしてこれって……オバケからの手紙?」

「だいじょうぶ、差出人は人間」

「じ、じゃあなんでそんな顔、するの?」


「この匿名の手紙の送り主、見つけるのは簡単だと思うんだ」

「えっ……?」

「問題はむしろあんたが、見つけたいかどうか」

「!」


「このひとの正体、知りたい? 知りたくない? 会いたい? 会いたくない?」

 お仕事メイクをキメた美人顔の楓に迫られ、メイはたじたじとのけぞった。

 目をつむって、考える。

 オバケでないなら、人なら……


(きっと、すごくいい人)


 と思う。きっと、びっくりするほどいい人。

 ひかえめなのか押しが強いのか、手紙だけでは判断しきれないけれど、そんなところもふくめて、すごく好感の持てる人。でも、だからこそ──

 口を開く。

「あ……会いたい……かも」


「いいの? この人、メイに告白してるんだよ」

「うん。だから……このままじゃ良くないと思うの。きちんとお返事しなきゃ、って」

「この人が手紙の中で言ってるみたいに、靴箱にメモ入れれば返事はできるけど」

「それは……ちょっとずるい……というか、甘えすぎな気がするから……」


 うつむいてぼそぼそつぶやくメイに、楓はへえ、と驚いたような顔になった。

 ちょっと前のメイなら絶対、メモですませたはずだ。それさえも書き方に悩みすぎてためらって、ずるずると何週間も、手紙を受け取り続けることになったかも。

 しかし今のメイは、あえて手紙の送り主に会いたい、会ってちゃんと返事したい、と言う。


 楓はにっこりした。

「いいね。メイってば、かっこいいじゃん」

「ええっ? そ、そんな、わたしなんてぜんぜん……」

 メイはあわあわしてしまい、気恥ずかしさをなんとかまぎらわそうと、反撃する。

「で、でもどうやって手紙を書いた人を見つけるの? 名前もなんにも、書いてないんだよ」


「なははは、平気、平気」

「でもでも……さ、最初から気になってるんだけど、便せん桜色だし、折り方可愛いし、文字も可愛いし、気配りすごいし、も、もしかして書いた人……」

「女子かもね」


 さくっと指摘しておいて、楓はしたり顔で続けた。

「でもたぶん男子だよ。運動部だね。ラグビー部だと思う。あと、一年生じゃない可能性大」

「ど、どど、どーしてそんなことまでわかるの?」


「まず便せんについた土汚れ。薄いけどグラウンドの土の色。花壇のじゃない。あと、親指の部分指紋見つけたけど大きい。女子の手じゃない。文字や便せんの折り方からして注意の行き届く几帳面なタイプだし、手紙書く前にはよく手を洗ったはずなのに、それでも土が残るのはグラウンドで毎日プレーする運動部員の可能性が高いよね。で、手のツメとかに汚れが残りそうなのは野球やサッカーより、ラクビーかなって」

「あ……」


「一年生じゃないだろう、って言うのは、手紙が入ってたタイミング。まず、一年の体育の時間中に靴箱に近づけるのは、一年じゃないよね。最近、全クラス合同だし。まあ朝は、朝練のある部に入ってれば簡単に入れられるからいいとして、校内美化活動の時は……」

「二年生は先週進路指導で不参加だったから、自由に動けた……野々宮さん、すごい!」


 感嘆のあまりメイは思わず音だけひかえて大拍手、

「初歩的な推理だよ、ワトソン君」

楓はちょっと芝居がかって髪をはらった。そんな仕草も実にサマになっている。


「じゃあ次は、ラグビー部のひと、ひとりずつのアリバイを調べたりするのかな」

 なんだかわくわくしてくるメイに、楓はふっ、と笑った。

「実はそんな必要、ないのよね」

「うそ!」


 お店の人が空いたお皿をさげに来てくれたので、ふたりともしばらく口を閉じる。

 テーブルが片づくと、楓は氷が溶けたお水をおいしそうに飲み干し、続けた。

「ふう。あのね、メイ、あんたが靴箱に『会いたいです』ってメモ入れれば万事解決」

「……あっ!」


 言われてみればそのとおりだ。でも──

「えーっ、でも、それじゃどーしてあんなにたくさん推理したの?」

「楽しいから!」

「そんなあ」

「それにこんな推理、当たってるともかぎらないしね」

「え?」


「便せんの土は、差し出し主がうっかり手紙をグラウンドに落としただけかもしれないし、男子の指紋は実は、便せんをばら売りしてくれたお店の人のでしたー、とか、落ちた便せん拾っただけの差し出し主の兄弟、通りすがりのおじさん、なんてことだってありうる」

「ああっ……そ、そんな可能性も……確かにあるかも」


「でも二年生なのはほぼ確定かな。学校の先生の誰か、っていうのはさすがにないと思うし」

「そ、それはちょっと怖い……」

 でもそれだって、確かめてみなければわからない。

 誰だかわからないラブレターの差出人に、メイは、メモで連絡をとる覚悟を決めた。


        ◆


 次の週明け。

 メイはいつもより二時間早く登校し、靴箱を開けた。

 まだ手紙が入っていないのを確認してほっとし、単語カードにメモを書いたものを入れた。


『先日は傘をありがとうございました。助かりました。

 一度、お会いしてお話したいのですが、かまいませんか』


 こちらが会いたくても、向こうは会いたくないかもしれない、と思ったのだ。

 帰りに靴箱を開けるといつもの桜色の便せんが、いつものようにきちんと折りたたまれ、上履きに載っていた。文字は、広い紙面にひとことだけ。


『うれしいです』


 怖さやためらい、強い葛藤を物語るかのように、文字の並びが少し乱れていた。

 メイはその場で、用意しておいた単語カードにメモを走り書きした。


『ありがとうございます。

 校外の、目立たないところでお会いしたいと考えています。

 木曜の放課後は、あいていらっしゃいますか。』


 翌朝、返事が入っていた。


『木曜は十八時以降なら動けますが、

 この季節、夕方はすぐ暗くなってしまいます。

 今週の土曜でしたら、昼間ずっとあいています。

 土曜のご都合はいかがでしょう。』


 女の子のメイが、夜ひとりで出歩くのを心配してくれているのである。

 ますます、いい人だな──と感じ入りながら、メイはその晩、翌日出す返事を書いた。


『では土曜日の午後二時に。

 少し離れた場所で申し訳ありませんが──』


 楓と会ったビジネスカフェの住所を丁寧に書き写し、三度、確認してから続きを書く。


『どんな方か存じあげませんので、

 早めについて、奥の方の席でお待ちするようにします。

 見つけてください。

 よろしくお願いいたします。』


 ちょっと、お仕事メールみたいになっちゃったかな──と思ったが他の書きようも思いつかず、翌朝早く、そのままカードを置いた。

 昼前、体育の授業から戻るとメイのカードはなくなっていて、代わりに返事が置かれていた。


『土曜の午後二時。了解しました。

 こちらこそ、よろしくお願いいたします。』


 その週はもう、追加の手紙が入ることはなく──

 約束の日になった。



②へ続く

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