第6話

「あっ!貴女があまり嬉しそうでないので心配をしていましたが、

やっと嬉しそうな顔をして頂けたので安心しました」

司会の男性がそう言うと会場の人たちからドッと大きな笑いが出た。


(すみません……)

サキが恥ずかしそうに言うと再び会場から大きな笑い声がする。


「いえいえ、謝られなくても大丈夫です。

きっと緊張されていらっしゃったのでしょうから、

今日はどちらからお越しになられましたか?」

司会者は笑顔で問う。


サキはどうこたえるべきなのか思案するが

「あちらから来ました」と、来た方を指さす。

「あ!あちらですか!」

司会者の驚いたような言葉に周りの人は再び大笑いをしている。


「色々な方がいらっしゃいますが、サキさんは本当に面白いかたですね」


「すみません……」

サキは恐縮するが、司会者は笑顔でフォローして

会場全員の大笑いの中イベントは無事終了した。


 イベントの終了後

「先ほどは失礼を致しました。

俺は山下一平(28)と言います。これから写真撮影や

お祝いのパーティーが有るのですが、参加して頂く事は出来ますか」


一平はスタイルも良く可愛いサキを一目見て気に入り

打ち上げパーティーにサキを誘う。


「はい。大丈夫です。こちらこそよろしくお願いいたします」


サキは一平だと言う男性に何となく近親感を覚えるし、

部品を探すためには色々な人達と

知り合いになっていた方がいいと考えたサキは

その後の写真撮影や色々な人との話に付き合ってみる事にする。


 サキは初めての星で

初めての人たちとは思えないほど優しい人たちばかりだし

面白く楽しくて時間は夢の様に過ぎて行った。


「済みませんでした。遅くまでお付き合い頂きまして。

サキさん、また来年も仮装イベントに参加してくださいね」

一平は笑顔で言う。


(えっ!来年……)

サキはそんなに長くはこの星には居ないと思う。


しかしその瞬間、困った様な顔をしたサキに一平は

「サキさんは、近くの方ではないのですか?」


「え、ええ……今、一人旅の途中なんです。

仮装イベントが有ると聞いたので

面白そうだと思い来てみましたが

来年は此処に居ないと思います」


サキは答えとしてこれが一番自然だと思う。


「えっ!サキさん!一人旅をされていらっしゃるのですか!

素敵ですね!で、これからどちらへ行かれるのですか?」


「ええ……でも、まだ何処へ行くのか決めていません……」

サキは俯き加減で弱弱しく言う。


「あ!まだ何も決めていらっしゃらないのでしたら、

暫くこの町に滞在されては如何ですか!

それにあと四日ほどで町内会の広報に貴女の写真も出ますから」

一平はそれまで、この町の素敵な所を見て欲しいと思う。


「あ!それはいいですね」サキはその間に、

この町で部品を手に入れる事が出来るかもしれない事に期待する。


「と言う事は、何処に泊まるのかも

まだ決めていらっしゃらないと言う事ですよね」

一平は嬉しそうだ。


「はい。でも泊るところはあると思いますからご心配なく」

連絡船の中で寝泊まりをしようと考えているサキは断ろうとするが


「いえいえ、俺たちのイベントを最高に盛り上げて頂いた方を

このまま、初めての町へ放り出すと言う訳には行かないです。

少し待って下さい」


そう言うと一平は横にいた女性に声を掛ける。

「洋子(25)さん!

今晩、洋子さんの所にサキさんを泊めて頂くことは出来ないでしょうか?」


「あ!私の家は今お風呂が壊れていて、

姉の家に泊まりに行くんです。

姉の家ならサキさんも一緒に泊まれると思います。

連絡をしてみますね」


洋子は直ぐに連絡を取ってくれて、

サキも泊めてもらえることになった。


「サキさん、もしよろしければ

私と一緒に私の姉の家に行きませんか?」


洋子が嬉しそうに言うので、

「ご親切にありがとうございます。

では、お言葉に甘えさせていただきます」


サキは見知らぬ星で見知らぬ人からの厚意に、

今は部品を手に入れなくてはならないと言う事を

一時的に忘れ、人との出会いに感謝している。


「姉は仕事で後3時間は帰る事が出来ないの。

そうと決まれば、もう少しパーティーを楽しみましょ!」

洋子は今年1番だと思うサキと一緒にいる事が出来るのがとても嬉しい。


横で一平たちや実行委員の男女も大いに盛り上がり

あっと言う間に夜が更けていく。


 夢のような時間はあっという間に過ぎて、

一平も洋子もお酒を飲むと言う事は織り込み済みなので

車に乗って来ていない為に

一平がタクシーを呼んでくれてサキと洋子は姉の家に向う。


 姉の家では姉の祥子(28)が出迎えてくれて

サキが靴を履いていない事に驚くが、

洋子もその時、同時に気付いた。


「あ~~でも、確かにそうよねぇ~……

その姿に靴は似合わないわ!サキさんセンスがいいわね」

祥子は驚きながらもサキのセンスの良さにウインクをしている。


サキは靴を履く必要などない服を着ているのだが

仮装だと思っている洋子や祥子は何も気が付いていない。


 そして祥子はサキの足を拭き3人で一緒に部屋へ入るが

「あ!そうだ!折角だから今から3人で温泉に行かない?」

「あ!いいわねぇ~」洋子も賛成する。


祥子の提案に3人で一緒に温泉へ行こうとするが、

「あ!私、何も持って来ていないの……」サキは気まずそうに言う。


「あ!ホントよね!……あ!そうだ私の若い時の服が有るわ。

サイズはサキさんの方が小さいと思うけど多分大丈夫だと思う……」

そう言って祥子はタンスから昔の服を出してくれる。


「少し大きいようだけど、おかしくは無いわね。

そのコスチュームほど男性の目は引けないけれど、

これもまだまだ可愛いと思うわよ」


祥子はウインクをしながらも

サキが下着を身に付けていないのは外から見ても判るので

下着や靴もサキの為に色々と用意してくれた。


「済みません……何から何まで……」サキは恐縮するが、

「何言ってんのよ!

妹たちが主催しているイベントを1番盛り上げてくれたのでしょ!

この位当然よ!


もうその服も靴もサイズが合わなくて要らないから

サキさんにあげるわね」

祥子はサキが使ってくれることが嬉しくてウインクをしている。


「私たちも本当にサキさんが来てくれて嬉しかったわ。

今までの1番の盛り上がりだったって一平さんも大喜びしてたものね」

洋子も当然だと喜んでいる。


 祥子の車で温泉に行き3人でお風呂を済ませると祥子の自宅に帰り

布団に入り寝る事になるが、サキは初めての出来事に全てが楽しくてたまらない。




              続く

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