第9話ひきつけ・そして2年生の夏休み

 家庭訪問が終わってしばらく大きな行事がない日々が続いて。5月の終わりごろに飯盒炊飯があって、昨年と同じく南海電車の箱作駅まで電車に乗って、帰ってきたはずであるが、あまり2年生の時のことはよく覚えていない。まぁそれだけ平穏な飯盒炊飯だったということであろう。

 姉と私は近所の子供たちと一緒に学校に行っては勉強をして家に帰るという毎日が続いていた。

 6月の終わり、寝ている妹の異変に姉が気付いた

「お母さん、ちーちゃんがなんか変」

と言った。母も異変に気付き、すぐに救急車が呼ばれた。初めて経験する夏の暑さもあって、妹はひきつけを起こしたらしい。幸い大事には至らなかったが、すぐそばで見ていた私も姉もお驚いた。病院での診察が終わってすぐに帰ることが出来てほっとした私たちであった。父の知り合いの消防署勤務の京ちゃん・尚ちゃん姉妹のお父さんの話では、小さい子供によくみられる症状で、夏風邪をこじらせたのが原因だったようである。

 そんなこともあって、夏休みは再び私たち二人で山口に帰省することになった。昨年二人で帰省したので私たちもなれたもので、心配する父に姉は

「大丈夫やって。心配せんでも」

などというと新幹線の車内に入って座席に座り、新大阪を後にした。


 山口に着くと叔父・叔母と再会し、家に着くと

「じいちゃーん・ばあちゃーん来たよ~」

と挨拶して家に入ると荷物を置いて、1年ぶりに会う近所の子供のところへ

「元気にしちょった?」

などの言葉を交わし、さっそく小学校のプールへ。皆でキャーキャー言いながら騒いで、家に帰るときは、学校近くの駄菓子屋さんによってアイスを食べながら帰って、移動の疲れもあって早く寝た。

 翌日からは昨年と同じ生活パターンが始まって、叔母の妹の家に着くと

「久しぶりじゃね~。元気にしちょったかね~」

などと話して、結婚して準君という男の子が生まれたばかりのゆみ姉ちゃんと康兄ちゃんに遊んでもらった。康兄ちゃんはNゲージと呼ばれる鉄道模型をたくさん持っており、すっかり私はその魅力に取りつかれて、帰る時間までずっと遊んでいた。一方で姉は準君にメロメロで、ずーっとゆみ姉ちゃんのそばにいたようである。

 それからしばらくして叔父の仕事が休みの日、叔父が回転ずしに連れて行ってくれた。寿司というとカウンターに座って食べるか、出前を取って食べるかのイメージが強かった私にとって、回転ずしは初めての経験であった。この時は物珍しさもあって、結構食べたんじゃないかと思う。

 そしてまたしばらくたったある日、祖父母の3番目の娘の叔母が晋兄ちゃんと一緒にやってきた

「二人とも元気にしちょったかね?ちーちゃんはいつ来るんかね?」

というので姉が

「お盆休みに来るって」

と言って皆で食事。昼からは晋兄ちゃんと小学校に行ってキャッチボールをした。10歳以上年上の晋兄ちゃんの投げるボールは速かった。私はまだボールをキャッチするのがおぼつかない感じであったが、運動神経のいい姉は、晋兄ちゃんの投げるボールを見事にキャッチしていた。

「あやちゃんが男ならプロ野球に行けるぞ」

などと話していた。やがて盆休みが来て、両親が新幹線に乗ってやってきた。久しぶりに見る妹は1か月前に比べて随分体が大きくなっていた。ハイハイもできるようになり、首も座って、私も安心して抱っこできるようになっていた。初めて抱っこした感想は

「重たい」

であった。次第に慣れてくるとそんなに重さを感じることもなくなってきたが。

 祖父母も初めて見る孫の顔を見て喜んでいた。両親がやってきた翌日、父と姉と私は、祖父母の2番目の娘である叔母の家に行っていた。この前遊ばせてもらったNゲージで一通り遊んだ後、近くを走る山陽本線の鉄橋の下を流れる川に降りて、何気なく川砂を掘ってみたら貝が出てきた。私は父に

「これはなんていう貝なん?」

と聞くと父は

「それはシジミや」

「これって食べられるん?」

「おぉ。みそ汁の中に入れたらうまいぞ」

「じゃあいっぱいとって帰ろう」

ということで、電車を見るのもそっちのけでシジミを掘り始めた。予定外のことで、両手に持てるくらいの量しかとれなかったが、みそ汁の中に入れて食べた。それ以来母の姉の家に行くと、川に降りてシジミを取るのが恒例となった。

 母の実家に帰ってしばらくたった盆連休最後日に両親と妹は大阪に帰っていった。そして私たちも夏休み最後の日に大阪に帰って、元の生活に戻った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る