第12話 「エウレカ!」

「クリスマスイブの日に、家に帰っていないとなると『じゃあどこにいるんだ?』って考えてみたんだ──」


 すると、答えは簡単に思い浮かべることができた。


「まあ……恋人の家にいるんだろって考えるよね」


 クリスマスぼっちの身からすると、嫉妬しっとに狂いそうになるので意識しないようにしていたが、時節柄じせつがら至極しごく当然の答えだと言える。


「だからみんなの彼氏彼女について聞いてきたんだ?」

「そういうこと」


 俺は彼女に友人たちの恋人事情について尋ねた。もしそれで、恋人がいる人間が判明したのであれば、その人物が『鍵を取り違えた相手』である可能性があるから。

 しかし結果は、大多数の人間が恋人をもたない状況にあるということである。


「ジュンペーくんだけが恋人もちだって聞いたときは『もしや?』って疑ったんだけど……遠距離恋愛だということなら、逢引あいびきしている可能性は低いだろう」


 昼間はのんびりと友人たちと遊んでいて、夜になって突然遠方へと押しかける理由が、ちょっと思いつかない。行くなら日中から乗り込んでいるだろう。けれどイブの夜になり、急に彼の恋心が燃え上がったという可能性も捨てずに留保しておく。ここからはもう、推理というよりは妄想の域であるが、理屈を通せる限りには様々な可能性を考えるべきだ。


「だからこそ、色んな仮説を考えたんだよね」


 ギャルが『鍵を取り違えた相手』。その人がいまだに帰宅していないその理由を、思いつく限りに羅列られつしていく。


 一人、夜の街にでも消えてしまったか?

 それとも、誰かと連れだって飲みにでも出かけているのか?

 はたまた交通事故にでもあってしまったのか?


 そのどれもが、ピンとくる答えではなかった。

 

 やはり『恋人とちんちんかもかもしている』というのが違和感なく受け入れられる仮説であるが、それは、恋人がいなければ成立しない話だ。唯一の彼女もちであるジュンペーくんにしても恋人と会うのが難しい状況にある。


「八方塞がりだ。これはもうお手上げするしか方法はないかなって思ったとき──」


 そんな中でふと一つ、思いついてしまった仮説があった。それを思いついたとき、俺は思わず「エウレカ!」と叫びたい気持ちになった。

 俺はその時の歓喜の気持ちを伝えるかのように口を開く。


「一つ思いついたことがある。君が『鍵を取り違えてしまった相手』──その人はって」


 だからこそ、その人は、未だ家に帰宅することなく、新しくできた恋人の元へと向かったのではないかと、そう考えたのだ。

 

「つまり……どういうことなの?」


 ギャルが怪訝けげんそうに尋ねてくる。

 俺が言いたいことが彼女に上手く伝わっていない様子である。


「つまり、今日という日に、一組のカップルが発生したってこと」


 そして俺は、これまでに語った推理を総括そうかつするつもりで、彼女へと語りかける。


「それで話が二転三転して申し訳ないんだけれど、事件の『犯人』であるサッちゃんが貴重品ロッカーを物色していたその『目的』について話を戻すよ」


 ここにきて、今まで保留にしていた事柄について言及する。


「正直、貴重品ロッカーを開いて物色するという、その行為から推察できるのは、やはり『物取り』だと思う。泥棒どろぼうをするためにこそサッちゃんは貴重品ロッカーを開いたのだという印象をどうしても受けてしまう。

 けれど、君曰きみいわく、彼女はそのような行為をする人間ではないという。その言葉を信じると、彼女は誰かの私物を奪うつもりなんてなかったことになる」


 ──ではいったい、何をするつもりだったのか?


 そこで俺は、逆転の発想をした。


「彼女はロッカーの中を物色していたのではなくて、逆に何かを忍ばせることが『目的』だったんじゃないかって考えた」


 奪い取るのではなく供与きょうよする。それぐらいの行為であれば、彼女も良心の呵責かしゃくさいなまれることもなく遂行すいこうできただろう。


「そこで確認しておきたいんだけど、君たち友人グループの間で『手紙』のやり取りが流行はやってるって言ってたよね?」

「え、あ、うん」

「その方法が手渡しじゃなくても、相手のかばんとか私物入れに忍ばせたりすることもあると?」

「う、うん」


 彼女たちは、SNS断ちを思いついた友人の影響により、手紙のような文面による連絡手段を確立していたという。そのことを考慮こうりょするならば、彼女の『目的』もなんとなくだが類推るいすいすることができた。


 そして俺がここまで言及すると、ギャルもとうとう察したようである。「それじゃあサッちゃんが貴重品ロッカーを開いた、その『目的』っていうのは──?」と尋ねてくる。


 俺はそれに大きく頷く。「うん、彼女は──」


 それは恋人をつくるために行われる、由緒正しい告白作法。


恋文ラブレターを忍ばせようとしてたんじゃないかな?」

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