第8話 四角面上の配置

「私たちも、ごっちゃになったらマズイと思って、気をつけながら入れたんだよね」


 引き続き、ギャルからの説明を聞く。

 彼女たちは確かに一つの貴重品ロッカーを共有して使用したが、その際には万全ばんぜんの注意を払っていたのだという。だから彼女のかぎが、他の人の物と混同されることはなかったはずだと。


「具体的にはどういう風に配置したの?」

「うんとね──」


 ロッカーの箱は横長の長方形であったという。


「その右奥にミカがかばんを置いたんだ、ミカの家の鍵も、その中に入れてたみたい」

「ふむふむ」


 俺は想像の中のロッカーの右奥に、女子大生が持ちそうな手提てさげ鞄を収める。すると残るスペースは左奥、左手前、右手前……あとは中央に配置することができるだろう。総勢は五人であるから、以上のような配置をすれば十分に事足ことたりる。


「んでー、中央がサブロー。コイツは私と一緒で、鞄とか持ってこなかったみたいだから、財布とスマホと家の鍵を置いたんだ。ただそん時にさー」

「そのときに?」

「うん、ちゃんと他の人のと混ざらないように工夫くふうしてた」


 その工夫というのは、財布を使って鍵を挟み込むこと。サブローくんの財布というのは二つ折りのもので、まるでハンバーガーサンドをするかのように鍵とスマートフォンを挟み込んでいたという。確かに、そこまでしたのなら、他人の私物が混同されるのは難しい。


「ジュンペーはロッカーの左奥にメガネを置いてた」

「ん? メガネ?」

「そう」


 ケラケラと笑いながらギャルが言う。


「それが可笑おかしくてさ、貴重品を収めろって言われて『俺の命に等しいものだ』とか雰囲気出してメガネだけ入れちゃってさ」

「それ以外の荷物はロッカーに入れなかったのかい?」

「うん、財布とか鍵とかは、ダウンジャケットの胸ポケットに入れ込んでたみたい。ジッパーついてるから落とすこともないってさ」

「そういうこと」


 そうして想像のロッカーの左奥にメガネが設置される。

 これで右奥に鞄、左奥にメガネ、そして中央に財布ハンバーガーが置かれたことになる。順当に奥の方から埋まっている感じだ。


「そして私が、左手前に家の鍵とスマホを置いたの」

「その際にサブローくんみたいな工夫はしなかった? 他の人のと混同されないように」

「いやー……まったくしてなかった」


 彼女はただロッカーの左手前のスペースに、スマートフォンと家の鍵を並べて配置しただけだったという。どこか決まりが悪そうに言っているが、そういう迂闊うかつさから、家を閉め出される結果につながったことは分かっているのだろう。

 自身で反省しているのなら特に言及することもない。俺は先を続ける。


「それじゃあロッカーの右手前にもう一人の女の子……サッちゃんだったっけ? その子が荷物を置いたんだね?」

「あ、いや。サッちゃんは気分が悪くなりそうだからってジェットコースターには乗らなかったんだよ」

「そうなの?」

「うん。絶叫系は得意じゃないみたいだった」


 ということはだ。サッちゃんだけは貴重品ロッカーを使用しなかったことになり、彼女の家の鍵は当然、彼女自身が保有していたことになる。ロッカーの中でギャルの鍵と混同される可能性はないと言っていい。


「それじゃあ、もう一つ質問なんだけど。みんなの私物を収めた貴重品ロッカーの鍵は、誰が持っていたの?」

「サッちゃんに預かってもらってたよ。ジェットコースターに乗り終わった後に彼女と合流して、んで、みんなの荷物を取り出して……それでおしまいだった」


 ギャルは「ね、取り間違いが起きる可能性なんてないでしょ?」と尋ねてくる。


 それを聞きながら俺は、ぼんやりとだが、この事件のあらましが見え始めていた。

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