異世界逃亡中 〜歌は世につれ、世は歌につれ〜

@430507

第1話 歌っちゃいけないなんて聞いてないっ!


「ふざけんなぁーっ!」


 泣き叫ぶように街の裏道を駆け抜ける少女。その後方から猪のごとく追いかけてくる三人の青年。


「ふざけてるのは貴様だっ! この魔女がーっ!!」


「いや、女神だろっ! おまえが怖がらせるからっ!」


「どっちでも良いっ! とにかく捕まえろ! 話はそれからだっ!!」


 のおおおおーっ!! なんでアタシがぁぁーっ!!


 この街が初めての彼女は土地勘がない。どこをどう行ったら良いか全く分からない。分からないが……


 ニコニコ笑って道案内してくれる妖精みたいなのが何匹も彼女に付き添っている。道が分かれる度に、あっち、こっちとユラユラ示す仄かな光。それに不可思議な懐かしさを感じつつも、切羽詰まった顔で爆走するセツ。

 なにがどうなったのか混乱極まりない彼女にとっては天の助け。この怪しい生き物を信じるに足ると少女は思っている。

 他に頼れるモノもないし、何よりこの子らは長く共にあった仲間だ。


 七つの洗礼を受けた、あの日から。




『ふん、ふん、ふ~ん♪』


 その帰り道、何気に鼻歌を歌っていたセツ。

 そのリズミカルな鼻歌を訝り、セツの父親は不思議そうに首を傾げる。


『なんだ? その変な息づかいは』


『鼻歌だよ?』


『鼻……うた? うたとは?』


『………そういや、なんだっけ? うた? あれ?』


 洗礼を受けた子供らを寿ぎ、教会の人々が口にした讃美歌。地球のように多種多様な曲調でなく、重く空気を震わす呻き声の羅列。歌詞もないソレは、讃美歌というより獣の遠吠えのようで、子供らを心底怯えさせた。

 神々を敬え、努々忘れるなかれ。そんな呪文の入り混じった讃美歌を耳にして、セツの脳裏奥深くが激しく揺れる。無窮の果ての追憶。本人に自覚すらできない何かが少女の身体を一杯にした。

 だが、掴めそうで掴めない淡い何かは彼女の中をすり抜け、高い秋空に消える。


 ぽやんっと空を見上げて歩く小さなセツ。


 無意識に鼻歌を口ずさんだ少女は、しばらくした未来に、そのわけを理解した。

 雪と書いてセツと読むことを彼女は思い出したのだ。そう、自分はこの世界の人間ではない過去を持つのだと。


 


「うわぁ……? マジで?」


 憮然とする顔を凍りつかせ、セツは助け上げた人間を見つめる。緩やかな金髪の少年。どうやら上流で転落でもしたのか、増水した河を流れて来たらしい彼は運良く中洲に引っかかっていた。

 それを洗濯に訪れたセツが発見する。中洲に引っ掛かっていた彼は、流れに少しずつ引きずられていて今にも水面に消えそうだ。彼女はビックリ仰天し、洗濯籠を放り投げる。

 助けなきゃと増水気味の河に腰まで浸かりながら中洲に向かった時。彼女は酷い目眩に襲われて視界がダブった。

 いや実際にはセツの過去の記憶と酷似した今の状況が既視感として脳裏に重なったのである。


 だが今は人命優先。


 次々とそぞろ浮かぶ不可思議な記憶を振り払いつつ、水の浮力を借りてなんとか岸まで少年を引きずってきた彼女は、己の頭を覆い尽くすかのように踊り狂う記憶の数々を整理する。


 ヘンテコな服装の人々。腕や足を丸出しにする破廉恥な格好に、セツは頬を赤らめる。中にはまるで布切れみたいなモノを巻き付けただけな男性などもおり、セツの常識からしたら、あり得ない光景。なのに、なぜか懐かしい。

 川辺のキャンプ。バーベキューで夕食を終え、花火や星空観測をしたりと楽しく過ぎた夏休みの一コマ。


 夏休み……? キャンプやバーベキュー……? なにかしら? すごく胸が苦しい。


 そして訪れた深夜。ふいの豪雨がテントを襲い、川辺でキャンプしていたセツの家族は増水した水に足を取られて流された。あっという間の出来事だった。

 時は夏休みだ。キャンプ場も酷い混みようで、それを避けるよう少し外れた川辺でキャンプしていたセツの家族は、巡回していた車の避難勧告に気づかなかった。


 家族……? え? うちの父さん達と違う。……でも。ああ、そうよ、私には弟がいたわ。可愛い弟が。


 ぶわりと押し寄せる記憶と知識。それが、この記憶の解説と捕捉をしてくれる。


 遊歩道からも遠くて浅い渓谷下。ここが危険なエリアだと知らなかった無知が招いた悲劇。

 セツの家族がいるなどと夢にも思わず、突然の豪雨でいきなり水嵩の増したダムが放水を始めてしまう。それが濁流となって押し寄せ、運の悪いことにセツと家族は、共に水に呑まれて溺れた。


 ……そう、溺れたのだ。そこから先の記憶はない。


 ぞわりと背筋を這い上がる冷たい悪寒。


 アタシ、死んだの? だよね? だって、今は只の農家の娘だし? 生まれ変わったの? 転生? うわぁ…… マジで?


 この記憶が自分の前世なのだとセツは理解する。

 突然蘇った記憶とともに現代知識も戻ったからだ。そうでなくば、自分の頭が可怪しくなったんじゃないかと疑うとこである。


「うっわぁ…… 死んだのか、アタシ」


 でもまあ、今は平穏に暮らしているので無問題。

 辺鄙な田舎町だけど食べるに困らないし、贅沢は出来ないけど、それなりの糧もあった。分相応な生活をしている。

 むしろ今はこっちの方が問題だと、セツは意識のない少年を見下ろした。

 とても身形の良い少年。年の頃は十二か十三か。現在十五歳のセツより歳下だろう。息もあるし危険な状態ではなさそうだが、はやく温かいところで休ませてあげなくては。


 歳下の華奢な少年で助かったわ。成人男性だったら運べる自信ないもんね。


 それでもずぶ濡れな件の少年はけっこう重い。ずりずりと引き摺りながら顎を上げつつ、セツは意識のない彼を肩に背負って家まで連れ帰ったのである。




「どこぞの御貴族様かな? 目立った傷もないし、事故か何かあったのかもしれん。上流を調べてこよう」


 セツの連絡を受けてやってきた村長が村人らを伴い、上流を捜索してくれるらしい。幸いなことに助けた少年は気を失っているだけで、ゆっくり休ませてやれば大丈夫だと村唯一の薬師が診察してくれた。

 良かったわと胸を撫で下ろし、セツは着替えさせた少年の服を洗おうとしたが…… あまりの高級品に絶句。これを下手には洗えない。こんな上等な服の洗い方は知らない。

 どうせずぶ濡れだったのだ。綺麗な水で濯ぐだけして干してしまおう。そう考え、セツは井戸の釣部を落とした。

 水面でユラユラ揺らしてやると水が入り、静かに沈んでゆく木製のバケツ。釣部を引き揚げながら、セツは蘇った前世の記憶にあるポンプが懐かしくなった。

 がしょがしょ取手を動かして水を吸い上げるポンプ。父方の在所には健在で、真夏の盛りにもかかわらず冷たい井戸水に、彼女は大層驚いたものである。


 モノは知ってるけど仕組みは分からないしなぁ。アレってどういう仕組みで動いていたんだろ。


 中を真空状態にするとか、呼び水を入れて動かすのだとか聞いたことはある。が、その詳しい内部はちんぷんかんぷん。

 タライにバケツの水を注ぎつつ、セツは思い出した前世のアレコレを渇望した。どれもこれも便利過ぎる道具だった。


 ざっと汚れや泥水を濯ぎ、少年の服を干して戻ってきたセツの耳に、奥の部屋からくぐもった呻きが聞こえる。家族は畑に出ていて、家には少年の看病のため残ったセツしかいない。

 そっと奥の部屋を覗いた彼女は、胸を押さえて苦しげに喘ぐ少年を見つけた。張り付く金髪や、はだけたシャツの襟からのぞく首筋や鎖骨には、玉のような汗が浮かんでいる。

 薬師の診察を受けた時より顔色が悪い。何かあって悪化したのだろうか。ひょっとしたら診察に見落としがあったのかもしれない。

 この国クジャラートは、セツの前世でいう発展途上国のようなモノだ。井戸でも分かるように技術的にも御粗末で、ある意味地球の過去世界。文明は精々中世初期くらいである。


 事故なら体内に損傷を受けていてもおかしくないよね? 外傷がなくったって、急な衝撃とかで内臓が破損したり骨がズレたりもするし? ダイジョブかな、この子。


 台所に取って返したセツは、小さなタライと布巾を持ってくる。そして少年の枕元の台にソレを置くと、ゆるく絞った布巾で顔や首筋の寝汗を拭ってやった。

 耳や生え際の辺りまで丁寧に拭うセツの視界で、その冷たさが心地好いのか少年の顔が少し和らいだ。

 

「きっとすぐに迎えが来てくれるわ。頑張って?」


 セツは布巾をタライに浸し、硬く絞って少年の額にのせる。そして髪を撫でてやりつつ静かに歌を口ずさんだ。


「我は海の子、白波の~……」


 何となくの選曲だ。少年は水の不幸に巡り合わせた。この先、水辺に怯えるようになるかもしれない。だからの選曲。


「……百尋千尋、海の底。遊び慣れたる庭広し~」


 元歌よりテンポ良く、淡々と歌うセツの視界で少年が眼を開いた。紺碧よりも青い、くすんだ瞳。


「……呼吸が楽に? ここは天国ですか? ……あなたは?」


 きょとんと惚ける年相応な顔。それに微笑みかけながら、セツは乱れた掛布を整えてやる。


「ここはクジャラート王国の田舎町。ダムよ」


 そこまで口にして、彼女は心の中でだけ嗤った。


 ……ダムとか。今思えば皮肉な名前よね。


 あの夜、闇を切り裂くように鳴り響いたダムのサイレン。あれが放水の知らせだと知らなかったセツの家族。記憶の蘇った彼女とて、今思えばという程度の感覚だ。

 巡り合わせが悪かったとしか言い様がない。放水のサイレンで起きたセツの家族は、それとともに押し寄せてきた濁流に足を呑まれ、引き摺られ、あっという間に水に浚われた。

 死んだのがセツだけなのか家族もなのかは分からない。願わくば、まだ七つだった弟くらいは助かっていて欲しい。

 

 追憶に思いを馳せるセツを、不思議そうな眼差しの少年が無言で見つめていた。




「……青葉繁れる櫻木の~ 郷のわたりの夕まぐれ~」


 ふんふんと歌いながら仕事をするセツ。


 前世を思い出した彼女は、多くの歌と自分が歌好きなことも思い出す。

 歌手になりたいとか音楽を学びたいとかでなく、ただ単に歌うのが好き。ぶっちゃけ、特に何かしらなくば二十四時間歌っていた。比喩でなく寝てる時も。

 ある夜、母親に叩き起こされたセツは、その横で涙目な弟に驚いた。何が起きたかと聞いてみれば…… 寝てるセツが歌っているのに恐怖したらしい。


『……寝言ならぬ寝歌って、アンタ』


 呆れ顔の母親が、どう言ったものかと困惑していたのも良い思い出。


 あの後、イビキ防止の道具で何とかなったんだっけ。我ながらアホ過ぎるよねぇ。


 たはは……っと苦笑するセツの所に少年がやってきた。

 彼はテオドアと名乗り、某伯爵家の居候なのだとセツの家族や村長らに説明する。


『たぶん、兄や家の者が探していると思います。早馬をたてていただけますでしょうか』


 おずおずと話す少年に頷き、村長は領主様に連絡を入れ、伯爵家とやらに早馬をたててもらった。それと同時に領主様が少年を邸へ招待したのだが、テオドアはそれを断った。

 

『御迷惑とは思いますが、ここに滞在したく存じます。あの…… 家の者と連絡がついたら御礼はしますゆえ……』


 しどろもどろな少年に首を傾げたセツの家族だが、子供が一人増えたところで大したことはない。もてなしは出来ないけど、寝て食べるくらいの世話は大丈夫だと答えると、テオドアはホッとした顔で笑った。

 領主様が言うには、某伯爵家は王都にあるらしい。隣領地に別邸もあり、たぶんそこに来ていたのではないかと少年に尋ねたところ、やはりそのようだった。

 隣領地の領主邸まで馬で四日ほど。折り返しで迎えが来るとしても十日ぐらいかかる。その間、我が家に滞在することになった少年は、セツの後をちょこちょことついて回っていた。


「あの……見ていて良いですか?」


「良いよ? そこの椅子に座ってたら? すぐに御飯出来るからね」


 ふんふん歌いつつ、食事の支度を続けるセツ。


 前世でも雪と書いてセツという名前だったが、不思議なものだと彼女は思った。たった十三歳で死んでしまった前世の自分。今は十五歳だが、これからも事故や病気に注意して長生きしようと彼女は心の中で強く誓った。

 

「そういや、馬車の事故だっけ? 崖下に落ちて? 大変だったね」


「……ええ、まあ」


 一体どうして土左衛門寸前などという状況になったのか尋ねたセツ達。少年の話によれば、盗賊に襲われて逃げていた馬車が崖上を曲がり切れず、馬や馬車ごと落ちてしまったのだそうだ。

 幸い怪我は無かったものの、追ってきた盗賊から逃れようと馬車を出たテオドア。しかし転落中、強かに頭を打ったのか、意識が朦朧とし足を滑らせて河に落ちてしまった。


「……正直、後は覚えていません。気がついたら、この家でした」


 ぶるっと微かに震え、少年は何度も唇を甜める。


 さもありなん。


「ま、運が良かったわよね」


 アタシは死んじゃったもの。ホント良かったわぁ。


 心の中でだけ呟き、ふふっと軽く笑うセツ。そんな彼女を切なげに見据え、テオドアはモジモジと言葉を紡いだ。


「あの…… うた? ……わないのですか?」


 ん? と首を傾げる彼女の前には、いやに真剣な面持ちの少年。

 あの日、テオドアはセツに詰め寄って聞いてきた。今のは何ですか? 呪文? 何の呪文ですか? と。

 いや、アレは呪文などとかではなく『歌』だと答えたセツだが、彼の疑問を聞いて、あることに気がつき彼女は言葉を失った。


 この国だけなのかもしれないが、ここには『歌』がないのだ。もちろん曲も。音楽そのものが存在しない。今世の自分の記憶に間違いがないなら、ダンスや演奏というモノもない。

 

 ……やっば。アタシやらかしてるかも?


 無意識に歌ってしまったセツは、ひやりと全身を粟立てた。


『歌…… とは、伝承にある? 人を誑かし貶める禍の種ですか?』


 きょんっと惚けた少年は、とんでもなく物騒な単語を口にした。


 なにそれっ? 歌が禍の種っ?


 どういうことかっ? っと彼女に逆に聞き返され、テオドアは伝承の範囲ですが…… と、前置きして詳しい話をセツに聞かせる。


 それは数千年も前の話。


 かつて世界には歌と踊りと演奏が満ちていた。人々は事ある事に歌い、踊り、世を謳歌する。

 だがある時、一人の研究者が歌による洗脳と中毒性の危険を訴えた。

 歌は周りの同調を誘い興奮させたり鼓舞したりと伝播していく。善くも悪くも人心を操る。これが正しく作用するうちは良いが、逆に作用した場合、計り知れない脅威となろう。

 最初、これを聞いた者達は一笑にふした。馬鹿な妄想だと思った。しかし、後日これに関連した騒動が起きてしまったのだ。

 

 原因は、たった一本の矢。


 凶作で飢えた領民が起こした暴動。それを鎮圧に向かった領主の兵の放った矢が、遥か後方の子供を射てしまったのである。

 そこは非戦闘員らが待機する教会広場。突然の凶矢に胸を射抜かれた少年の周りで上がる絶叫。飛び散る血花に埋もれ、倒れた少年の母親が吠えるように歌った。


『実りの歌』を。


 大地の芽吹きを。収穫を。人の誕生すら神に約束された天の祝福。それを寿ぎ、皆で歌おう。そういった歌だった。

 ……が、それに込められたモノは歓びでなく怨嗟。儚く散ってしまった我が子を悼む鎮魂歌。

 悲痛な慟哭にも似た歌は、広場一帯に伝播し、気づけば暴動を起こした民、全ての口から天に向かって吹き荒んでいた。


『子に約束された祝福を奪う領主が正しいかっ?!』


『民を飢えさせる者に領主たる資格はあるかっ?!』


『やまない雨はない、明けない夜はない、今こそ我らの力を示すべきっ!!』


『子供を奪う領主ではなく、子供に笑顔を与えてくれる領主を我らは望むっ!!』


 天地を揺らす歌が轟き、実りの歌を替え歌にして扇動する多くの人々。それと同じ歌を口にして抵抗を続ける領民達。凄まじい抵抗を見せる人々が口々に歌うのを見て、王侯貴族らは震撼した。

 領民達とて挫けそうな時があったにもかかわらず、それを鼓舞し、戦いへと沼らせた歌、歌、歌。


 結果は惨憺たるもの。領民のほぼ全てが命尽きるまで戦いに身を投じ、領主一族は糧と土地と民を失って没落した。


 娯楽としか思っていなかった『歌』の脅威的な潜在能力に恐怖し、クジャラート王国のみならず、この世界全ての国が音楽を禁じ、捨てたのだ。


 テオドアの話に唖然と口を開いたまま、セツは二の句が継げない。


 地球でもそういった話はある。歌や曲によって己を鼓舞し、周りを鼓舞し、多くの時代が動いてきたのを彼女は知識として知っていた。

 しかし、ここまで極端な話は聞いたことがない。地球とは違う何かの作用があったとしか思えない。


「それ以来、音楽は失われ、平和と権力の象徴とし、教会で演奏される讃美歌のみが残されました。平民は御存じない歴史の裏側です」


 テオドアも讃美歌以外の歌は初めて聞いたらしく、興味津津。ことあるごとにセツの歌をねだる。


「でも、その話が本当なら、歌うのって不味いんじゃないの?」


「不味いなんてもんじゃないですね。歌うだけで強制収監です。魔女扱いで火炙り間違いなし。……あ、セツは僕が守ります。貴女の歌は心地好い。ずっと聞いていたいです。……これが洗脳?」


 あれ? っと困ったように首を傾げるテオドア。それに顔を凍りつかせるセツを余所に、案の定というか、テオドアを迎えに来たという伯爵家の人々が彼女を拉致した。

 どうやら『歌』のことをテオドアが手紙に書いてしまったらしい。




「逃げて、セツ! 僕は君を守ろうと思って兄達に相談したのにっ! まさか、兄様らが君を捕まえようとするなんてっ!」


 テオドアは泣きながらセツの拘束を外して、手元にあった金子を押し付けた。どこか遠くに逃げてくれと。

 少年の手助けを受けて逃げ出したセツだが、すぐにバレたらしくテオドアの兄らとやらに追い回され、ただいま絶賛逃亡中。




「待てってんだろーがあぁぁーっ!」


「お前は黙れっ! 待ってください、危害を加える気はありません、テオドアのことでお話が……っ!」


「何千年も前についえたはずの『歌』を、なぜ知っているっ? お前は何者だっ!!」


 ひいいいぃぃーっ!!


 『歌』を歌う者は魔女と呼ばれ、速攻火炙りなんでしょがーっ!! 待てるかぁぁーっ!!


 謎な羽の生えた妖精等に囲まれつつ、隣領地の街を全力疾走するセツである。

  

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