最終章 メンヘラ、全財産を失う。そして大逆転へ
第31話 新曲で親バレ
事態は、新曲発表のときだった。
突然祖母のスマホから、電話がかかってきたのである。
『これ歌っているの、リアンちゃんよね?』
血の気が引いた。
新曲を聴いて、バレたわけではない。
カップリングが、昭和歌謡のカバーだったのだ。
昭和時代のアニメの主題歌で、令和版にアレンジされている。
肝心の完全新作曲とアニメーションPVは、そこまで再生数が伸びず。ウチの動画の中でも、最低値を更新してしまった。
どうもウチのファンから、「炎上商法」と思われてしまったらしい。ハッカむしヨケさんのスキャンダルがあった直後なだけに、タイミングが悪かったようだ。
気合を入れて作っためちゃいい曲だったのに、残念である。
逆に、昭和歌謡の方はやたら伸びた。過去一のバズを、叩き出す。
おそらく、全メンバーの中でも最大級の。
意外なことに、ウチのことを知らないファンもついた。
祖母はそのアニメが大好きで、グッズまで集めていたらしい。
自分のスキなアニメのカバーソングが、スーパーで流れているのを聴いたそうだ。
歌っているのが、どうも孫の声に似ている。やけに、耳に残っていたという。
どういう経路かはわからないが、祖母はYoutubeのチャンネルまで辿り着いたのだ。
そこから芋づる式に、親にバレた。
親戚全員には発覚していないが、ウチが昭和歌謡を歌っていたのはバレてしまったのである。
まさか祖母が、ダメ絶対音感持ちだったとは。
祖母は七〇過ぎだが、オタといえばオタである。
ウチは、祖母の実家に呼び出された。
付き添ってくれたのは、むつみちゃんと、しらすママである。
なんと祖母は、しらすママの存在まで知っていた。結構、筋金入りのオタかも。
「別に我が家は、娘の活動にとやかく言うつもりはないんです」
頭を下げようとした一同に、母はそう語った。
「数千万稼ぐ子やとは、想像もできませんでしたけど、がんばっているのはわかりました。その活動を、止めるつもりはありません。リアン、これからもやっていきなさい」
なにも、母は全力で応援するつもりはない。知らないから、応援したくてもできないのだ。
母はオタ活やアニメ、ましてネットアイドルなんて知らない。
とにかく、アンタッチャブルを決めようとしている。
割とオタ寄りな思考を持つ父も、ウチの活動に対して特に咎めようとしない。祖母が祖母なら、父も父なのである。
問題は、姉だろう。
姉は仕事があって、この集まりには来ていない。というか、家にホストを住まわせて食べさせているらしい。帰る意思さえないだろう。
「姉ちゃんのこと、ウチ結構ネタにしてるんやけど。怒ってるんとちゃう?」
「気にしてないんちゃう? あの子もワタシに似て、ネットはようやらん子やし」
姉はネットに疎く、SNSも身内や友人以外とはつながっていない。外に発信する趣味もなかった。
「メッセにも、『なんのこと?』って返ってきたぐらいやさかい。ネットアイドルってのがおること自体、知らんっぽいな」
父のメッセアプリに、姉のメッセージが。
妹が無事ならそれでOKというスタンスみたい。
「では、アイドル活動を許可してもらえると?」
むつみちゃんが頭を下げようとしたが、母が止める。
「許可も何も、リアンはええ大人ですさかい。この子は自己判断で、なんとかしますやろ。姉の方やったら、『やめなさい! 絶対騙されてるから!』って止めますけど」
どんだけ信用ないねん、ウチの姉は……。
でも、ウチでも姉ちゃんが「Vやりたい」っていい出したら、止めるかな。確実に騙されてるから。
「信頼なさってらっしゃるんですね」
「なにをするにしても、相談せんと行動する子でしたさかいに。お義母さんに似たんでしょうね」
母の隣で、祖母がニッコニコしている。
「それでは……」
「ただ、投資はちょっとわからんのですよ」
父が、話に割り込んできた。
アイドル活動には、問題はない。父はウチが投資系で売っていることを、心配しているようだ。
ですよねえ。あなたたちは、昭和世代ですもんねえ。
しかも父の社会人時代は、「デイトレーダー」全盛期だ。「ネオニート」なる新しいニート形態が生まれたときでもある。
父の友人も最近、投資に手を出して自己破産をしたらしい。
いわゆる、「FXで有り金を溶かす」ってやつである。
なまじネットミームに詳しいと、変な知識が身についてしまうものだ。
FIREした人もいたらしいが、その人も最近は復職したらしい。
「株式投資は、僕らからすると怖いイメージがありますねぇ」
「ご安心ください。説明は難しいですが、個別株投資に手を出すことはありませんので」
「せやけど、投資信託なわけでしょう?」
「ネット銀行を活用していますから、手数料等の問題はありません」
むつみちゃんの解説でも、あんまり両親はピンときてなさそう。
両親も、非課税制度を試そうとしたことがあるらしい。
しかし、店舗ありの銀行で投資をすると、多額の手数料がかかる。
証券会社選択の基本は、店舗のないネット証券会社を選ぶこと。銀行側のオススメには目もくれず、手数料が最も安いインデックスファンドに投資ことだ。
両親は、その基本を知らない。
これが、マネーリテラシーがあるかないかの違いだ。
「非課税制度が導入されても、投資に手を出すな」と、TVでもよく見るファイナンシャルプランナーが吠えていた。
しかし、その人は動画では「若者は投資を始めるべきだ」と、発言もしている。
一見すると、「ダブルスタンダード」呼ばわりされそうな意見だ。
その人は、「まずは投資の勉強をして、マネーリテラシーを鍛えることが大事」と言いたいのだろう。
いくら世界経済が右肩上がりだと言っても、下落の局面は必ず来る。その反動で、右肩に上がっていくのだ。
勉強をしていないと、この法則に気づかない。そのため、狼狽売りに走ってしまう。
個別株に投資をしていたら、なおさらだ。
そのため、投資には知識がいる。
生活防衛資金を確保し、手数料の安いネット銀行と契約し、インデックスファンドを選び、ムリのない額を積み立て、一五年以上ホールドすること。
この法則の意味を、理解しているかいないか。
投資の法則を知らないで、「流行っているから」と手を出すと、痛い目に遭う。
株式投資をしているときでさえ、定期的に情報のアップデートは必要だ。
複利効果で利益が上がっているときほど、さらなる勉強が大切である。でないと、変な時期に取り崩してしまい、資産を失いかねない。
ウチはむつみちゃんから、徹底的に叩き込まれた。
「資産管理は、社長がなさってるんですね?」
「一応は。リアンさん自身でもできますが、チェックは怠りません。個別株に手を出したくなる誘惑も、何度かあったそうです。それこそ、先程お父様がおっしゃっていたデイトレードにつながってしまいますね」
ひとまず、デイトレードやFXに手を出していないことを知って、父は安心したようだ。
「わかりました。ありがとうございます。母ちゃんは、なにかいいたことはないんか?」
「サイン、もらえんやろか?」
祖母に頼まれて、ウチはサインを書く。
大喜びしながら、祖母は祖父の仏壇にウチのサインを飾った。
サインって、そういうところに飾るもんなんか?
ひとまず、親の反対がなかったのがよかった。
「ありがとうござ――」
むつみちゃんが、立とうとしたときである。
突然、むつみちゃんがよろめいた。
そのまま、むつみちゃんは救急車に乗せられる。
呆然とするウチを、しらすママが救急車の中に押し込んだ。
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