ミノスの竪琴

岡本千夏(久礼千晶紀)

第1話 プロローグ

ここは水の国ドラゴナイトの郊外の森。美しい星空の下、竪琴を携えた旅の吟遊詩人が眠っている。吟遊詩人は夢を見ていた。小川の辺に佇み、ぼんやりしていると、川の面が大きく波立った。あっという間にその波は吟遊詩人の体を包むほど大きくなり、波の下から巨大な白い竜の頭が現れた。鱗は七色に光り、眼は禍々しく真っ赤に燃えている。「イノス・・・、イノス・・・」名前を呼ばれ、吟遊詩人は跳び起きた。


森は静かに見えたが、何かがいる。耳の良いイノスはかすかな動きをとらえ、茂みに潜む影に飛びかかった。思ったより小さい。イノスの腕を影はするりと抜けて、「ボクは龍神の使いだ!今の夢をあんたに見せろって言われたんだ!」

そう叫ぶと逃げようとしたが、イノスは持ち前の身軽さで声の主を捕まえた。金色の髪をしたニンフ族の子供だ。イノスは言った。

「おまえは誰だ?この国は龍神の国なのか?」

「そうだよ。ボクはミーア。龍神の巫女サウラに仕えてる。」


イノスはミーアを捕まえた手を放して少し考えた。今の夢を見せたのがこの国の龍神だとしたら、あまりお近づきにはなりたくない。けれど路銀を得るためには街に出て歌わなくてはならないのだ。

少しためらったが、路銀は旅人にとって一番重要と言ってもいいことの一つだ。意を決してイノスはミーアに話しかけた。

「ここから一番近い街へ案内してくれ。繁盛している酒場があったらそこに行きたい。」

イノスが優しく言うと、ミーアは警戒を解いて嬉しそうに言った。

「お任せ!あんた話が分かるね。今からボクはドラゴナイトの観光案内役だ!」

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