転生 〜無能力の僕と強すぎる仲間〜

スウ

第1話

僕は転生した。明らかに剣と魔法のファンタジーな世界に。

転生、と聞くと何かしらチートを与えられ、無双したりモテたりすることを想像することが多い。

しかしながら僕には何の能力も無かった。それどころか何から何まで転生前と同じなので魔力が無い。

…つまり、魔法が使えない。ファンタジーにおいてこれほど致命的なことはないだろう。某魔法不全者のようにパワーで解決もできない。

…まぁでも、剣はある。それに魔法が使える仲間もいる!それでなんとかしよう!

それでなんとかするしかないんだが…


<とあるダンジョン>


ゴオッ!と魔法が轟音を鳴らしながら突っ込む。

結果は…ダンジョンの下層部とその周辺が消えた。


「毎度のことなんだけど…なんて威力だ」


僕はケイ。転生者。しかし無能力。無能力だがギルドに所属している冒険者ではある。…なんでギルドでやっていけてるか?それは僕の仲間である彼女の存在が大きい。


「ふふ…褒めても何も出ないよ!」


彼女はイクス。どこにでもいる普通の魔法使い。

だったんだけどなぁ…。初めは彼女の周りと同じレベルの魔法が使えるくらいだったんだけど…。

成長するにつれてチートと呼んで差し支えないほどの魔法使いになった。

…心強い、というよりもはや怖い。


「えっと…あった!」


下層が無くなってそのまま落ちて崩れたダンジョンの瓦礫から依頼された石版を見つけた。

後は帰るだけ…のはずだった。


「古代機械…それも数十体…」


…初めて見たがなんて重装備だ。しかもこの数。

これは…少し大変そうだ。


ドドドドドドッ!


無数のエネルギー弾が僕たちをめがけて飛んでくる。


「イクス!準備を…」


ズドドドドドドドドドッ!


「…えっと、さっきなんて言ったの?」


…全然大変じゃなかった。やっぱりイクスはとんでもない。この目でマクロスのような超速弾幕がエネルギー弾を相殺しながら一瞬で機械を破壊する様子を見た。


「…準備してって言おうとしたんだけど、言う前に終わったよ」


「言う前に終わらせた…か。なんかかっこいいかも!」


「いつもかっこいいでしょ」


「ふぇっ!?…ありがと…」


「…顔、赤いよ?」


「言わないでぇ!」


<宿>


「ケイ…寝ちゃった」


「…あぁ、可愛い寝顔だ。ずっと見ていられる。」


「全く、いつもかっこいいだなんて。照れるじゃないか…。こういう無自覚に人を褒める所も本当に好き…」


僕、イクスはケイが大好きだ。小さい頃から嬉しいときも悲しいときもずっとそばで寄り添ってくれたケイ。勉強や剣の練習に、つまづいても一生懸命頑張り続けるケイ。僕をたくさん褒めてくれるケイ。

僕と共に行動しているケイ。僕と話しているときのケイ…。どのケイも、最高に素敵だ。


「誰にも邪魔させない。誰にも傷つけさせはしない。誰にも…渡しはしない…」


「愛してる」



<翌朝>


「ケイ、よく眠れた?」


「うん、いい夢を見れたよ。」


「…どんな夢?」


「僕がイクスと一緒に世界を救って…その後…」


「その後?」


「…ごめん!言えない!」


「…ふふっ、真っ赤になっちゃって。もしかして僕とケイが付き合ってた夢、とか?」


「〜〜ッ!もっ、もう行こう!準備できてる?」


「あぁ、バッチリだ。いつでも行ける」


「じゃ、仕事の続きだ!」


<外>


「次の依頼はさっき拾った石版のもう片方の回収かな。回収は僕が、戦いは…」


「分かってる、遠慮なく僕に任せてくれ」


「ありがとう。…ごめんね、こんなのがイクスの相棒で…」


「…あんまりそんなこと言わないで。ケイは自分が思ってるよりもずっと凄い人だから。それに、僕は君のそばで戦えて心の底から嬉しく思うよ!」


「…ありがとう、イクス。じゃあ行こうか」


<目的地>


「あの奥に石版があるはず。…あのでっかい魔物をお願い」


「了解!」


そう言うとイクスは即座に魔法で魔物に風穴を開けた。今回もこれで終わり…


「…傷が一瞬で回復した。」


「あぁ、そういえばこの辺りは魔力の濃度が高いんだっけ。どうりで魔物の再生が速いと思った。」


一瞬で再生する敵か…まずい。あんなやつは相手したことが無い。どう対処したものか。

答えはすぐに出た。…イクスが出してくれた。


「消し飛ばせばいいじゃないか!」


…消し飛ばす?あの巨体を?どうやって?


「光よ、集え」


まばゆい光魔法が魔物を覆う


「縮小」


魔物を覆っていた魔法が一気に縮小した。

魔物はというと…魔法と一緒に綺麗さっぱり消えた


「どう?詠唱すればこんなの朝飯前さ!」


詠唱?あぁ、確かこの世界で子供の頃に聞いたことがある。何でも詠唱によって魔物の効力を底上げするとか。

…いや、だとしてもここまでなる?嘘でしょ?

というか、イクスの詠唱を初めて見た。

こんなに唐突に見ることになるとは…


「…やっぱり凄いよ、イクスは」


「ふふっ、ありがと」


その後は石版を回収して、依頼主に届けた。依頼主はそれはもうすごく嬉しそうだった。

…さて、依頼もこなしたことだ。ギルドに戻ろう。


<ギルド>


「ただいまー!」


イクスが元気に言う。それに続いて僕も小さくただいま、と言った。


「あら、イクスちゃんにケイくん。おかえりなさい!」


この人は受付嬢のセリアさん。仕事もしっかりしていて、この辺りでもかなり有名。さらに顔立ちも綺麗で美しい。…でもちょっと距離感が近いかもしれない。この前くっつかれた時は爆発しそうだった。

…その際、イクスがすごく不機嫌そうな顔をしていた。はっきり言ってあのときのイクスは滅茶苦茶怖かった。


「よくやった二人共!後は存分に休め!」


この人はギルドマスターのナイルさん。この人にはとても世話になっている。なにせ僕に剣術を付きっきりで教えてくれた、いわば師匠的な存在。

死ぬほど厳しいがいつも僕たちを気にかけてくれるので人望は凄まじい。


「僕はここで何か食べるよ。ケイはどうする?」


「僕は剣の練習をするよ。…ナイルさん、頼める?」


「おうともよ!」


「じゃあイクス、ごゆっくり!」




「全く、ケイくんは本当に頑張り屋さんねぇ…」


「…やっぱり心配です。頑張りすぎて倒れないか…」


「…本当にあの子のことが好きなのね。イクスちゃんは」


「もちろんです!それより、セリアさんは仕事が片付いたんですか?」


「えぇ、あらかた片付いたわ。うちのギルドはサポートが優秀で助かるわ。おかげで楽ができ…ん゙んっ…落ち着いて仕事できるわ。」


「…本音聞こえましたよ。」


「あはは…忘れて頂戴。あっ、ジルちゃんにネールくんと…スゥー…皆、おかえりなさい!」


「「「ただいま!」」」


「イクスさん、私に魔法を教えてください!」

「ちょっと!この前教えてもらったばかりじゃない!今日は私よ!」

「今日も…かっこいい。見れて幸せ…」


「イクスちゃん、相変わらずモテるわねぇ…。強くてイケメンだなんて…ちょっと妬けちゃう」


「他人事みたいに…結構困りものなんですよ!」


「イクス様が困っている…皆!対応しやすいように人数を絞るぞ!」


「助かる…ありがとう。じゃ、絞れたら一人ずつ僕のところに来るといい!」




<宿舎>


「その…イクス…」


「ん?どうしたの?」


「あんまり抱きつかれると…その…えっと…」


「ふふ…ぎゅー」


「あわっ…」


「もー、相棒なんだからこれくらい当然でしょ?」


「でも…慣れないというか…」


「全く…ウブなやつめ」


…うぅ、可愛い。ここまで来たら今すぐ襲いたい。

でも…ケイはあんまり積極的すぎるのは苦手みたいだし…抑えないと。あぁでも!…いや、我慢だ我慢、妄想でなんとかしよう。


「…イクス」


はうぅ…上目遣い…。濡れる…


「なぁに?」


「こんな僕だけど…ずっとそばに居てくれる?」


「?僕は君から離れるつもりは無いよ?僕はケイがいないと生きていけないんだから。」


「重いね…でもありがとう。じゃあ、おやすみなさい」


「うん、おやすみ」


ちょっと我慢できないかも。…せめてケイが寝たら思いっきりキスしてやる。



<翌日>


「さてと、どんな依頼がいいかな…」


「ゴブリンの群れの掃討とかいいんじゃない?報酬もいいし、いい剣術練習になると思うよ?」


「…確かに、これにしよう」


「いざとなったら全部吹き飛ばしてあげる!」


「はは…やばくなったら頼むよ。じゃ、行こう!」


「うん!」


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