海と陸の境目-7
あの日以来、僕と海は以前のようにまた時折会うようになった。
前と同じようにくだらない話をした。
海水を含んだ砂が引いた線を、超えないように。
彼女のことを「花さん」と呼んだ時、彼女はそれを拒んだ。
「あなたが言う『海さん』って呼び方、好きなんです」と頬を染めながら。
僕と海は夢を語り合った。
海の中で住む人間と、地上で住む人間が共に尊重していける世界のことを。
いつか僕と彼女が一緒になれる世界の話を。
シショとマミさんは時折顔を見せた。
「誘ったけど俺と一緒は嫌なんだって」
毎回別々に来るのには、そんな理由があるんだとシショは言った。
ある日僕は、固い決意を胸にして砂浜へ向かった。
「証明して見せろ」
マミさんはあの日僕らにそう言った。
だから僕は、彼女に幾つかの質問をしてから、ある提案をした。
――数年後、僕らの出会った砂浜には、僕らと同じような志を持つ人間が集まる場所になった。
僕と海を含めた、たかが数人の力だけでは。
やはりこの綺麗に分かれた世界を変えることはできないようだった。
ただ僕らのことを知って、この砂浜に集まる人数はそれでも徐々に増えてきた。
科学者達は意外にも、過半数が僕らの考えに賛同した。
「まぁ俺という生きた実績がいるからじゃない?」
とシショは冗談混じりに言った。
本人には言わないが僕は本気でその通りだと思ってた。
『お偉いさん』の中にも、僕たちと同じようにこの世界のあり方に懐疑心を抱く人は少なくなかったそうだ。
海は毎回数人の見ない顔を連れて、この砂浜へやってきた。
僕らが生きている間じゃなくても、いつかこの世界はきっと変わることができる。
本気でそう思った。
ただ当然、僕らのそんな活動が気に食わない人間もいるわけで
いつも通りの午後、事件は起きた。
決して誰も破ることのなかった境界線は
一人の活動家によって破られた。
この場所をどこからか聞きつけたのか、それとも僕らの集まりが大きくなりすぎたのか。
その男は、海水から陸へ上がると一目散に海へと向かった。
男は海の腕を掴み、地上の人々に害を為す海水に突き落とされた。
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