商売はアイデアひとつでピンチにもチャンスにもなるという話

鈴乃

 ある商人が商売を思いついた。


「ダンジョンには持ち主のいない武器や防具が落ちている。それを拾って、中古品として売ればもうかるぞ!」


 商人は人を雇ってダンジョンに落ちている装備品を拾い集めた。

 レイピア、ブロードソード、カタナと言った刃物はもちろん、鎖かたびらや全身鎧まで、拾えるものは全て拾ってこさせた。


 店先にも大きな看板を立てた。

『冒険者さん来たれ! お買い得・中古装備品の店!』

 たちまち完売した。

 商人はほくほく。

 しかし、一週間もしないうちに苦情と返品が殺到した。


 少し使ったら壊れた。

 見えない部分の金具が割れていた。

 そんなのはいい。


『買った鎧を着て魔物と戦っていたら、急に体が動かなくなった』 


『剣を持った途端に記憶が飛んで、気づいたら仲間が血だらけで倒れていた』


 ダンジョンに落ちていた装備品の多くは、志半ばで倒れた冒険者たちのものだ。

 それらは魔物がうごめくダンジョンの空気にさらされて、よくないものを宿してしまっていた。


 商人はあわてて教会にお祓いを頼んだが、なにしろ数が多すぎる。


 やがて客足はぱったり途絶え、倉庫に押し込めた返品の山からは、毎晩のように怨嗟の声が聞こえてくるようになった。


 商人は震えた。

 こわい、手放したい。だがこんなに強力な呪いが染み付いた品を、どうやって?


 加えて、客への返金とお祓いの費用がかさみ、貯えは底を尽きつつある。このままでは路頭に迷う未来は避けられない。


 商人はすがる思いで教会に泣きついた。年老いた神父はさとすように言った。


「二度とこんなことをしてはいけませんよ」


 商人は考え足らずだった自分を深く反省し、神に懺悔した。

 すると神父は商人に言った。


「帰ったら、店の看板を付け替えなさい」


 商人は神父のアドバイスを忠実に守った。


 その翌日。

 店は数カ月ぶりの客で賑わった。

 商人を悩ませていた品々は一つ残らず買い取られていき、真新しい看板だけが店先に残った。


『プロの呪術師さんにしか売れません★ホンモノのいわくつきアイテムの店』


 その後商人は改めて中古装備品の売買を始め、良心的な店として広く名を知られるようになった。 


 特に、腰を落ち着けた冒険者達からは『相棒を託すに値する店』として評判である。


 めでたしめでたし。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

商売はアイデアひとつでピンチにもチャンスにもなるという話 鈴乃 @suzu_non

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ