第47話 まだ戦後は終わっとらん!

詩人でもあるベテラン英語教師は、教え子の元生徒に言った。

もう、済んだことではないか。

言われた元教え子の現詩人は、即座に言い返した。心の中で。

まだ、戦後は終わっとらん!


その翌年、彼は大学に現役合格した。

それで彼の戦後が終ったかどうかは、定かでない。

しかし、少なくともあの時点では、戦後は終わっていなかった。

実は今も、彼にとっての戦後は終わっていないのかもしれない。

詩人でもあった元英語教師は、今や鬼籍に入っている。


詩人でもある元英語教師は、詩集にこんなことを書いていた。

養護施設の保母たちを、野麦峠を行き来した女工たちに例えて、

今も続く女工哀史と。

それを読んだ元教え子の現詩人は、天に向かって叫んだ。

当時の養護施設の保母らの業務は、福祉事業の名の下の、

子育て実験のモルモットの世話係に過ぎなかったのである!


今や作家であり詩人ともなったかつての教え子。

彼は今、日々作品を書き続けている。

無駄な係累を持たず、独り身のまま、

パソコン2台と周辺機器を武器に。

パソコンの消耗を防ぐための外付けキーボードから、

彼の手により、物語は今、勢いよく紡がれている。


彼のパソコン画面では、物語が現在進行形で進んでいる。

それは、彼の戦勝国としての戦後処理であると言われている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る