第37話 相談④

「あの爆発の件で調査が入ってるからか、守護者ガーディアンはどこも居ませんね」


「2階層前半部を色々と行き来するから、必然的に倒さざるを得ないでしょうね、おかげで私達は楽に進めるから助かるわ」


 それはある、正直うま味がほぼ無い魔物を倒してもあんまり……宝だって出る確率は高くない見たいだし。


「それでそのリスティルさんに会ったとして、お兄は素直に伝えるの?」


 素直に伝えるの?って、それしかないじゃないの。

 勝手に手を加えて更に拗れでもしたらオレが刺され兼ねない。


「変に脚色して間違った伝わり方をしたら事だ、聞いた事をそのまま簡潔に伝えるよ」


「それが一番ですね。あくまで私達は彼女の言葉を届けるだけ、それ以上の事はしないし以下でもない、第三者的な立場を通しましょう」


「姉さんの意見は冷た過ぎ」


「いや、ああいう手合いを可哀想と思うのは間違いだぞ。どんな理由であれその道を選択したのは彼女だし、自分で選んだ以上責任は自分でだ」


 この話に関しては、おまいうで耳が痛いが。

 それにああいう人は下手に手を差し伸べると、離れてくれない強力な粘着性がありそうだ、これ以上踏み込むと絶対にやばい。

 あぁ、どっかの世界にリアルで踏み込みが足りん!って言って縁を切り払い出来たらな。


「もしナナセさんが逆恨みされ…………ても大丈夫そうですね、寧ろ何かされたとしても、ナナセさんが後れを取る姿が想像出来ませんし」


 オレを信頼してくれてるのは分かるけど、強かろうと弱かろうと、面倒な事は殆どの存在がお断りしたい案件だと思う。

 それに折角金策に来たのに、何の成果も得られませんでしたってのは、ちょっと勘弁してほしい。


「ほら行くよお兄、もう着くんだから」


 顔をしかめるナナセだったが、3人はお構いなしに休息所の中へと進んで行く。

 無機質な石材に囲まれた空間はその名前の通り、雑談する者、食事を取る者、疲れて仮眠を取る者と様々だ。

 2階層という事で人は余り居ないと思われていたが思っていたよりも多い。


 この中から探す訳だけど、寝てる人も居るみたいだし大声は出せないな、そもそも注目されそうで出来ないが。

 素直に聞いて行くのが無難か。


「あの、ちょっと聞きたい事があるんですが」


 適当に入口近くに居た30歳くらいの冒険者に声を掛ける。


「あぁ? んだてめぇ、馴れ馴れしく声をがっ!!」


 突然女性が荒い口調で話していた男の頭を殴り飛ばした。


「いってぇぇ、何すんですか姉御」


「アンタはどいてな! それで何が聞きたいんだい?」


「あぁ…いや、【大戦斧バトルアクス】の方達がここに居るって聞いて来たんですけど、知ってるかなと思い」


「【大戦斧バトルアクス】の連中を探してたのかい、それなら」


 女性は立ち上がって周りを見渡す。


「居たよ、あそこにの冒険者パーティーが【大戦斧バトルアクス】だ」


 そう言って指を差して教えてくれる。

 視線を向けると5人パーティーの内1人は弓を持った女性だ。


 あの人がメルディの言ってたリスティルって人か。


「教えて頂きありがとうございます」


「このくらい気にしなさんな」


 軽く一礼した後すぐに教えたパーティーの方に歩いて行くナナセ達を見て、殴られた男がリーダーと思われる女性に愚痴をこぼす。


 ―――――――――


「どうしたんすか姉御」


「馬鹿野郎が、お前のせいでウチらは今死にかけたんだよ! いいかい、街で見かけてもあの連中には絶対に関わるな」


 説教をされてる男は分からないといった顔をする。

 その横で別の仲間が会話に入ってくる。


「もしかして今の連中にあねさんのスキルを使ったんですか?」


「ああ……それで分かったのは、あのパーティーの誰にも勝てないって事だからね、生きた心地がしなかったよ……」


 その言葉に仲間達が驚く。

 まさか自分達よりも年下。

 まだ子供と呼べるような相手にリーダー格の女が勝てないと発言した。

 直後仲間の一人がリーダーの女に問いかける。


「確か姉御のスキルは、自分と相手との強さを色煙で比較する【戦力比較】ってスキルっすよね? 一体どんな色だったんすか」


「白・黄・緑・紫・赤の5色で表されて、緑で苦戦必至なのは知ってるね?」


「ええ、昔にそう聞いたんで」


「狐人族の娘が紫、敗色濃厚。他の女2人が赤、敗北確定。そして男が……黒だった、今まで見た事の無い色で見えたんだよ」


「黒って……単に白よりも更に弱かったってだけじゃねぇんですか?」


「それならどこかで見かけてないと不自然だろうが、恐らく、敗北を越える何かって事しか考えられない、いいかい、絶対に関わるんじゃないよ」


 パーティーで最も腕の立つリーダーが勝てない以上、手を出すなんて事は考えられなかった。

 仲間達は息を呑み、その指示に頷く。


 ―――――――――


 自分達の知らない所でそんな話になっているとは思わないナナセ達。

 教えられた冒険者パーティーに近づいて行くと、向こうもこちらに気付き声を掛けて来る。


「俺達に何か用ですか?」


 話し方は穏やかだけど明らかに表情が警戒してるな。

 まぁ知らない冒険者パーティーが一直線に近づいてくれば当然か、初手から敵意を向けられないだけ、彼等は良心的なパーティーだ。


「体を休めている所に申し訳ない、君達は冒険者パーティーの【大戦斧バトルアクス】で合ってるかな?」


 目の前の冒険者達は互いにアイコンタクトで意思疎通を図る。

 恐らくパーティー内でナナセ達を知ってる物が居ないかを確認しているのだろう。

 全員が首を横に振った後、最初に声を掛けて来た男が答える。


「確かにあなたが言った通り俺達は【大戦斧バトルアクス】ですが、そちらとは何の接点も無いと思いますが」


「そうですね、オレ達は冒険者パーティー【討ち滅ぼす者アナイアレイター】でオレはナナセと言います。そちらのリスティルさんに話があって会いに来ました」


「私に? 話って一体なんですか?」


「【白い牙】のメルディが、あなたと会って話がしたいと言ってたのですが、3階層まで行く力が無く、オレ達が代わりに伝えに来ました」


その瞬間リスティルの身体が強張る。

明らかに彼女はメルディにマイナスのイメージを持ってる事がナナセには分かった。


 メルディの名前を出した瞬間体が緊張したみたいだな、これは十中八九良い感情は持ってないな。

 普通に考えて数年間嫌がらせやら何やらされていれば当たり前な反応か、それで上機嫌になる方がどうかしてる。

 取り敢えずメルディにとって、擁護にも批判にもならない様に伝える事に徹しよう。

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