第36話 相談③

 一夜明けての早朝、ナナセ達はメルディの一件を伝える為にダンジョンへ向かうが、その足取りはお世辞にも軽いとは言えない。

 理由としては拒絶された時のメルディの反応を考えると、どうしても悪い方に向かうとしか思いつかないからだ。


「最初に同席を断っていればこんな事にはならなかったのに、3人共辛い事に巻き込んで本当に申し訳ない」


「起こってしまった事は仕方がないですよ、それにあのままメルディさんを放って置くと危ないと言うのも事実ですし」


「ですね、遅かれ早かれどこかで同じ様な事態になってたと思います。たまたま私達の前で起こっただけですよ」


 2人のフォローがありがたい。

 にしてもこっちの世界に来てから人との関りが本当に濃くなったな、前なら家と大学か、家・大学・バイトの順が普段のルーティーンで、会話もほぼ定型文に少し言葉を足した程度だったのにな。


「それよりも相手の名前とパーティー名、忘れてないよね?」


「流石に昨日の今日で忘れないさ、今勢いのある若手冒険者パーティー【大戦斧バトルアクス】の一員で、弓術士アーチャーのリスティルだろ?」


「合ってます。それで【大戦斧バトルアクス】の活動区域が3階層で降りる度、数日は籠るって話でしたね」


「ああ、正直長引かせたくないし、昨日と同じ様に出て来る魔物を倒して降りてこう」


「倒した魔物の回収はどうしましょうか?」


 倒した魔物か。

 GランクやFランクの魔物じゃ数十匹狩ってようやく飯代になる程度だしな、勿体無いが回収するだけ時間の無駄だな。


「道中出た宝とEランク以上の魔物なら回収して、それ以外は捨てて行こう」


「わかりました」


 こうして昨日振りのダンジョンにナナセ達は入っていく。

 そして1階層ではレベルアップしたティナがその能力を存分に見せつけた。

 既に格下の魔物とはいえ、出会い頭に首から上を斬り飛ばす、脳天に短剣を突き立てて抜き斬るといった一撃必殺の方法で蹴散らす。

 結果、昨日1時間程掛った1階層の突破が、今日は約15分。

 魔物の未回収や、ほぼ止まらずに駆け抜けてるとは言え4分の1まで短縮となった。


 思ってた以上にティナの成長が凄まじいな。

 しかも索敵能力がある分、オレ達よりも数テンポ早く行動出来るから、1階層じゃ敵無しだし、こりゃ2階層の魔物も安心して任せられるかな。


 一行は休む間も無く2階層へと降りていくとそこには、昨日の爆発の調査依頼をしていたのか、数組の冒険者パーティーがしゃがみ込み、壁に背を預けて休んでいる。

 恐らく爆発場所に近いこの辺りを調べていたのだろう。

 その内の1人が声を掛けて来る。


「見ない顔だな、新しいダンジョン攻略組か?」


「攻略組では無いですけど、2日前に来たばかりなので知られては居ないかと」


 ダンジョン攻略か、興味が無い訳じゃないけど今じゃないな、ティナの強化は出来たし、次は金策に取り掛からないと無駄に金だけ減っていくし。

 お人好しも今回限りにしないとな。


「そうか、昨日この辺りで原因不明の大爆発が起きたばっかだから、気を付けて探索しろよ」


「情報ありがとうございます」


 言えねぇ、「その犯人オレなんです」とは絶対言えねぇ。


(一応この方達にも【大戦斧バトルアクス】を見かけたか聞いてみませんか?)

(行き違い防止にもなるしね)

(了解)


「そうだ、一つ聞きたい事があるんですがいいですか?」


 先程とはパーティーの1人で、革袋の水筒から水を飲んでいた男がこちらに反応する。


「ん? まだ何かあるのか?」


「実はオレ達、冒険者パーティーの【大戦斧バトルアクス】の方達を探しているんですけど、この辺りで見かけたりしませんでしたか?」


「【大戦斧バトルアクス】を探してるのか? 俺達のパーティーは見てないが……そっちはどうだ?」


「いや、こっちも見てねぇわ、確か【大戦斧バトルアクス】は3階層の探索を主軸にしてるパーティーだろ? 2階層ここにはいねんじゃねーか?」


「待ってくれ、奴さんらなら数時間前に2階層見たぜ、多分だが向かってる方向的に1階層側の休息所だ」


 アヤカのファインプレー!

 聞かずに先を急いでたら完全に行き違いだった、人が多いと直ぐにオレは人を避けたがるからダメだな。


「1階層側の休息所ですね、ありがとうございます」


「おう、代わりと言っちゃなんだが、水が余ってたら少し分けちゃくれねぇか」


 金銭の要求じゃなく水とは珍しい。

 まぁ料理するにしても、体を動かすにしても水は必要になるから、給水するのにダンジョンを出るのが面倒だって事であれば妥当か。


「ならオレのがあるんで、どうぞ」


「すまんな、ありがてぇ」


 男は自分の水筒をだして飲み口に漏斗差し込む。

 それを見たナナセは思った、こっちの世界にも漏斗があるんだと。


「随分と面白い形をした水筒だな」


「親父が冒険者の時に使っていたヤツですよ、どっかの国で珍しさに負けて買ったらしいけど、レアアイテムじゃ無かったって愚痴ってたのをくすねて来たんです」


 前編と後編は嘘だが、中編部分は本当だ。

 どっかの国=地球の日本って言う、超が付く程の拡大解釈だけど嘘では無い。


「親父さんに怒られるぞそれ……って全部貰っちまっていいのか?」


「大丈夫です。【大戦斧バトルアクス】に会ったらすぐに出る予定なんで」


 最悪休息所に居なくても水に関してはアヤカの魔法で補給可能だし、こちらとしては何も困る事は無い。

 寧ろアヤカは、自分が魔法を使える事を知られる方が嫌がるだろうし。


「それじゃオレ達はこれで」


「ああ、水ありがとよ!」


 休息所に向かったって事は、多分休憩か食事で寄ってるはず、まだ居てくれれば助かるんだけど……。

 それに一番の心配はメルディと話して貰えるかだ、正直自分に年単位で嫌がらせをした相手と話せる人なんてそうは居ない。

 リスティルが拒絶の意志を示すならその時点で説得は諦めよう。

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