第31話 隠し部屋

「ねぇお兄! こっちに来てよ!」


 倒したギャングエイプを仕舞ってる中でユウカの声が響く。


 そういえば戦闘の余波で砕けた壁に、気になる点を見つけたって言って調べてたな。

 オレ達には鑑定系のスキルが無いからユウカに一任してたけど、何か珍しい物でも発見したのか?


「どうしたんだ?」


「これ! ここ見て! 何か隠し部屋っぽいの見つけた!」


 興奮気味のユウカの指先には、砕けた壁とは違う、鉄扉の一部の様な物が露出していた。


 確かに隠し部屋っぽいな、しかも未発見か?

 2階層に到着した時、壁や床は砕けたりひび割れたりしてたから、タンジョンの力で修復される様な物じゃないみたいだし。

 まぁ年単位の時間をかけて修復って言われたら間違いになるけど、だとしても、長期間探索されてないor未発見レベルの部屋だ、何か面白い物が有るかもしれない。


「隠し部屋って聞こえましたけど」


「ああ、この魔法で崩れた壁の所にね」


「本当ですね、壁は石材なのに、コレは鉄ですか?」


「分かんない!」


 とりあえず見つけたんなら壊して調べてみるか、扉を開ける前に調べて問題無ければ開ければ良いし、有ったら………要確認と相談だな。

 壁の破壊は……魔法でいいか、ただそんな威力の魔法だし、念の為、余波と破片で怪我をしない様に出口付近に移動しておくか、味方の魔法で負傷とかカッコ悪い。


「ユウカの魔法で壁を破壊してくれ」


「おけ……それじゃぁいくよ!」(中級炎魔法フレイムブラスト


 黄色がかった炎が一直線に壁へと飛んでいく、そして壁と炎が接触した瞬間、炎が爆ぜ、大きな爆発と爆風を生み出す。


 炎魔法を初めて見たけど、これを魔物に叩き込んだら威力は十分以上にあるけど、確実に買取額が下がるな、毛皮と革は燃えて、場合によっては爆発で原形を留めない可能性まである。

 やっぱり狩りに使うなら雷魔法が威力・速度共に安定だな。


「やっぱり隠されていたのは鉄製の扉みたいですね」


「あの扉自体に罠はある?」


「無いっぽい、周りにも無いから後は中がどうなってるか」


「了解、なら状態異常無効化スキルを持ってるオレが見て来るから、念の為ここで待機しててくれ」


「危険な事には変わりないですから、気を付けて」


 さて、どうするか。

 罠は無いけど中に魔物が居て、速攻仕掛けられるのも嫌だしな、扉を蹴り飛ばして開けるか?

 ダメだな、蹴り開けてもし中に罠が有って、ソレに当たって動作されても面倒だ。

 という事はオレが出来る事は、普通に扉を開く事だけ、但し、自分にも仲間にも被害を最小に抑える方法で。


 オレは扉の横壁に立ち、刀に左手を掛けてドアノブを回して一気に扉を開く。

 そして開ききった瞬間に壁から飛び退き、中から魔物が出てこないか構える。

 だが行動とは裏腹に中からは何も出てこない。


 何も出てこないな、って事は魔物は無しと見ていいな、中は………宝箱が1つ、それ以外は何も無しか。


「中に宝箱があるだけだから、3人共来ても大丈夫だ」


 そう声を掛けるとオレの傍まで寄って来る。

 だが中にまでは入らず、ユウカの鑑識眼待ちだ。


「部屋は大丈夫、でも宝箱は罠が有るって出てる」


「罠付き宝箱か、ならオレの出番だな」


 3人をオレから少し離れさせ隠し部屋扉の前で刀を構える、そして。


「風刃!」


 宝箱の鍵穴に向けてスキルで攻撃する。

 ガキン!という音と共に箱が開き、同時に矢が数本、宝箱前の床に突き刺さる。

 これが任せてくれと言ってた理由、宝箱の罠を遠距離から作動させる事。

 これであれば床や壁・天井にどんな罠が有ろうと関係が無く、また開けた者への呪いや毒煙等でも、状態異常完全無効化スキルを持っているので無意味となる。


「罠は任せてと言うので何かと思いましたが、完全に力技じゃないですか」


「だけどオレがやれば確実で、色々間違いないだろ?」


盗賊シーフの存在意義が危ぶまれる開け方ですねコレ」


 さて、宝箱の中身は――――ブレスレットが1つ? しょっぱくね?

 赤い宝石が散りばめられたブレスレット、売れば結構値の張る宝かもしれないが、まぁまずはユウカにだ。


「すまないけどコレも鑑識眼スキル視てもらえる?」


「あーい………ってこれ、マジックアイテムだね、パワーシンボルだって」


 パワーシンボル(Rレア):散りばめられた魔石で装備者の力を補助する

 効果:力+100 価値:金貨13枚


 力をアップさせるマジックアイテムか、便利ではあるけど、贅沢を言えば固定数値アップよりも、何%アップの方が欲しかったな。

 固定数値だとステータスが上がれば上がる程効果の恩恵が薄くなるのがな。


「オレは要らないな、効果が正直微妙」


「私も同じく必要無いですね、魔物もまだまだ一撃で倒せますし」


「魔法メインの人間には完全に無意味」


「それじゃティナにあげちゃっていいな。ハイこれ」


「ちょっっっと待って! 3人共レアアイテムに執着が無さ過ぎぃ! 売ったら間違い無く金貨数枚から10数枚は確実な物だよ! 攻撃力もグンっと上がるんだよ!」


(レアアイテムをそんな簡単に! 仲間内でさえ物によっては代金を支払って購入するって聞くのに、「あげちゃってもいいな」、ってそんな!)


「この辺の連中なら一撃だし」


「私も」


「魔法使いに力は意味無くない?」


 ティナなら今のステータス的に恩恵がデカイと思ったからあげたんだけど、なんか問題があったのか? 金属アレルギーとか?

 無いな、普通に武器に金属使われてるし、何より素手で触れてるし。

 それに金貨数枚~10数枚って言われてもなぁ、Aランクの魔物を狩れば割と直ぐに稼げるし。


「でもナナセさんが装備すれば、Aランクの魔物も倒せる様になるかも知れないんだから、絶対にナナセさんが使うのが良いって!」


「いやAランクの魔物は倒せるよ?」※8話にてAランクのレッドファングを討伐


「ふえ?」


「あれ、オレ言ってなかったっけ? Aランクの魔物なら倒した事あるよ、割とすんなり」


「Aランクの魔物を倒した? 割とすんなり?」


「間違いないですよ、因みにその時出た魔石が―――コレです」


「リライン近くの森で狩ってた頃だから、3週間位前だよね」


「リライン近くの森って……魔獣の森で狩りしてたの!?」


(あの森って確かCランク以上の魔物、特に獣系の魔物がうじゃうじゃ生息してる所だよ!? いや、Cランク冒険者を圧倒出来るから強い人達とは思ってたけど、まさかAランクの魔物まで倒せるなんて、と言うかあの魔石レッドファングのだし………私、本当に凄い人達に誘って貰えたんだ)


「ってわけでコレ、戦力強化も兼ねて使って」


「あ……はい」


(強いのにレアアイテムに執着が無い、パーティー内では揉める事は無いけどこれは……、他の冒険者達がそれに気付いたら絶対に狙われちゃう! でも、そんな事絶対にさせない! 私が! 私に出来る事で全力で防いで見せる、それが今の私に出来る恩返しだ!)

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