第23話 「Yes,Ma'am」
昼食を取った後、オレは下ごしらえの一件で、ユウカから正座での説教を受けていた。
実際自分のやらかした事とは言え、口は災いの元とはよく言ったものだ、原因口じゃなく表情だが。
その後に口が滑った結果がコレだ、アヤカもティナも現状を見て苦笑いしてるよ。
それに普段公平の代表と言える、アヤカが止めに入らないってのは、これをある程度理解出来る事と判断してるんだろう。
「さて、私も鬼じゃないから、お兄の弁解くらいは聞いてあげるよ、あくまで聞くだけだから勘違いしないように」
それって弁解は聞くけど、有罪判決と刑罰の内容は変わんねって事ですね、分かります。
「えーその、何と言いますか、料理出来るのが意外と思った訳じゃなくですね、オレが思ってたのは、包丁で皮剝き出来る事が凄いって驚いてただけなんです」
「へぇ~私の事、皮剝きすら出来ない奴と思ってたんだ、ふ~ん」
ダメだこれ、何を言っても悪い方に取られて首絞めるやつだ。
確かに意外と思った後で、逃げる様に薪拾いに行ったのは悪手だ、あの時にどうカバーするかで、結果は大きく変わると分かっていたハズ。
「私普段から姉さんに言われて、料理の手伝いとかするんだけどねぇー」
「すみません、いつも軽い口調で話すものですから、てっきり細かな作業は苦手と勝手に思っておりました」
「つまりガサツだって言いたいんだー」
あぁ、時間を戻せるなら「ユウカは料理が出来る、驚くな」と注意喚起しに戻りたい。
でも、いつまでもこのままじゃ解決はしないし、誠心誠意の謝罪が伝わる様に、アレをやるしかない。
オレは正座のまま身支度を整える。
そして一呼吸置いて、まずは姿勢を正す。
背筋を伸ばし、手の平を地に付ける。
その際に指は互いに向かい合うように気を付ける。
そしてゆっくりと深く腰を折り曲げる。
そう、日本人の謝罪の究極形態、
更に、謝罪の意を込めて一言。
「下ごしらえをするユウカを見て、驚いてしまった事、そしてそのせいで不快な思いをさせた事、大変申し訳ございませんでした。今後はそのような事が無い様に注意致しますので、私の謝罪を受け取って頂けませんでしょうか」
横の方で誰かが吹き出す声が聞こえる、多分、と言うか間違いなくアヤカだ、これの意味を知らないと吹き出す何て事にはならんし。
「…………」
「…………」
ユウカの沈黙が重い、でも頭のてっぺんから、背中にまでプレッシャーを感じる以上、頭は上げられない。
それは許しの言葉を貰って、プレッシャーが解けて初めて許される行為、それまでは絶対に頭は上げられない。
「……はぁ、わかった、本気で反省してる見たいだし、今回 だ! け! は! 許すけど、次やったら楽しみにしといてね」
「
「あと、ダンジョン都市までの道中で、私が疲れたらおんぶすること、わかった?」
「
「じゃあ許す」
「ありがとうございます!」
言質を貰った! 背中のプレッシャーも………消えたッ! 許されたぁぁぁ!
土下座状態から体を仰向けにして大きく伸びをして一息。
「そろそろ出発しましょうか」
「りょー」
「わかりました」
出来ない。既に後片付けも終わってるし、大人しく出発しよう。
そうだ、移動中にこの前考えてた、ダンジョン内での隊列について相談しておくか、一応素人のオレが考えてる物はあるけど、皆の意見もあるだろうし、それを反映させた上で、納得出来る形にするのが望ましい。
「3人共いいかな、ダンジョンを探索する隊列について話したい」
「隊列って、軍隊とかなら規律の為って分かるよ、でも私達みたいな少数でやると、なんかごっこ遊びっぽいけど。効果はあるの?」
この一言にユウカは疑問を投げかける、ごっこ遊びっぽい、意味があるのかと。
「ま、確かにごっこっぽいのは分かる、実際ちっちゃい時そんな遊びしてたし」
「でしょ、流石に大きくなってからもやるのは恥ずかしいよ、お兄」
「本当に恥ずかしい事だと思う?」
オレはさっきまでの
「え?」
「隊列の意味をよく考えて見なさい、軍としては規律を守らせて、上官の指示に従わせる意味もあるだろうけど、私達の場合はそうじゃないわよ」
流石アヤカ、助かる。
「ティナに聞きたいんだけど、隊列に意味はないと思う?」
パーティー内の索敵を担当するティナに意見を聞いてみる、何せ一番隊列に関して重要な立場だ
「私は各自がそれぞれ警戒をすると言う意味では、十分にあると思います」
「そう、だからこのままダンジョンに入ったら、ティナの精神的な負担が大きくなるから、皆で分散して持とうって事さ」
ユウカはハッとする。
恐らく初めて森の中に入った時を思い出したんだろう、自分が
そして、自分を含めたパーティー全員分の
「ユウカには悪いけど、これからは有事の際に、自分一人でも事態を解決出来る様に、考察力を鍛える意地悪な言い方をするから」
「うぇ~、普通に言ってくれた方が、お兄にも私にも楽だと思うんだけど」
「それはそっちの方が楽だけど、探索や旅の途中で罠にかかって、あなた1人になったらどうするのよ、その時どうしたらいいか考えられないと、命を落とすわよ」
「私もがんばって考えるから、ユウカも一緒に頑張ろう」
魔法が存在して、それで何が出来て、どこまで出来るかが分からない以上、万が一が無いとは言い切れないからな。
オレ達の想像を越える魔法トラップや、マジックアイテムの存在、考えた所で切りが無いだろうけど、死なない為には嫌でも考えさせられる。
こういう事を考え出すと、本当に冒険者って考える事が多いな、テキトウに魔物を狩って~とか言ってた自分に、「んな楽な訳ねーだろ」と言いたい。
「それで話を戻すけど、警戒するって意味で隊列を組むと、誰がどこに就くのが良いか考えて欲しい、理由があると尚いい」
「なら私からいいですか?」
「ああ、どうぞ」
「私の案は前後2列として左前に私、隣にティナさん、私の後ろにユウカ、ティナさんの後ろにカズシさん、更に後列は少し外側に配置する形でどうですか?」
後列を少し外側って事はハの字形の隊列にするんだな。
「因みに理由とかはある?」
「はい、前列の位置を逆にすると、剣を抜く際にティナさんに当たる可能性を考慮して、後列はカズシさんがティナさんの背後と、右をカバーしてもらう為ですね」
「姉さん、私のカバーは?」
「あなたは無詠唱で魔法を撃てるでしょ、あとカズシさんを右後ろにしたのは、無手でも高い戦闘スキルがあるからです」
なるほど、オレはティナの位置的に刀が振りにくい可能性も入れて、格闘術込みでの配置か。
だがこれだと、ティナのカバーに関しては前後左右に展開出来る分、ユウカが手薄になってるな、魔法を速射出来ると言っても、ダンジョンでの回復役も兼ねてるから、余り手薄にはしたくないな。
「でもユウカは治癒魔法も使えたよね? ポーションがあると言っても、治癒魔法を使える人の守りを緩くするのは、危険にならないかな」
ナイスティナ、オレの疑問点を指摘してくれた。
「そこは身内を信じているのと、自分で考えさせる分厳しくね」
「それただの根性論でしょ!」
「あなたには良い薬になると思うけど?」
とまぁ、多少火花が散って姉妹喧嘩が勃発しかけたが、それぞれ意見が出る。
ユウカの案は前列にアヤカ(左)とユウカ(右)、中列にティナ、後列にオレ。
前後の守りは堅いものの、中列両側面にやや開きがあるが、前列と後列がそれをカバーする形。
ティナの案が前列にティナ、中列にアヤカとユウカ、後列にオレ。
索敵をするティナを先頭に、中列に中近距離攻撃可能なアヤカ(左)とユウカ(右)を、後列にオレ
初手先頭に居るティナの守りが一番手薄になるのが気掛かりだ。
オレの案が前列にアヤカ、中列にティナ(左)とユウカ(右)、後列にオレ。
先頭を攻守共に中近距離対応可能なアヤカ、中列にユウカとティナ、殿をオレ。
かなりティナの案に似る形だが、他の3人にはどう受け取られるか。
「それじゃ各自の意見が出揃った所で」
「急げ急げ!」
「振り向かないで逃げろ!」
街道の外が騒がしいな、逃げろって声が聞こえるけど、魔物に追っかけられてたりするのか?
ティナが声のした道外れを探すと、丘下の方で冒険者と思しき数人が、5つの毛玉に追いかけられてる、魔物だろうけど何だあれ。
「あれはFランクの冒険者達だね、んで、毛玉がディシーブシープ、Dランクの魔物っぽい、ツノは武器ってより引っ掛けて倒す為ので、純粋に突進自体が武器みたい」
「あの巨体から繰り出される突進とか、考えるだけで怖くて、正面とか立てないですよ」
「ああ、突進って攻撃方法がまた厄介だな」
「単純な物ほど攻略し辛いって言いますしね」
「とりあえずあの冒険者達を助けよう」
上から見下ろす形で、尚且つ、追い付いて勝てるからよかったが、そうじゃ無かったらどうしてたかな。
冒険者は全てにおいて自己責任の職業だし、巻き添えで全滅はしたく無い、となると、やっぱり自分らで何とかして貰う様にお祈りか。
オレ達は相手の先回りをして駆けつけると、先頭を走る冒険者から声が届く。
「おおい! あんた達助けてくれ! 魔物に追われてるんだ!!」
「丘上から見ていた! 速度を緩めずにオレ達の後ろまで走れ!」
「ありがてえ!」
「アヤカは鞭形態で足を落として動きを封じて、ユウカは
「「「了解!」」」
どう倒すかを話し終わった直後に、男女の冒険者達と擦れ違う、その瞬間。
「あと頼む」
「がんばってね!」
「アレは譲るわ!」
…………は?
思わず振り返ると、連中は全力で走り去ってく。
…………………………は?
「カズシさん来ます!」
くっそ、あいつ等は後回しだ!
「絶対に正面には立つなよ!!」
オレはその一言の後、先頭を駆けて来る1頭の首に向けて刀を抜く。
「セイッ!」
「エ゙エェ゙ェ゙ェ゙ェェェェ!!」
!?
なんだこいつ、首を斬ったのに…手応えが全くない!?
「お兄!前!!」
「後続のヤツか!!」
体勢を戻して、再度刀を構えて駆ける。
「エ゙エ゙エエェ゙ェ゙ェ゙ェ゙ェ゙!」
もしかして首は思ってるより深い所にあるのか? 羊毛で捉え難いったらありゃしない……もう一刀!
「オオォォ!」
ガツッ!
今度は抜刀のポイントがズレた!? 何なんだコイツは!!
「ナナセさん後ろ!!」
最初のがUターンして戻ってきやがった! ってか、何なんだコイツ等は!!
手応えが無かったり、ポイントがズレたり!!
「エェ゙ェ゙ェ゙ェェェ!!」
「訳分かんねぇヤツだな本当に!! 風刃!」
「エ゙ッ!」
《
「どうしたのお兄、凄い苦戦してたけど」
「いつものカズシさんらしく無い動きですけど、何かあったんですか?」
アヤカ達がいつもと違うオレの様子に駆け寄って来たので、オレは対峙した時の事をざっくりと説明する。
「本当にすまない、それが、最初の一撃を首に入れたんだけど、全くと言っていい程手応えが無かったんだ、完全な空振りと言っていい」
「確かにナナセさんが攻撃した後も普通に走ってましたね」
「だからその次のは、もっと深い位置に首があると思って攻撃したら、随分手前でぶち当たって止められてさ、訳が分からないから最後はスキルで仕留めたんだよ」
「そんな事が……私は鞭形態で近付かずに戦ってたので、気付きませんでした」
「ちょっと調べてみるか」
倒した魔物を並べて調査してみると面白いことが分かった、こいつ等は各個体で体格が太い個体と、細い個体が居るという事、そして細い個体は大量の毛でそれを隠して、太い個体そっくりに見せているという事だった。
「こんな絡繰りがあったのか、分かればどうって事はないけど、事前情報無しでの初戦闘だと混乱するな」
「もっと注意深く魔物を見ないとダメですね」
アヤカの言う通りだ、いい勉強になったわ。
「それもそうですけど、あの人達、本当にあのまま走り去ってっちゃいましたね」
「倒せないにしても、せめて戦闘終了まで待てっての」
「まあ彼等からしたら、倒せなかった時の事も考えての行動かもしれませんが、ちょっとモヤモヤしますね」
「オレは正直イラッと来た、走り去り際に一言いってたんだけど、ラッキーと言わんばかりのテンションだったんだぜあいつ等」
顔を覚えるのは得意だからな、次会っても絶対に助けてやんねぇから。
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