行動編

第22話 ダンジョン都市へ

 夜が明けて朝日が昇り始めた頃、まだ誰も起きていない時間にオレは1人で露天風呂に入っていた。


「露天風呂から眺める朝日とか、贅沢な一日の始まりだな、とはいっても、この後直ぐに出発になるから長湯は出来ないけど」


 オレは寝汗を流して着替えたあと、リビングで髪を乾かしていると後ろから声を掛けられた。


「おはようございます。カズシさん」


「おはよう。アヤカ」


「お風呂に入ったんですか?」


「ああ、寝汗を流す程度にね」


「ユウカはまだ布団から出る気はないし、私も入ってこようかな………!そうだカズシさん、もう一回、今度は2人で入りませんか?」


「なっ!?」


「冗談です♪。 それじゃ入ってきますね」


 そう笑いながら室内風呂に向かって行った。


「びっくりしたな……考え方や性格は違うのに、やっぱり姉妹なんだなぁ、いや、普段冗談を言わない分、ユウカより威力がある……」


 それから15分くらいしてからユウカとティナが、少し後にアヤカが風呂から出て来たところで、各々挨拶をして出発の準備に掛かる。


「みんな荷物は全部持った?」


「大丈夫です」


「私も全部持ちました、と言うより、アヤカさんが預かってくれました」


「おっけー」


「ユウカだけもう一度確認しなさい」


「なんで!」


「あなたが一番やらかすからよ」


 軽く冗談を言い合いながら、オレ達は1階ロビーへと向かうと、そこにはある人物が待っていた。


「皆様、お身体は十分に癒えましたでしょうか」


「はい。バンクスさんのおかげで全快です」


「あのお部屋、特に温泉は室内、露天どちらも本当に良かったです」


「ありがとうございます。お泊り頂いたお客様にそう言って頂ける事が、私達の励みとなります」


「代官様の紹介とは言え、あんな素晴らしい部屋を用意してもらい、ありがとうございました。今度は自分達の力だけで泊まれる様に、名を上げてから来ます」


「かしこまりました。スタッフ一同、またのお越しをお待ちしております」


 深々と頭を下げるバンクスさんに、オレとアヤカは会釈を、ユウカとティナは別れの挨拶をしてホテルを、そして街を後にしてダンジョン都市へと向かう。


 さて、これからは4人パーティーでの行動だが、ティナにはオレ達が異世界から来た人間だって説明すべきか、それとも秘密にしておくべきか、アヤカとユウカにも相談しないと判断がつかないな。

 散々目の前でスマホやらソーラーバッテリーやら、使っといて今更感満載でもあるが。


 それ以外にも元の世界に戻る為の情報収集も、ぼちぼち進めないとだ。

 かと言って、闇雲にダンジョンに潜っても当たりを引ける可能性は低いし、冒険者間の噂や口伝、他にも書物なんかで異世界に関する話があれば、そこから調べて行くしか今は無いか。


「ねえ、お兄」


 街を出る時に買った朝食をムシャりながら、ユウカが聞いてくる。


「ん?」


「お兄が言ってたティナのレベルアップと金策って、どれくらいまでやるの?」


 そういや具体的な案なんも出して無かったな、どれくらいか、今のティナはEランクの冒険者だし……。


「待って、林の方から何か来る」


 全員で林の方を警戒する。


 …………………


 が、何の音も聞こえないな。


 ………………ヴィィィィィィィ


 おっ! 聞こえて来た、しかもこれは羽音か? それがこっちに向かって来てるのか。


「ティナ、こっちに来てるのは魔物でいいんだよな?」


「間違いなく魔物です、数は1」


「オレが前に出る、ユウカは相手が出て来たら即鑑識眼視てくれ」


「おっけー」


 ガサッ!! ヴィィィィン!


 …………ここが異世界だから覚悟はしてたけどさ、それにしたって蜂でっか!

 オオスズメバチとか比較にならんな、昆虫系の魔物ってこんなんばっか?

 普通に嫌なんだけど。


「すごい大きな蜂ね、ユウカ、この魔物はなんて名前なの?」


「ニードルビーって言うEランクの魔物だって、危険なのは大顎と針、あと針には弱いけど毒があるみたい」


 毒で獲物を弱らせてから大顎で食うって感じかな、ランクもティナと同じだし、どう戦うか知るいい機会だな。


「丁度いい、今のティナの実力を知りたいから、1人で戦ってみてくれ」


「えっ! いきなり1人で戦わせて大丈夫ですか!?」


「危なくなれば直ぐ助ける。ティナは一切買取の事を考えずに戦ってくれ、今の段階でどれくらい動けるかが見たい」


「わかりました」


 さて、ティナの実践を見るのはこれが初めてだ。

 攻撃を仕掛けようにも相手は上空、簡単にはさせてくれない、しかもここは街道近く、木々を使って立体的な動きも出来ない、遠距離攻撃の手段が無い者にとっては圧倒的に不利だ、そんな相手にどう戦う、どう倒す。


 ヴィィィィィィン!


 ん?


 カチッカチッカチッカチッ!


「あのさ…お兄、もしかしてだけどアイツ……こっちに向かって来てない?」


「なんでか知らないけど来てるな、2人とも下がってて」


 ヴィィィィン!


「お前の相手は、あっち…だっ!」


 刀の鞘を使ってニードルビー殴る


「ギィィィィ!」


 殴り飛ばす際、上手くティナの方に吹っ飛ぶ様に調整する。


 なんで人数の多い方に来るんだよ、普通少ない方に向かうだろう、態々多い方に来てタコ殴りにされたいのかアイツは。


「えっと……このまま続けちゃってもいいんですか?」


「ああ、倒して大丈夫」


 その言葉と同時にニードルビーは、再度大顎をカチカチと鳴らして威嚇している。


 対してティナは短剣を逆手持ちか、何となく狙いはわかったぞ、後はあいつがいつ攻撃しに降りて来るかだな。


 カチッ!カチッ!カチッ!ヴィィイィィン!!


「動いたわ!」


 多分ティナの狙いは、安全に攻撃出来る背面からのカウンター、それも硬い頭や胸・腹は避けるだろうから、攻撃するのは羽か胸部と腹部の間にある細い部分、図体がでかい分どっちも狙い易いだろう


「キィィィィィ!」


 腹を大きく振りかぶったって事は針か、だがティナもしっかりと相手を見据えてるな、勝負は擦れ違う一瞬。


「ギギッ!」


 ニードルビーが針を振って来た、それをティナが避けて………いや! ニードルビーも捉えてる。


「大人しくしてろッ!」


「ギィ゙ィ゙ィ゙ィ゙ィ゙ィ゙!」


 上手い、擦れ違い様にメイルブレイカーで眼を潰した。


「リヤァァァアァァァ!!」


「ギッ!」


 回避の際に生じる体の捻りと、力の入れ易い逆手持ちから繰り出された一撃が、胸部と腹部の間を斬り離した。


「ふぅ、これが今の実力です」


 同じEランクなら余裕を持って倒せるレベルか、それにどこを狙って、どういう風に攻撃するか、そして咄嗟の機転、誰も頼れないソロで活動していたからか、的確な判断だったと思う。


「お疲れ様、いい動きだったよ、特に擦れ違う瞬間、追われてる事に気付いての一撃、それで生まれた硬直で最後の一撃がキレイに入った」


「それはナナセさんが最初に一撃入れてたから、アレのおかげで動きが鈍ってましたし」


「というか、お兄はあのでっかい蜂平気なの? 私普通に怖いんだけど」


「実は、私もちょっと」


 女の子は大小かかわらず昆虫は苦手な子が多いだろうな、しかもこっちのは体長が数倍だから尚のこと。


「オレは状態異常無効化スキルのおかげで怖いとかは無いかな、寧ろ怖いと言うより、小さい蜂の方が嫌だな」


「え? 小さい蜂が嫌なの?」


「そうだね」


「どうして?」


「小さいから仕留めにくい、デカイのは大顎と針に気を付ければ倒し易そう」


「倒し易そうって、お兄」


「そんな理由なんですね……」


 何だろう、また2人に若干呆れられた感がする。

 いや、状態異常無効化なんて無ければ、オレもあのサイズにはビビってたと思うよ?

 本来は恐怖を感じてもおかしくないのに、感じてないって事は、十中八九無効化で恐怖感が消えてる可能性が高い訳であって、オレが呆れられる理由にはならないと思うのだがお二人さん。

 でも正直、恐怖が無いって言うのも、時には判断を間違う原因になるから、困りものではある、なってしまった以上はどうしようも無いけど。


「ともあれ、今のでティナの目標は決めたよ」


「どれくらいまで上げるんですか?」


 アヤカがニードルビーの下に、ストレージ・スペースを展開して仕舞ってる、日に日にスキルの使い方が上手くなってく。


「1人でCランクの魔物を倒せるレベルにまで鍛える」


「Cランクの魔物をですか!? 私まだ、Dランクにすらなって無いんですよ!?」


 ぶっちゃけそんなに驚く事じゃ無いと思うけどなぁ。

 オレ達の次のランクはCだし、ティナ自身も、同ランクをサクッと倒せるのであれば、Dランクは遠くないだろう。

 それにオレが交易所で買って来たあの袋、ちょっと狡いけど、あれを上手く使えばそれこそDランクは直ぐだろう。


「多分だけど、ティナが思ってる程Dランクは遠くないよ、きっとね」


 一息ついた後、再度ダンジョン都市へと足を向ける。

 街道という事もあってか、さっきのニードルビー以外、特に魔物と会う事もなく、多くはセファートに向かう冒険者や商人だ。

 行き交う人達を見ながら歩を進めていると、あっという間に昼になる。

 邪魔にならない様に、オレ達は街道から少し離れた所で昼食を取る事にした。


「それじゃあオレは適当に薪になるのを集めて来るよ」


「あっ、私も手伝います」


「なら私達は下ごしらえをしましょう」


「りょ、メニューは何にするの?」


「そうね、夜は楽をしたいし、干し肉と野菜のスープを多く作って、夜はそれにホワイトソースを足して、シチューなんてどう? 美味しいし体も温まるわ」


「おっけー、んじゃー野菜の皮を剝いて一口大に切りますかー」


 意外! ユウカがジャガイモと人参の皮を、包丁で剝けるなんて!!

 オレは面倒だから、よく洗ってそのまま食ってたわ、やっぱユウカも女の子なんだな。


「お兄、包丁ぶん投げるよ?」


「まだ何も喋ってない!」


「明らかに意外って顔してたし、てかって事は、思ってはいたんじゃん」


 やべ、自分の事に関しては鋭いわこの子。


「薪拾い行ってきます。ティナ、急ごう!」


「ちょ! 置いてかないで下さい!」


「待てこらぁ!」


 それにしても野菜スープにシチューか、野菜も地球の物と瓜二つのがあったもんな。

 玉葱がオニオール、人参がキュロ、ブロッコリーがヴォロック、ジャガイモがパタフェ、多分味も同じだろう……同じであって欲しい。


「ナナセさん、一つ聞いてもいいですか?」


「どうしたの?」


「さっき言ってた、って何ですか?」


 しちゅーって何ですか?っと、もしかしてこっちにはシチューが無いのか?

 いや、もしかしたら単純に名前が違うのかもしれないな。


「シチューを簡単に言うと、バター・小麦粉・ミルクから作る、野菜や肉が入った白いスープ料理なんだけど、知らない?」


「バターやミルクは高級品で食べる機会がありませんでしたから、初めて聞きました」


 ちょっと待った、バターやミルクが高級品?

 別段高いってイメージは無かったけど、もしかして、冒険者や一般家庭では余り使わない物なのか?

 ティナのおかげで一般常識に関する新事実が出ること出ること、とりま自分の常識を随時更新、且つ、アヤカとユウカに情報共有だな。


「野菜と肉を煮込んで柔らかくする料理で、そのままでも美味いし、パンに付けて食べても美味いんだ、多分ティナも美味しく食べれると思うから、楽しみにしてて」


「はい!」


 美味しいと聞いて尻尾を振る当たり、やっぱりわんこ系だなぁ、癒されるわー。

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