第18話 新たな仲間 ティナ(ティネア)

 代官邸での話し合いの後、そのままユウカが受けたオーク討伐に出た道中で、ふとある考えが浮かんだ。

 ティネアってオークと戦える強さを持ってるのか?

 オークはDランクの魔物で、ティネアはEランク冒険者だ、勝てないって話にはならないだろうけどかなり危険になるんじゃ……。


「ねぇティネアさん、今の自分の強さでオークと戦うと、結果がどうなるか予想つく?」


 分からん事を自分の物差しで考えると最悪の事態を起こしかねない、考える事を放棄するわけじゃないが分からないなら素直に聞くのが一番だ。


「私の方が素早いので、多分1対1なら戦えるかと、ただ一撃でもいいのを食らうと、ダメージの具合にもよりますが負けると思います」


「一撃か……それならどこについてもらうか」


 危なっ、戦う前に気付いて良かった、一撃で戦闘不能になる可能性があるのに、倒すまで避け続けるなんて無茶過ぎる、ここはユウカの護衛付いてもらった方がいいかな。


「手っ取り早くステータス見せてもらって考えたら?」


 ユウカがサラッと凄い事を言う。


「あなたも冒険者なんだからステータスの重要性は知ってるでしょ、簡単に」


「どうぞ」


【名前】 ティネア・ラトリエ

【レベル】 10

【生命力】 195【魔法力】 26【力】 93【魔力】 35

【俊敏性】 142【体力】 105【魔法抵抗力】 29

【物理攻撃力】 93+15【魔法攻撃力】 35

【防御】 53+25【魔法防御】 15

【スキル・魔法】

 無し


 ティネアもティネアで自分のステータスを簡単に開示する。


「あの…ティネアさん、自分のステータスはもっと大切に」


「見られて困るステータスじゃないですし、何より皆さんは私を信じて見せてくれたじゃないですか、だから私も見せます」


 確かにステータスは見せたけど、それは安心させる為と早まらせない為………いや、だからと言って普通簡単にステータスは見せないな。

 だったらどうして散々出し渋っていたのに、出会って間もない彼女にオレはステータスを見せた?

 それこそ簡単な話だ、彼女は他言するような人じゃなく、自分を犠牲にして誰かを助ける事が出来る人だから、信頼して見せたんだ、それなら。


「ティネアさんはどこのパーティーにも入ってないんだよね?」


「そうですね、まだまだ駆け出しですし、スピード型の前衛は攻撃も耐久も低くて、強いスキルが無い限り避けられる傾向があるので」


 なるほど、冒険者になりたてじゃスキルが無いから、序盤の前衛は攻撃力か耐久力の数値が重要視されると、これじゃスピード型は苦しいスタートだ。

 確かティネアと初めて会った時もソロだったしな、そしてスピード型が育って来て、有能なスキルがあればパーティーに入れる………随分と都合の良い話だ。

 少なくとも【討ち滅ぼす者ウチ】は盾役も火力もオレが両方出来るし、アヤカユウカも火力がある。

 今一番欲しいのは、敵を察知して仲間の安全性を高められる索敵能力を持つ人、特に今後ダンジョンに潜る予定もあるから必須級だし、ソロ冒険者のティネアであれば誘っても誰からも苦情は無い。


「わかった、じゃあティネアさんさえよければ、正式に【討ち滅ぼす者ウチ】のパーティーに加入しないか?」


「え? あ…わ……私がですか?」


「それはいいですね!」


「 大 賛 成 」


「あの…誘ってくれるのは嬉しいんですけど、見た通り弱いしスキルもありませんよ? とても皆さんの役に立てるとは」


 世間のスピード型の評価自体が低いせいで、自己評価まで低くなってるな、実際は凄い能力を持っているのに勿体ない。

 ここは自分がどれだけ凄い能力を持っているか、説明した方がいいな。


「なら、まずは何を基準に誘ったのかを話そうか、初めに勘違いしてるけど、オレはステータスやスキルで誘った訳じゃない」


「え? でも冒険者とってステータスの数値は絶対で、それによってランクやパーティーに誘われるかが決まるんですよ」


「普通ならね、でもウチは盾もアタッカーもオレが出来るし、アヤカとユウカも高い攻撃力を持ってる、そりゃ高数値の方が望ましいけど、低いからダメって事はない」


「???」


 言ってる意味が分からないって顔してるなぁ、この世界の常識からいったらきっとオレの発言は、完全に頭のおかしい奴って判断されるんだろうな。


「決め手はティネアさんの索敵能力の高さだ、これはメンバーの命に関わる重要な部分で、オレ達に無い力だ、それに比べれば数値なんて幾らでもカバーが利くさ」


「私達の戦い方は、自分達の能力に任せた力推しでしたからね、事前に敵の位置や人数が分かれば、今より安全に戦う事が出来ますし」


「ちなみに私は索敵魔法は覚えてません、どうやったら使えるのかも知らないです」


 本当によくそんな状態で冒険出来てたな、もし自分達のステータスがこの世界の一般的なものなら、何度死んでたか考えるだけで恐ろしい。


「でも前にも言ったように、その時の体調に左右されるものですから、過度な信頼は危険かと」


「聴覚と嗅覚どちらも使っての索敵だと思うけど、体調が悪い時と良い時で、どれくらい差があるか分かる?」


「大体ですが……悪い時で多分50mですかね、良い時なら300m先でも余裕で、普段は大体200m位、あとは、臭いの強い相手ならもっと先でも分かります」


 悪くて50m………予想以上に距離が広い、索敵魔法がどれくらいの距離まで探れるのかは知らないが、50mでも十分過ぎるのに、200m前後先の相手すら察知出来るとか、今まで誘われて無いのが不思議なレベルだ。


「ちなみにその距離は人数まで分かったりする?」


「それも含めての距離ですね、でも索敵魔法が使える様になれば、私はただのお荷物に……なので」


「他のパーティーは知らないけど、ウチに限っては無い、断言してもいい、そもそも魔法の使用を前提にしてる様だけど、オレは違う」


「魔法使用が前提じゃないんですか? でも冒険をするのにそれは非効率過ぎじゃ」


「言いたい事はわかるよ、確かに魔法は便利だ、遠くの敵を攻撃したり、火を起こして暖を取ったり、水を作ったりも出来る」


 オレも、この世界に魔法が実在すると聞いて心が躍った(オレは使えないが)

 今までゲームや書籍の中でしか存在しなかったものが、冒険者となった今、現実のものになってる(オレは使えないが)

 しかし何度も魔法を使う所を見て考えた、魔法に慣れ過ぎて使えなくなった時どうなるのかと(m9とかプギャー等は思わない……)


「ならそれを使って、素早く効率的に進んだ方がずっと楽だと思います」


「だけどそれは魔法力があればの話だ、魔法力が尽きたり温存したい場合は使えないし、そもそも魔法が使えない環境に陥れば致命的だ、特にダンジョン攻略ならね」


「!!」


 元々魔法の概念が無い世界から来たってのと、自分が単に慎重過ぎるのもあるが、今まで使えてた物が急に使えなくなれば、パニックになりかねない。

 そしてパニックになった人なんて非常に脆い、言い争いになるだけならマシで、最悪、パーティ間の信頼が瓦解して解散……は無いにしても、確実に溝は出来る。


「だから魔法を使わず、同じ効果を出せるティネアさんを凄いと思ってるからこそ、オレはパーティーに誘ったんだ、レベルなんて幾らでも上げられるからね」


 これは一切嘘偽りの無い本心からの誘いだ、彼女が入れば確実にパーティーの強化になり生存率はグッと上がる、何よりも狐耳・狐尻尾がかわいい。


「私もティネアさんと一緒に、色んな冒険をしてみたい、色んな場所に行ってみたい」


「ティネアさんは私達と冒険するのは嫌?」


 更にアヤカとユウカの援護射撃も加わった。


「嫌なんてそんな、身を挺して私を助けてくれた皆さんを嫌な訳がないです!」


「それじゃ」


「でも余りにも力の差があり過ぎて……索敵が出来るだけで加入したとなれば、皆さんが他の冒険者から、悪い意味で目を付けられるかもしれません」


 高ランク冒険者のパーティーに入るならそうかもしれないけど、所詮オレ達はDランクなんだから、話題にすらならないと思うけどなぁ。

 まぁステータスに関しては、同じ前衛系のアヤカに比べて、4~5分の1になるものの、オレ達は全然気にしない。

 でもティネアにとって枷になるって事なら。


「強さに差があり過ぎるって事なら安心してほしい、ある程度の強さになるまで、魔物へのトドメはティネアさんにしてもらうから」


 この世界の経験値システムは魔物を倒した者に全て入る様になっている、その為倒すまでに与えたダメージ分なんかは一切考慮されない。

 魔物を倒す以外で経験値を得るには回復魔法や、バフ・デバフ支援による貢献で経験値が得られるのみで、魔法も使えず、更には魔物を倒せる機会の少ない職には、かなり厳しいシステムだ。

 コンシューマやオンゲの様に、倒せば経験値が分配されるシステムなら楽に上げられたが、世の中そう甘くは無いらしい。


「それなら安全にレベルを上げられますね」


「本当に私なんかがそんなにしてもらっていいんですか?」


「なんかじゃなく、ティネアさんが良いんだよ、他の冒険者が何て言おうと、私達が誰を必要としてるかは、私達が決めるんだから」


「ユウカが言った通り他の冒険者は関係無い、オレ達に必要なのはティネアさんだからパーティーに誘ったんだ」


 視線を落として考え込むティネア。

 だがこれでどれだけティネアが頼りになるかが伝わったハズだ、後はティネアが俺達との冒険をどう捉えるかだ。

 正直断られても仕方ないと考えてる、なにせティネアにはティネアの生き方があるんだから無理強いは出来ない。


「……私も」


「ん?」


「私も、皆と一緒に色んな冒険がしたい!」


「ティネアさん!」


「やったぁ!!」


「正直なんの長所も無い私はずっと1人だと思ってました、でもそんな私でも皆さんは私をちゃんと見てくれた、自分でも気付いてなかった長所を見出して、役に立てると言ってくれた!」


 冒険者の魔法至上主義とでも言うべきか、こんな有能な力を持つ人を魔法で同じ事が出来るからと、見極められない冒険者が大勢いる事に驚く、普通は逆だと思うんだが。

 まぁそのおかげもあって、ティネアと出会えたんだからある意味感謝しないとか。


「だから…求めてくれたことに応えたい! 今よりも絶対に強くなって、皆さんの仲間として恥ずかしくない様にがんばります! よろしくお願いします!」


「【討ち滅ぼす者アナイアレイター】にようこそ歓迎するよ、あと言葉は崩していいから、そっちのほうがオレ達も楽だし」


「なら今後は私のことをティナって呼んで下さい、親しい友達は皆そう呼んでましたから」


「了解だ、これからよろしくティナ」


 アヤカ達も両手のハイタッチで喜んでいるから誘ってよかった、女の子を誘った事なんて文字通り0だったし、もし断られたらきっと当分尾を引いてた。


「それじゃ今からティナのレベル上げと行くか」


「え? あの……今からって事はオークを、ですか?」


「あぁ、オレが死なない程度に斬って、アヤカが剣で押さえつけ、ティナが止めを刺す、ユウカはオークが逃げない様に魔法で拘束、良いレベリングだろ?」


「あ…いえ、そうじゃなく…私の攻撃力じゃオーク1匹倒すのにも結構時間が……」


 武器がナイフだもんな、刃渡り的に刺しても急所に届かない可能性があるか。


「ならオレの刀を使えばいい、かなりの切れ味があるから、動けなくなったオークの急所に突き刺せば簡単に倒せるさ」


「それだとナナセさんの武器が無くなっちゃうんじゃ……」


「大丈夫、オレ武器無しでも攻撃力1000超えるし、素手での格闘術も持ってるから」


「武器が無くても戦闘能力は、剣を持った私以上にありますからね」


「ぶっちゃけると、多分武器を持った姉さんと私の2人掛りでも勝てないよ? というか、本気出されたら攻撃自体当てられないかも」


「……マジですか?」


「「マジで」」


 引きつった顔で質問するティナに対して、呆れた顔で答える姉妹、その原因となった人物は特に気にする事なく、レベリングメニューを考えている。


 念の為手足だけじゃなく顎も砕いておくか、それなら噛みつきも出来なくなって危険度が更に下がる。

 当分の間このレベリング方法で買取額は落ちるけど、代官から貰った謝罪金もあるから資金面に関しては問題ないな。

 最低でもティナが自分を守れるくらいに強くならないと何をしても危険だ、単純なレベルの問題はこれである程度解決出来るとして、技術の方はオレやアヤカが稽古をつけていくか。


「んじゃ、ちゃちゃっと倒して街に戻ろう、紹介された施設も気になるし、色々と教えたい事もあるからさ」


 依頼書にあった、湖に住み着いたオーク12体を全てティナに止めを刺させて、さっさと撤収する。

 ギルドにオークの買取とティナの加入申請を報告した際、買取担当者から、何故全部の顎・両腕・両脚の骨がめちゃくちゃに砕けてるのか聞かれ、仲間のレベルアップの為、オレが殴り砕いたと説明すると、ありえないって顔でドン引きされた。

 モンクといった格闘系の冒険者が居ない訳じゃないだろうに世知辛い世の中だ。


 討伐報酬 オーク1匹 銀貨2枚×12匹 銀貨24枚 

 買取金は後日


【名前】 ティネア・ラトリエ

【レベル】 13

【生命力】 218【魔法力】 27【力】 115【魔力】 36

【俊敏性】 171【体力】 127【魔法抵抗力】 30

【物理攻撃力】 115+15【魔法攻撃力】 36

【防御】 64+25【魔法防御】 15

【スキル・魔法】

 無し


 依頼の完了報告も終わったし数日はゆっくり休めるとして、代官紹介の施設の前に居る訳だが。

 アヤカとティナは本当にここで合っているのか相談し合い、オレは紹介はリップサービスだったんじゃないのかと考えを巡らせ、ユウカは……純粋に目を輝かせている。


 何故そんな事をしているのかと言えば、今目の前にあるのは施設とは余りにも名ばかり、どう見ても一般人お断りな雰囲気を纏う貴族・上流階級御用達の高級ホテルがあるからだ。

 魔石を大量に使っているのか、他の宿と違い夜なのに明かりが溢れ、建物からは格式の高さが伝わってくる、少なくとも今の自分達では色々な物が最低限に遠く及ばない。


 紹介された以上、行かないと失礼に当たりそうだから来たけどこれは……、高級そうなイメージなんかじゃなく確実に高級だ。

 しかも前に最か超が付くやつ、とてもオレ達が宿泊して良いような場所じゃないぞコレ。


「悪いみんな別の宿を探そう、今のオレ達じゃこんな立派な所には泊まれない」


「余裕が無い訳じゃないですが、これだけ立派なら宿泊費だって相当な額になるでしょうからね」


 流石に生活費まで削って宿泊しようとは誰も思わないよな、とりあえず今からでも泊まれる宿を探さないと街中で野宿になるな、急がないと。


「待ってお兄、入口から誰かこっちに来てる」


 見ると確かに1人こっちに向かって歩いてくる、タキシード風の身なりから施設関係者の可能性が高いな。


「ここで話してるのが迷惑になったのかもしれないな、早いとこ場所を移動しよう」


「突然のお声掛け失礼致します、少々お待ち頂けませんか」


 穏やかな声で近づいて来た人物に話しかけられる。

 急いでここを離れようとするが遅かった、どうやら思ってた以上に相手に近付かれていた。

 声を掛けられたのに無視して逃げる様に離れるのもなんか違うし……話し合うしかないかぁ、仕方ないサッと謝って戻ろう。


「すみません、迷惑にならないようにすぐ離れますから」


「お気になさらないで下さい、それと…もしかしてなのですが貴方様のお名前はナナセ様ではございませんか?」


 突然見ず知らずの人に自分の名前を呼ばれて驚く。


「確かに私はナナセと言いますが……どうして名前を知って? 間違いなく面識はなかったと思いますが」


 少し警戒しながら疑問点を指摘する。


「おっしゃる通りでございます。皆様の事は代官様より丁重にお迎えする様に仰せ付かっておりました」


「はい?!」


 代官からって、行くかも分からないのに話がいってたのか!これでもし来なかったらオレはどっちの面子も潰すことになってたぞ。


「あのお話は嬉しいのですが、こちらに泊まるには私達では格が足りませんので」


 相手からも納得し易い理由を付けてここを離れよう、もし泊まろうものなら1泊で破産しかねない。


「格など必要ございませんよ、どうか私共を助けると思ってお泊り頂けませんか?」


 イケオジの柔らかスマイルでこんな事言われて断れるヤツ居んのかな、どうしたらいいんだコレ。

 オレが必死に断りの文言を考えていると横から。


「すみません、私達にはここは高価過ぎますので、お気持ちだけお受け致します」


 アヤカがスパッと一言且つストレートに自分達の現状を伝えて断った。


「ご安心下さい、代金は一切必要ございません、万全の状態で街をご出発して欲しいと、代官様が申し上げておりましたので是非」


 本来であれば頭を下げる必要がないにもかかわらず、一切躊躇せずオレ達に下げてくる、幾ら何でもここまでされるとは思っても無かった。


(どうしますか?)

 視線で訪ねて来るアヤカ、他の2人はどうだろうかと見ると。

(お任せします)

 ユウカは……目をキラッキラさせてる、それじゃ。


「それではお言葉に甘えさせて頂きます」


「おお! ありがとうございます。それでは直ぐにお部屋へご案内させて頂きますのでどうぞこちらへ」


 本当なら頭を下げるのはオレの方だ、後でしっかりお礼を言わなければ。

 イケオジは頭を上げると言葉通り直ぐに部屋へと案内してくれる。

 外から見ても凄かったが中に入ると大小様々な調度品が目に入る、ユウカ曰く鑑識眼で見たら、調べた物全て高級品だそうだ、ぶつかる事すら恐ろしい。

 だがオレが本当に驚くのはもう少しあとの事だった。

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