第9話 間奏 聖女の召喚
「おめでとうございます。あなたは異世界召喚に選ばれました」
美しい女神様が私に突然告げたのはそんな言葉。ふわふわとして光で満ちている空間はどれくらいの広さかもわからない。
私の名前は
大学一年生の入学式に向かう途中に青信号を渡ろうとしていた時、大きな音を聞いたことは覚えている。今なら分かる、あれはクラクションの音だった。
「あなたが行く世界は『戦華の聖女〜忘れ名草と誓いの法術〜』と呼ばれる乙女ゲームの世界。あなたはこれから救国の聖女として不穏な気配を持つ国の救済に力を貸し、かつての夢で見た忘れ名草を差し出してくれた愛しの存在を探すことになるのです」
「エ゛ッッッ!!!?!?」
喉が潰れてひっくり返りそのままアクロバットをキメたような音が出てくる。
戦華の聖女、そのタイトルに私は聞き覚えがあった。
遊んでいたゲームのなかで特にお気に入りの一作で、もうすぐリメイクが発売すると雑誌にも載っていた。
「戦華の聖女に私が!?主人公で!!?」
「はい。あなたがこれからいく国、グレイシウス皇国は「知ってます知ってます!」
興奮のままに言葉を遮る。女神様はそれにほんの少しだけ眉を寄せるが私はそれどころじゃない。何故なら、決して譲れない信念があったから。
「えええぇえ……!? つまり憧れのネグロ様やブラン様やマーヴィーきゅんに会える!?!? は? だが私が愛されるのは解釈違いなんですが????」
私は腐女子だった。
それはもう、小学校の時にSNSで推しのキャラ名で検索していたら出てきた漫画に首を傾げてから早数年。気がつけば無機物同士の絡みにすら萌えを感じてしまうくらい。
戦華の聖女をプレイしたきっかけだって、ネグロ騎士団長の亡き主人への忠誠心が熱いとフォロワーが言っていたからだ。
「本音をいえば主人公になるより壁になりたいんですが」
「無理ですね」
無理かぁ……。
「聖なる壁とかそんな名称で存在してあらゆるものを退けるとかはダメなんでしょうか!?!?」
崩れ落ちて床を叩く私の姿に哀れみを感じたのか、目の前の女神さまの眉がどんどんと下がっていく。推しに愛されるより壁になりたい派だし、あわよくば推しと推しが結ばれるのを見てスタオベしたいのに!!
「さ、さすがに会話ができないものとなると……。で、でも、代わりに今回は新規発売されるリメイク版の世界となっており、新たなイベントや攻略対象も追加されますから……!」
「イベント……攻略対象……」
それは素直に気になる。出会いたいしできるなら新規のイベントを楽しみたいしあわよくば新たな関係性で萌えさせてもらえないだろうか。
食指が伸びたのに気がついたのか、女神はますますこちらへと顔を近づける。美人の顔、圧が強い。
「ええ! ファンタジーの世界で多くの魅力あふれる方々と共に、世界を救済くださいませ!」
「主人公の女の子、女神さまみたいに美人だったしなあ……私もあんな風になれるんです? 二重瞼のきれいな髪……」
「もちろんです。では早速送らせていただきますね!」
意気込んだ彼女はそのまま止める間もなく手に持っていた杖をくるんと回す。金色の光が私の周囲を回り、その速度は直ぐに目にも止まらなくなる。
──まあ、美人になってイケメンたちの素敵なところを目撃できるんだったらいいかぁ……。
あわよくばネコをかぶって程々の付き合いで仲良くしつつ、推しの推しへの熱量を間近で浴びたい。
亡きヴァイスさまと彼の関係者であるネグロ、ブランの三角(?)関係は何せ私の最推しなもので!!
呼び出されていざ活動をはじめた時、
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