やまのいのち

Athhissya

第1話

2人の男が山を下る。慣れた足取りの父に背負われているのは足を挫いた息子である。


「父さんいいって、自分で歩ける。」

「黙って背負われてろ。」


一筋の稲妻が頭上に光る。耳元で銅羅を叩かれたような轟音に、青年が父にしがみつく腕に力を入れた時、さも銃弾のような勢いで、眼の前に石が飛んできた。


どざっ。


次の瞬間、青年は地べたに叩きつけられた。土を払いながら体を起こすと、側には父が力なく倒れていた。


「・・・父さん?」


呼びかけても反応がない。ついさっきまで頼もしく歩いていた父の体はぴくりとも動かない。青年は父の頭に石が当たる瞬間を目の当たりにしていたが、それと目の前の父の様子を結び付けられなかった。頬を叩いたり、呼吸を確認したりしても、目覚める様子はない。受け入れたくない現実を前に、青年は声にならない叫びを繰り返し上げた。それが呼び寄せたのだろうか。


熊だ。


熊が、いる。


青年は父親を諦めた。そのまま後ずさりして、村に逃げる。父親の教えの通りに。

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