ー幕間1ー 合流

「!!!」


突然湧いた同胞の気配を察知し、考え込み続ける権力者と何もしない能無しを無視して僕は走り始めていた。邪魔しようとして来た何かの横を通り抜け、正面から敷地外へと走り続ける。何かが追いかけて来た様な気もしたがそれすら置いて風が赴くままに走り続ける。

やがて風が止み近くに建物が見えなくなった頃、僕は足を止めていた。


「シル君!!」


声、姿、気配、その他全てが僕の同胞であり許嫁でもあるウンディーネに一致する。

気づいたら僕はディーネに飛び付いていた。


「うわーん。起きたら誰もいないし、ここ何処か分かんないし、訳も分からず襲われるし怖かったよー。」


「シル君も目覚めたら変な場所に飛ばされてたんだ…。私も隣に居た筈のシル君が消えてたからビックリしたよ。会えて良かった…。」


ディーネは僕の右腕を見て引き攣った顔をする。


「…シル君腕どうしたの?」


「現地民の話を聞くためにUMAから助けたら鎧の奴に落とされた。その鎧の雇い主の目的は僕らを利用する事らしい。」


僕の話を聞いたディーネから少しの殺気が漏れ出る。木々がざわめき、野生動物達が我先にと走り、飛び逃げていく。


「分かった。じゃあ私たちで潰そう。シル君を傷つけた奴はズダズラに切り裂いて生まれて来た事を後悔するまで嬲り続けよう。」


ディーネの目が血走り、僕を抱きしめている手には力が入る。


「でも相手はこの国の権力者みたいだよ?今の同胞らに国を潰せる程の余力は残ってない。トカゲに潰されなければ犠牲無しに潰せたとは思うけど…。」


実際あの悪夢でほとんどの戦力を失っている。僕らは増える事は得意では無いため一人も人員の補充が出来ていない。最速でも1人増えるのに数千年は掛かるし…。


「じゃあまずは権力の座から引き摺り落とそう。何千何万年掛かろうと私たちは構わないでしょ?末代に至るまで徹底的に根絶やしにしてあげよう。」


「ディーネ、怖い顔してるよ。」


「敵は排除しないと。もうこれ以上減ったら種の存続は不可能なんだよ?まぁ、余裕があろうとなかろうと私だけのシル君の腕を落としたんだから末代に至るまで皆殺しは確定なんだけど…。まずは権力と言う名の鎧を落とす方法はどうしようか…。」


「そんな事出来るの?」


「お姉さんに任せない!!旧時代の資料は全部目を通してるし、旧時代の話も長老から聞いてる。権力者を安全に地に落とす方法なんて無数にあるよ。」


その後聞かされた方法はあまりにも気が長い話ではあったが余所者である僕たちが正面から堂々と鎧を剥がせる方法だった。

一応僕からはこの奇妙な世界で体験した事を一から説明しこの国の人間は恐らく焚書にされて徹底的に消された歴史を知っている事などを共有した。


「それはチャンスがある時にするとして、先に帰る方法を探そう。今より遥かに科学文明が進んでいた旧時代にすらタイムトラベル及びワープの方法は確立されてなかったのならこの時代若しくはこの世界特有の技術がある事になる。」


「本当に神の悪戯だったらどうしようもないけどね…。」


「神様は一生物に肩入れしないでしょ。だからこれは人為的に引き起こされたと見て良いと思う。」


「となるとこの世界の技術、異次元だね。私達が住んでいた場所とは何か別の摂理が働いている事は間違いない。少し情報収集をした方が良いかもしれない。変装は必須ね。」


「でも動物の皮とか無いのにどうやって変装用意するの?」


「その辺の狩ればいいでしょ?」


「…言いづらいんだけど、ディーネのさっきの殺気で皆んな逃げちゃったよ?」


「あ…。」


ディーネは今頃地震から漏れ出る殺気に気がついたらしい…。

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