第29話 飲めや歌えや♪

「入手が難しい3つをすでに揃えておるのに何が問題なんじゃ?」

「「は?」」

 お爺さんが不思議そうに放った言葉に、どういうことだ?と俺はミルティアを見るが、視線を逸らしやがった!

 こいつ……。

 

「”神獣の爪"に"時の砂"に"境界の羅針盤"があるのじゃろ?気づいておらぬのか?あとは聖銀の大盤とエネルギー……魔力があればよいということじゃろう?」

 シディロムさんの方も何が問題なのかわからないといった風に質問をしてくる。

 それはそうだが。

 

「あとの2つは手に入るのか?」

「他の3つの入手難易度に比べたら雲泥の差じゃろう。聖銀の大盤などはお金があれば買えるじゃろうしのぅ」

 シディロムさんは真顔で衝撃的な言葉を口走った。

 

「えぇぇ???」

 買えるのかよ!

 

 というか、聞いてみたらそりゃそうだった。

 聖銀の大盤は神殿騎士とかが鎧や盾に使うような素材らしい。


 もちろん安いわけではないが、世界に1つとして存在するかどうか?みたいだった他の素材と比べると明らかに入手難易度が低い。

 もしかしたら俺も知らずに使ってるとかないかな?



「それに魔道具の起動に使う必要魔力の確保ということであれば、晶貨でもいけるじゃろうしのぅ!」

「はぁ???」

 まさかの晶貨……お金かよ。


 つまりなんだ?難しいと思ってた素材のうち2つはお金で解決できるものだったと……。


 俺はもう一度ミルティアを見るが……こいつ気持ちよさそうに目を閉じて温泉を堪能してやがる!!

 触るぞこのやろう!!


 

「まぁ、"次元の鍵"を動かすということであれば虹の晶貨が必要になるじゃろうがのぅ……」

「虹……ゴクリ」

 上げたり落としたりするのやめてもらえませんかねぇ。

 俺はがっくりと肩を落とす。

 

 虹の晶貨なんか見たこともないぞ。

 エフリードの街でダンジョン探索をしていたころの俺の年収の300年分くらいだから当然だろうが……。

 そんなもの逆にどうやって手に入れたらいいんだ?

 

「シディロムさん。神殿なら晶貨への魔力充填もできるよね?」

「そのとおりですじゃ」

 しかしミルティアの声は明るい。ん?どういうこと?

 

「それなら任せてよ、アナト!」

「えっ?」

「ボクが魔力をつぎ込めばいいんだよ。黒貨にね!」

 自信満々に水着で胸をはるミルティア。

 

 ほぇ?そんなことできるのか?

 黒貨なんか価値はないからいくらでも手に入るだろうけど。


「なんでそんなマヌケな顔してるのさ?」

 ミルティアが不思議そうに聞いてくるが……

 

「晶貨ってそんなことできるの?」

 俺はびっくりだ。なんでお金に魔力を流し込めるの?


「晶貨はね……古代神様がこの世界に残した魔道具だからね」

「どういうことだ?」

「説明すると長くなるから言わないけど、要するに晶貨はただのお金じゃなくて、エネルギーを貯めたり出したりできる魔道具の一種ということだよ。魔石の代わりにもなるんだ」

 先生モードになったミルティアが教えてくれる。

 なんでそんなものがお金として使われてるんだ?


「貯める魔力量が増えると、より高価な晶貨になって行って、最終的に虹になるんだけど、ボクは化身だけども魔力は十分足りると思うんだよね。魔力を投入するためには専用のスキルが必要だからボクだけだとできないけど、オルハレストの大神殿ならスキルを持ってる神官がいるはずだよ!」

 ドヤ顔をしているが、ミルティア先生……それがわかってるのになぜ高エネルギー結晶の代わりになるかもしれないという発想がなかったのかがわからない。

 


「いや、わかるよ。なんで気付かなかったんだって言うんだろ?」

 俺がボーっとしていたからか、ミルティアが言い訳を始めた。

 そろそろちょっと暑いんだけど……。

 

 しかし、これは本当にあのミルティアなのか?

 なにをやらかしても一抹の反省すら見せず、ただただ俺に非道な雷を叩きつけるだけだったあのミルティアなのだろうか?

 旅は人……こいつは神様の化身だけど……を変えるのか?



「なんか物凄く失礼なことを考えている目をしてる……」

 俺をジト目で見返してくるミルティアはやはり読心術は持っていないらしいな……ただ、経験上これ以上ふざけると電撃を受けるからやめておこう。


「そんなことはないさ。で、虹の晶貨で代用可能で、さらに神官のスキルの補助のもとで黒貨にミルティアが魔力をつぎ込めば虹の晶貨が作れるってことか?」

「あぁそうだね(ふふん)」

 なんか調子に乗っている感じの表情をしてるのがムカつくが……

 

「さすがミルティア……いや遊神様。むしろもう遊神というか美の女神様!!!!」

 とりあえず持ち上げてみた。

 

「清々しいまでの手のひら返しのコメントだけど、そんな棒読みで言われても心は動かせないよ?」

 くぅ、恥ずかしいのを我慢してとりあえず言ったのに何たる言い草……。

 それでも機嫌は悪くなさそうだ。

 やっぱりちょろいな。



「あとは聖銀の大盤じゃが、あれはそこまで珍しくないのぅ。オルハレストで買えばよい。となれば、よし!ワシが"次元の鍵"を作ってやろう!」

 マジで?お金は……って、ミルティアが魔力を入れれば作れるのか。本当にいいのそれ?


 でも、やった……。

 やったのか?

 本当に?

 喜んでいいのかな?


「とりあえずそろそろ出ようかのぅ」

「「あぁ」」

 俺とミルティアの返事は重なった。

 そうだよな。そろそろのぼせそうだ。



 


 温泉を出た俺たちは上機嫌で美味しい食事を堪能した後、お酒を飲みながら神殿の魔道具師……シディロムさんと言うらしい……にこれまでの旅路であった出来事を話し、ひたすら笑わせてやった。


「でさ~ミルティアっていうモンスターに効果抜群の武器を振り回してやったんだよな!」

「鬼でしょ?こいつ酷いんだよ!最低だよね!?こんな美少女な女神様を普通振り回さないよね!?」

「あっはっはっはっはっはっは」

 

「アナトってば、古代の神獣が初めて自分の境遇を笑わなかったとか言って感動なんてしてたんだよ?」

「おい、神獣様のことは言うなよ」

「あははははは」

 

「夜な夜な、『ママ~~~』ってさぁ」

「言ってね~よ。ふざけんな。俺は母さんとしか呼んだことね~よ!」

「あっれぇ???」

「あひ~~~~~~~」

 


 酔っぱらって気持ちよくなってやっちゃったけど、シディロムさん大丈夫かな?

 シディロムさんがエフリードの神殿長みたいに気絶して起きないとかないよな……。



 

 ミルティアは酔っぱらったのか、この温泉独自の衣装……長い布を方から羽織るもの……を着て、よくわからない曲を歌っている。

 いや、めっちゃうまいし、機嫌もよさそうだけど、こいつも大丈夫か?


 

 


 そして翌朝無事にシディロムさんが起きてきたことにこっそりホッとしたのは内緒だ。

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