第6話 正体バレっていい展開じゃない?

「な、何を言って...俺がそのカリス様と言う証拠はあるんですか!?」


そう言うと、ハルシュは淡々と話し始めた。


「証拠...ね、まず、さっき俺が出した大量の火球、あれは一個一個がかなり高密度の魔力で包まれていて、並の魔術師、いや、宮廷魔術師でさえも対処するのが難しい程だ。

だが君はそれをいとも簡単に対処し、俺の方に打ち返してきた。

そして...一番の理由として、君はまだ学生だ、学生が俺の火球を簡単に打ち返せる訳が無い。

これだけでも君が賢者カリスと言うに値する証拠となると思うのだが...どうかな?」


「ほう...結構色々証拠はあるんですね...」


この場だけ見れば俺が言い返す手段を考えているように見えるが、実際はなんも考えてない。


「さあ、君の本当の名を教えてくれたまえ...!教えてくれないと...」


「教えないと?」


「お前の秘密を一個大声で叫ぶぞ?」


「ひ、秘密って、俺がまだカリス様と分かったわけじゃないのに脅しですか...?」


「いや、お前はカリスだ、俺はそう確信している。」


もう最早ハルシュに隠し通すのは無理だと思い、仕方なく話す事にした。


「はぁ...ハルシュ、いつから分かってた?」


急にゴリゴリにタメ口で話したら普通は何か言うはずなのに、ハルシュは生前に俺と話してたみたいに話し始める。


「え?いつからって...入ってきてからだけど?」


「はぁ!?分かるわけねえだろ!」


「分かるわ、お前と何年一緒にいたと思ってんだよ...」


「つーかお前、アリスと結婚したんだな...」


「え?知らなかったの?」


「そりゃ...知らねえよ?」


「アリスに会うか?」


「良いのか?」


「ダメな訳ねえだろ?今は多分シルファと子供達と稽古をしてると思うから...広場に行くか。」


「あ、ちょっとシルファと話してからそっち行くけど大丈夫か?」


「ん?別にいいけど。」


「んじゃ、行くか...」


そして俺とハルシュが広場へと着き、子供達の方を見ると、子供達はシルファとアリスに丁寧に魔法を教えて貰っていた。


「おーい!みんな!ちょっと休憩しよう!」


そうハルシュが言うと、みんなが「はーい!」と言ってこっちへと近づいてくる。


そして俺はシルファだけを木陰に呼び出し、話をする事にした。


「どうしました?お師匠様...」


「えーっと...ハルシュにバレました...」


「はぁ...そうですか...」


「ん?反応薄くない?」


「いや、まあバレると思ってましたよ?」


「なんだそれ...」


「私より長い時間一緒だったんですよ?お師匠様の癖、使う魔法、それを見れば分かりますよ?私だって分かったんですし...ハルシュ様が分からないわけ無いじゃないですか...」


「ま、バレたらしょうがねえし、アリスにもついでに言っとくか?」


「うーん...別に良いんじゃないですか?もうこの際隠すのめんどくさくなってきましたし...」


「んじゃハルシュんとこ行くか...」


そう言い、俺はハルシュの所へと歩き出した。


ハルシュとアリスは大体2人で自分達の部屋にいる事が多いらしく、今はお昼なので、子供達はお昼寝をして、ハルシュ達はイチャイチャしているらしい。


そして俺とシルファは2人の部屋の前に来た。


「おい...思いっきり入るか?」


「ノックくらいはしてください...礼儀です。」と言われてしまったので、仕方なくノックをする。


ノックをした数秒後すぐにハルシュが出てきた。


「お、来たか...話は終わったのか?」


「うん。」


「んじゃ入ってくれ。」


そう言いつつ中に入ると、そこには、布団に乗る絶世の美女がいた。


「アリス、シルファと客人が来たぞ。」


「あ!シルファちゃん!さっきは急にいなくなっちゃったからどこに行ったのかと思ったわよ...」


「ご心配をおかけして、申し訳ございません。」


「そ、そんな謝ることじゃないわよ?...ってその子は誰?」


そうアリスが聞くと、ハルシュがすぐに答える。


「ん?こいつは俺の客人、魔法学校に新しく入ったシルファの教え子だ。」


「そうなの...お名前は?」


名前を急に聞かれ、どう答えようか迷っていたが、ハルシュが耳元で、「正直に言っちまえ」と言ってきたので、正直に言うことにした。


「名前は...カリス、カリス・フラジールです。」


「カリス...そう聞くとあのカリス君を思い出してしまうわね...」


そう言った瞬間、ハルシュが突然、「こいつ...お前が思ってるカリス君だぞ?」と爆弾をぶっ込んだ。


アリスは少しの時間目を開きながら固まっていた。


「お、おい?アリス?大丈夫か?」とハルシュが言うと我に返り、俺の方へと来て、俺の顔や色々な所をまじまじと見つめていた。


「おい...近いぞお前...」と俺が言うと、「本物のカリス君だ!」と言って、俺の肩を強く掴んだ。


「おい!お前ぶっ叩くぞ!痛えって言ってんだろうが!」


そう言うと焦った様に「ご、ごめんなさい!」と言って俺から手を離し、ハルシュの後ろに行ってしまった。


そしてハルシュの方を見ると、鬼の形相で俺の方を見て、「カリス...?アリスに何を言ってんだ?」とブチ切れた。


その後俺は3時間ぐらい説教された。


「おい...お前痛えんだけど...本気でやりすぎだろ...」


俺の頭にはハルシュに付けられたでっかいたんこぶが色濃く残っていた。


「お前がアリスに手出すのが悪いだろ?」


「出してねえだろ!?」


そんな話をしている時、アリスが横槍を入れてきた。


「まあまあ...別に暴力された訳じゃないし、私が好きなのはハルくんだけだから大丈夫!」


「うーん...でも...」


アリスに言われても俺を睨み続けるハルシュに、俺はある話をした。


「じゃあ分かった!俺が何かしてやるから、それでその怒りを収めてはくれないか?」


そう言った瞬間、唐突にハルシュが言った。


「おい...今なんて言った?」


「え?なんてって...何かするって言ったけど...」


「その何かって、限度はあるのか?」


「いや...無いけど...」とハルシュに言うと、ハルシュはアリスと何かを話していた。


「で、でも、流石に俺が出来ることにしてくれよ?」と言い終わった瞬間、アリスとハルシュが俺の方を向いて言った。


「お前には、俺達の子供と戦ってもらう!」


そう言ってきて、それを聞いた瞬間、俺は嫌な予感を感じた。


ハルシュとアリスの子供とあれば、2人から直々に教えて貰っていることもあるだろうし、シルファにも教えて貰っている位だ。

相当な実力があるだろう。


でも、俺は強い奴とやりたい性なので、手抜きなんてせずに本気で行こうと思っている。


「良いが...本気で行っても良いんだろうな?」


そう言うと、ハルシュは「殺すなよ?」と釘を刺してきた。


「流石に殺す訳ねえだろ...そこら辺は制御するが...それで、いつ戦うんだ?」


「え?今からだけど?」


「今からって...寝てるんじゃないのか?」


「いいんだよ、叩き起すからな。」


「おい、ちょっと待て、お前まだ声出すんじゃねえぞ?」


「なんでだ?」


何でって言われても、理由なんて1つしかない。

こいつの声がデカイのだ。

理由を話す必要が無いほどデカイ声なので、一回でも聞けば鼓膜が逝く。


「お前の声がでかいから、大声出すなって言ってんだよ!大人しく起こしにいけ!」


「わーったよ...」


そう言ってハルシュが部屋に行ったあと、俺はシルファとアリスに話しかける。


「つーかお前らはどうするんだ?」


「私は今から一度学園に帰ります、少し公務をしなければならないので...」


「あ!じゃあシルファ!公務が終わったらお買い物に行きましょう!一度一緒に行ってみたかったの!」


「え?い、良いんですか?」


「もちろん!子供達のことはハル君とカリス君が何とかしてくれるだろうし!」


「は?俺とあいつがなんとかすんの?」


「出来るでしょ?」


「まあ...良いけど...」


「じゃあまず学校に行きましょうか?」


そう言ってシルファとアリスは部屋から出た。


「おーい連れてきたぞー!」


そう言ってハルシュは子供たちを俺の元へと連れてきた。


「こいつが第一王子のマリアスと、第二王女のアリアだ。」


ハルシュが2人の紹介をすると、2人も口々に挨拶をし始めたが、その態度は明らかに王子や王女と呼んでいいものではなかった。


「父上ー?俺の相手がこんな学生なんて...流石に練習相手にもなりませんよ...」


唐突にマリアスがそう言うと、俺の中の何かが切れてしまった。

俺は昔から下に見られるのが嫌いで、人を下に見るのも嫌いだった。


そしてマリアスが気だるそうに握手の為に手を差し出してきたが、俺はそれを払い除け、耳元で囁いた。


「それ以上傲慢な態度してたら...殺すぞ?」


そう言うとマリアスは顔が真っ青になり、その場に立ち尽くしてしまった。


「ん?王様!王子様が動かなくなってしまいました!」


ハルシュの方を見ながらしらばっくれて言うと、ハルシュは俺を持ち上げて、木陰まで連れていった。


「おい、お前何か言っただろ?」


「え?なんも言ってないけど?」


「いや、お前絶対何か言っただろ、マリアスの顔があんなに青ざめていたのを見たのは始めてだぞ...」


やっぱりハルシュは凄い。

マリアスにだけ聞こえるように話したはずなのに、ハルシュは何かを言ったと分かっていた。

だが、良く良く考えれば、マリアスが顔を青ざめさせていたのもハルシュが気づく要因だったのかもしれない。


「チッ...わーったよ...」


それから俺はさっきあった事をそのままハルシュに話した。


「そういう事か...本当に申し訳なかった...」


「は?お前が謝ることじゃないが?」


「いや、子供たちがそんな態度をする様になったのは親である俺の責任となる。」


その時、俺の目の前に超でかい火球が飛んできた。


「ん...」


俺はその火球を消し、ハルシュと共にその魔法を出した人物を見る。


「お前は...」


「アリア...何をしてるんだ!」


俺がその人物に話しかける前に、ハルシュがアリアの元へと行く。


「止めないでくださいお父様!こいつに...こんな奴にお兄様が負けるはずがない!こいつは何かズルをしたんです!お兄様は天才だった!私が越えたかった目標が、攻撃も何もされずにやられるなんて、そんな事...ある訳ないんです!」


俺はその言葉を聞いて、ある事を決めた。


「ハルシュ!そこどけ!」


「はぁ!?お前...何する気だ!」


ハルシュがアリアの前に守るように立つ。


「お、お父様!」


「絶対俺の後ろから離れるな!離れたら死ぬぞ!」


「へぇ...やる事良く分かってんじゃん...」


「だったら辞めたらどうだ!お前と俺が本気でやりあったら辺り一帯無くなるぞ!」


ハルシュは正気じゃない俺の圧をひしひしと感じていたのだろう。


今にも剣を抜くような勢いで俺の前に立っていた。


「お前...知ってるだろ?俺が下に見られるのが嫌いなのがよ...」


「知ってる...知ってるけど...」


「だったら...そのガキの前から離れろよ...なんならそこにくたばってるガキを殺したって良いんだぞ?」


そう言った瞬間、マリアスの元にアリアが走っていき、気絶しているマリアスを抱き抱える。


「へぇ...わざわざ死にに行くなんて...肝座ってんじゃん...!」


それを見た俺はハルシュに見せつけるようにアリアの方に火球を出したが、音速で追いついたハルシュに一刀両断され、火球は空へと飛んで行った。

それを見たアリアは完全に萎縮してしまい、その場から動かなくなった。


「カリス...お前、子供達に手出すなら...容赦はしねぇぞ!」


「お前...俺に勝てると思ってるのか...?」


「少なくともガキのお前なら勝てると思ってるが?」


「流石...勇者様なだけあるな...!」


「それ、お前にも言えるからな?賢者様?」


「その名はやめろ、もう捨てた様な物だ...」


「それで?本当にやるのか?」


「いや、遠慮しておこう、こんな演技も飽きたし、今のお前には勝てなさそうだ、あと...アリスも帰ってきたっぽいしな...」


それから俺が入口の方に目配りをすると、用事から帰ってきたアリスが入ってきた。


「おーい!帰ってきたわよ...って!なにこれ!?」


アリスはマリアスとアリアが倒れている所を見て、爆速で駆け寄ってから「治癒ヒール」をかけまくっていた。


「おい、そいつらは怪我なんて無いぞ?」


「え!?よ、良かった...って!カリス君!あなた何かやったでしょ!」


「え!?い、いや、何もしてないが?」


「絶対嘘!ハル君!カリス君と何してたの?」


「え?えーっとぉ...」


「ホントの事言って?じゃないと...」


「じゃないと...?」


「殴るわよ?」


そう言われた瞬間、ハルシュは先程までの事を全部アリスに話してしまった。


「へぇ...じゃあただ遊んでただけなのね?」


「「はい、そうです...」」


「はぁ...あんまり私を困らせないでね...?」


「はい...っていうか、シルファはどこに行ったんだ?」


「シルファちゃんは学園での仕事があるからって言うもんだからあっちに残ってるわ。」


「そうか...」


「はぁ、叱ってたらお腹空いちゃったわ、あの子たちをベッドに連れていくから...ハル君、マリアスを抱っこしてくれない?」


「いや起こしたら...」


「こうなったのはあなた達のせいでしょ?」


「はい!分かりました!」


それを見て、俺は逃げようとひっそり歩き出した。


「カリス君?」


「え?いや俺はちょっと用事が...」


「何の用事?」


「いや、あの...」


「はぁ...早く来て!カリス君には他にやってもらいたい事があるんだから!」


「やってもらいたい事?」


「ちょっと辛いかもしれないけど頑張ってね?」


「えぇ...」


そんな話をしながらハルシュと共に寝室に行き、子供達を寝かせてから俺とハルシュはアリスに首根っこを掴まれ、下の騎士団が居る所へ俺たちを連れていった。


「ここは...」


「ハル君!カリス君!あなた達にやってもらうのは...」


「「騎士団長とのタイマンか...」」
































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元最強の魔導師は転生して人生を謳歌する @fubki-san

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