お姉ちゃんも私も仕事がある!

坂東さしま

女性2人用短編台本です。

   広くてきれいな総合病院。その院内カフェ。


妹「お姉ちゃん、今日は病院付き合ってくれてありがとね」

姉「当り前じゃない。たった一人の妹のためなんだもの。でも本当に良かった~再検査異常なしで!」

妹「うん、ほっとした。昨日まで怖くて眠れなかった。大きな病気が見つかったらどうしようって」

姉「あんた独身だから、ほんといつも心配してるのよ私」

妹「ありがとう。父さんと母さんには心配かけたくないから言えなくてさ。姉さんがいてよかったよ。こういう時一人ってつらいね~」

姉「そだあんた、まだ結婚願望ある?」

妹「え?あー、そりゃあまあ、縁があれば」

姉「医者なんだけど」

妹「ああ、旦那さんの友達?」

姉「友達っていうか先生。大学時代の恩師」

妹「え、年いくつ?」

姉「60くらいだったかな。大学辞めて川崎で開業されてるのよ。数年前に受付とか事務とかやってくれてた奥さん亡くされてね。アルバイト雇ってるみたいだけど、時間で帰っちゃって事務作業が忙しいみたい」

妹「……え、それってアルバイト探してるの?」

姉「ん?奥さんだよ。そろそろ再婚したいなーって気持ちらしくてさ」

妹「今の話だとどっちかわかんないよ」

姉「あらそう。まああんたと年は離れてるけどさ、若々しいし優しいし、いいかなって。一緒にクリニックやってくれる人がいいみたいで。あんたほら、接客の仕事してるから向いてそうじゃん受付!あ、お見合いの時はそんな地味で老けみえな服じゃなくて若いの着てきてよね?清潔感ある受付みたいな。ってか私より若いのに、私のが若い服って何よ!?」

妹「…はあ…」


   姉、言い終えて満足そうにコーヒーを飲みながらスマホを見る。


妹「…前もさ、そういう人紹介してくれたよね」

姉「?」

妹「私は仕事辞める気はないの。続けたいの。ずっとそう言ってるのにわかってくれないね」

姉「わかってるって。だからクリニックで働けるじゃん」

妹「そういうことじゃないの。私は私の仕事を続けるってこと」

姉「うんうん、だから未来の旦那さんのために仕事を」

妹「だからさ、違うの。うち自営業でしょ。父さんの仕事を、ずっと手伝ってきた母さんを見て育ったからこそ思うの。ほら、母さんって本当は東京で働き続けたかったって言ってたでしょ?仕事なら何でもいいわけじゃない。自分の仕事をしたいのよ。あんまり話したことなかったけど、実は3年前に店舗から本社に移って、最近、課長になったの。だから余計に、今病気になるのが困るし、やめるわけにはいかないの」

姉「…あんたはすごいよ」

妹「は?」

姉「自分の仕事もってる。あたしはもってない。旦那のクリニックの事務だよ。あんたは結婚してもしなくても強く生きていける。絶対そっちのほうがいい。私は…離婚したら生きていけるのかな」

妹「え、離婚するの!?」

姉「(笑って)しないしない。ってかできないから!子育ても忙しいし、あ、子育ては仕事じゃないんだった。あっちの鬼ババがそう言ってた!あはは、3人も生むんじゃなかったなー!」


   しばしの沈黙。


妹「姉さんもすごいよ」

姉「はあ?どこがよ。もう思いっきり馬鹿にして!何にもない私を!」

妹「子育ては仕事だよ。生まれたばかりは24時間お世話してさ。今はPTAとかも参加してるんでしょ?それに習い事とか塾とか、あ、今度、中学受験もあるよね。家事もして、旦那さんのクリニックでも働いて。家族のために働くってすごいことだよ。私、結婚したら家族のために何かできる自信ないもん。風邪の看病だってできないよ」

姉「バカのあたしができるからできるって」  

妹「ううん、私のほうがバカ。実は母さんのことも姉さんのことも、どっか下に見てた。バリバリ働いてる私は素敵、すごい、自分ってものを持ってるって。家業と子育てでいっぱいいっぱいの二人とは違うんだって」

姉「…」

妹「ごめんなさい、私って自分のことしか考えてなかった。社内に創業者の言葉が飾ってあってさ、それが『仕事とはひとのために働くことである。自己満足で働くなかれ』なんだけど、私、お客様のためなんて考えたことなかった。売り上げ増えるのが楽しい、褒められるのがうれしい、昇進すると、偉い人間になったようで満足…自分勝手。仕事してないのは私のほうだった。いつも家族のことを考えて動く姉さんのほうが仕事してた」

姉「あんたに比べたらまったく働いてないって。それに、いちいち家族のためとか思ってないよ…ただ、あんたや親のつらい顔は見たくないし、子供にはなるべく笑っていてもらいたいってだけ。旦那は…元気ならいいよ。糖尿気を付けてほしいけど。お酒好きだから」

妹「家族思いだね」

姉「そう?あっちの実家は超どうでもいいんだけど。あ、紹介の話は忘れてね、ほんとごめん」

妹「いや、会ってみようかな」

姉「え!?なんで!?」

妹「会ってみるだけでもさ。話してみたら気が合うかもしれないし」

姉「…ふーん、じゃあ連絡してみるね」

妹「うん、ありがとう姉さん」


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