第11話 眼鏡とヤキモチ
「いやぁねぇ、独占欲丸出しじゃない」
「うるさいぞ、エリアナ」
揶揄うようなエリアナの言葉に不機嫌を隠さず答えたが意に介したところすらなく、呆れたような視線を向けられる。
「でも、眼鏡ひとつでこれほど変わるもんなんだねえ」
グレアムがアンスンの眼鏡に触れようとする、俺は無言でその手を叩き落とす。
それを怒るでもなく笑っているグレアムを睨むが全く効果はない、だから触るな。
「そ、そんなに、かな?」
アンスンがオロオロと俺たちを交互に見ているが、本当になんでこんなに変わるんだろうな。
「まあ、眼鏡をかけててもお前の可愛さは変わらねえけど」
うわぁと言いながらエリアナとグレアムが引き笑いをしている。
「砂糖が口から出る前に退散しましょう」
「淑女にあるまじきだな」
「私にそんなものを求めないでちょうだい」
「何言ってるの?エリアナは誰よりも可愛い淑女だよ?」
砂糖を吐きそうなのはこっちだが?と胡乱な目を向ける。
そんな俺たちをクスクスと笑って見ているアンスンを見ながら、学園時代に彼を知らなかったことが少し悔やまれた。
今日も昼間は雑事に忙殺された。
夕食を共にする予定がアンスンは遠方から来た親族の対応に追われて不在となった。
流石にある程度王都で社交に出ている連中が相手では俺の素性を知る者も多い、アンスンなりの配慮なのだろう。
「兄さんは、後悔してない?」
「するわけがない」
「そう」
グレアムがウイスキーの入ったグラスを揺らす。
「ここに来て、アイツと居て、やっと息が出来るようになった」
「王宮では窒息しそうだった?」
「そうだな、俺はあそこで戦える強さはないんだよ」
だから逃げた。
都合の良い相手が現れたから利用した。
最低な行為だったろう、まあ下心ありで近づいてきた令嬢はある意味自業自得ではあるが。
「お前やエリアナはそういう強さがあるだろう」
「買い被りすぎじゃない?」
「いや、むしろ兄弟で一番王に向いているのはお前じゃないかと思っていたこともある」
兄より時に冷酷になりきれる腹違いの弟は、あの王宮で一番生き抜く強かさを持っていると思っていた時期もあった。
「今は少し考えを改めたがな」
「私は裏で上手く舵取りしながら責任は兄に被って貰うのが一番だと思っていたんだよね」
今も、だろう。
穏やかにけれど慌ただしく過ぎる時間はあっという間で、式が明日に迫っていた。
ほぼ全ての準備を終えて後は最終確認だけとなっている。
エリアナが手際よく俺やアンスンでは気付かなかった部分をそれとなく補佐してくれていたのも有り難かった。
油断していた訳ではなかったがその報せを聞いた時、俺はこの世に生を受けてから一番の絶望と怒りに襲われた。
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