13 ユベールのレベルアップ


 舞台から降ろされようとしたところで、出入り口の方が騒がしくなった。

 ドカーーン! ボゴーーン! と音が大きくなる。

「そいつを寄越せ! 連れて帰る」

 オレを競り落とした残虐そうなオヤジが、部下に顎をしゃくる。

「代金がまだです!」

 司会がオレの乗った台座を引っ張って、言い争っている。

「ええい! 早く寄越せ!」

 オヤジの護衛がオレの手枷を掴み引き摺ろうとする。こいつ、騒ぎに乗じて踏み倒そうとするなんて最低だな。

「うっうっーー!!」

(イヤだー!!)

 ベタン!

「ん?」

 見ると、オレの手枷を掴んで引き摺ろうとしていた男の顔に、べたりと粘液のような物が張り付いている。

「ぐわああーー!」

 男はオレから手を離して暴れる。男の顔に粘液を張り付けたヤツは、プルプルと身体を捩るとぴょんとオレの頭に飛び乗った。

『ハナコ!』


 その時、部屋の入り口に金茶色の髪の男が現れた。

「エルヴェ様!!」

 ああ、ユベールが来てくれた。騒ぎはユベールだったのか。

「うっうっ!」

「お助けに参りました」

 ユベールは素早く舞台に駆け上がって、オレを落札した男の護衛を蹴り飛ばした。男達は吹っ飛ばされて雇い主の上に転がり落ちる。雇い主が舌打ちをする。


 その間にユベールはオレの口枷と手枷を素早く外した。

「はう……」

 気が抜けて思わずユベールの身体に寄りかかってしまいそうになる。

「どうしたんです?」

「薬を後ろに突っ込まれた」

 オレの酷い格好を見て察したのか、ぎゅっと眉が吊り上がった。

「何と!」

 どうしたんだ!? ただでさえ強いユベールの戦闘力というか強さというか、そういうものがボン! と一気に上がったような気がする。


 ユベールは舞台の司会を張り飛ばし、上がって来ようとする連中も、手に持った槍で薙ぎ払う。強い! 威力が凄い。前より一段と強くなっている。薙ぎ払われた連中が吹っ飛んで気絶している。

 だが、オレも頭に来ているから、一発ぐらいかましたい。

「オレもやるぞ」

「はい」

 ユベールが肩越しにオレを面白そうに見る。

 オレは手を組んで思いを込めた。お前ら全員、もげろ!

『オレサマの怒りだーーー!!』

 バリバリバリズシーーーンーーー!!!!

 青白い光が炸裂して、観客めがけて落ちて行く。

「ぎゃあああーーー!!」

「ぐああああーーー!!」

 場内にいた客たちが痺れてぴくぴくしている。


 こいつらにはナニは必要ないよな。怒りの鉄槌だ。雷撃じゃないからナニ以外は怪我は無いだろう。痺れているようだが。

『神子の怒り』を覚えました。

「はあっ……」

 ちょっと腰にくる……。

「大丈夫ですか」

 しばらくユベールに掴まって息を整える。身体が熱い。


「よくここが分かったな」

「司祭や神官にたくさん用事を言いつけられて、それなのにエルヴェ様の気配はしなくて、探しました。匂いを辿ってやっと見つけました」

 ドヤ顔のユベール。3日後の予定だったのによく気付いてくれた。

 と思ったら、オレの頭からハナコが伸びて目の前でプルプルする。

「ハナコが知らせてくれたのか?」

 ぺんぺんと2回ほどオレの頭に当たる。

「ありがとな」

 ハナコをポンポンと撫でて「ちゃんとそこに居ろよ」と言う。

「オレ皆を開放するよ」

「はい、ここは任せて下さい」

 外の護衛が会場に入って来た。ユベールに任せて楽屋に急ぐ。ぼやぼやしてはいられない。



 楽屋裏に行くと商人やら護衛達はみな、白目をむいて気絶していた。

 倒れている商人が持っていたナイフを貰って、手枷口枷を外してゆく。

 枷を外された者は逃げないで、他の人の枷を外しにかかる。

「逃げろよー」

「ありがとうー」

「レスリー!」

 ローランが来たのでレスリーを託す。

「そいつらの服を貰ったらいい」

「分かった」

 オレも商人の服を剥ぎ取った。

「はふ……」

 身体が熱いんだが。くそう! 祈ってやる。熱い祈りにしてやる!

 奴隷に売られようとしていたみんなの怒りと無事を願って祈りを捧げる。

「彼らに『浄化』を、我々に『加護』を!」

 キラキラとした熱い光がその場に雨のように降り注いだ。


 ユベールが舞台から楽屋に来た。

「エルヴェ様。私達も逃げましょう」

「うん」

 ユベールがもたもたしたオレから服を取り上げて、手早く着せてくれる。オレを抱えて裏口から出ると、ちょうど先に出た助けられた男たちが、馬と馬車を引き出している所だった。

「兄ちゃん、乗れるなら馬に乗れ。少し行ったら、左手に船着き場があるそうだ」

「分かった」

 ユベールはオレを馬に乗せ、後ろに跨った。

 おっと、ちゃんと頭をチェック、ハナコがいるのを確かめた。


 裏門に出ると王都の警備兵が待機していた。こいつらも仲間だろうか。

「退けーーー!!」

 ユベールが叫ぶ。

(あ、それいいかも。助さん、格さん)

「控えよ、控えよ、神を恐れよ!『畏怖』」

 手を上げた指の先に、カッと眩い光が輝く。

 取り巻いていた警備兵がザザザーーー!! と後ろに下がる。

「ははーーー!」

 みんなが恐れおののいて土下座した。

『畏怖』を覚えました。

 ユベールがその真ん中を馬で駆け抜ける。その後を奴隷に売られそうになった人々が馬車を仕立てて追いかけて走った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

召喚されない神子と不機嫌な騎士 綾南みか @398Konohana

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ