三 丁蘭

刻木為父母 形容在日新

寄言諸子姪 聞早孝其親

                  

木をきざん父母ぶもと為す 形容在日ざいじつあらたなり 

ことばを寄す諸子姪しよしてつ 早く聞いて其親そのおやに孝す


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 丁蘭ていらん河内かだい野王やおうと云う処の人である。十五の歳で母に永訣えいけつしてより多年悲しみ、木に母をかたちづくろうて像と成し、あたか存生ぞんしょうの人につかうるが如くに晨昏あさゆうの礼を尽くした。

 丁蘭ていらんの妻が或る夜のこと、敬せずして火を以てこの母の木像のおもを焦がすと、妻の顔は瘡瘍できもののように腫れを生じてうみや血の流れ、二日も過ぎると頭髮かしらがみも剃刀でり落としたようになってしまった。恟々きょうきょうとした妻が詫言わびごとを陳べたため、丁蘭も奇特きどくに思い、是を改悛かいしゅんさせるのために木像を幅広い大道に移し据えて妻に三年に亘る懺悔をさせると、或る日、一夜ひとよの内に雨風の音して木像は独りでに家内やないに帰来したのであった。

 爾後、些細なことでも丁蘭ていらんはこの母の木像の顔采かおいろを窺ったという。斯様かように不可思議なることの有るまでに孝行を為すためしなど尠少かずすくなきことであろう。

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