お題

やざき わかば

お題

 ある構成作家が、自分の担当する落語番組について、頭を悩ませている。大喜利の「お題」についてだ。


 これが面白くないと、それに答える落語家たちの答えも面白くなくなってしまう。まさにこのコーナーの柱となる仕事なのだ。それだけに力が入る。


 しかし、頭を使いすぎてくたびれてしまい、これはひとりで考えていても埒が明かないと、助力を求めるべく、師匠の家へ伺った。


ピンポーン。


「はいはい、なんだいねこんな夜中に。非常識にも程があらぁな。おや、お前は弟子じゃないか。お金はないから帰りなさい」

「ちょ、ちょいと待ってくだせぇ。お金のことじゃございやせんや。なんだい、人の顔を見るなり金の話とは。失礼な」

「お前こそ、あたしの顔を見るなり金の話をするじゃあないか」

「へへ、そうでしたっけ」

「まぁ、せっかく来たんだ。茶を出してやるから、お上がり。して、今日はなんの用だい。聞こうじゃないか」


「へぇ。実はかくかくしかじかで。へぇ」

「なるほどねぇ。大喜利のお題で悩んでるのか。お前にしちゃあ真っ当な理由じゃないか」

「もう困っちまいましてね、お師匠さまにご助言いただこうかと、こうして罷り越しました次第なわけです」


 お師匠はあごに手をあて、少々考えた。


「そうだな。お前が今、考えていることをお題にすりゃあ良いんでないかね」

「俺の考えていることですか。するってぇと、『うまい金儲けのやり方』『女にモテる方法』『老後を楽して過ごすには』ってことですかい」

「お前は普段から何を考えているんだ。そうじゃあねぇよ。お前は今、何に悩んでいるんだい」

「へぇ。生活に」

「違うよ馬鹿。お前は大喜利のお題について、悩んでいるんだろう」

「ああ、そうでしたそうでした。そのお題ってやつに悩んでいやした」


「まったく間の抜けた男だね。だからね、『貴方が面白いと思う大喜利のお題』ってお題を出しゃあいいんだ」

「へぇ、そうですか。それって、面白くなりますかい? どうにもぴんとこないんですが」

「面白いか面白くないかは、その回答者の責任さ。こちとらなーんも、悪くないって寸法だ」

「さっすがお師匠さま、アコギで小賢しい猪口才なことを考えさせたら天下一だ」

「それは褒めてんのかい」


「しかしお師匠さま。それって、堂々巡りになりませんかい」

「てぇと?」


「いえね、お題が『面白いお題は?』じゃねぇですか。それに回答者も乗っかって『お客さんが面白い大喜利のお題は?』なんて出しちまおうものなら、堂々巡りだ。お客さん怒っちまうんじゃないかなって」

「つまりは『おだい、おだいとうるせぇな。面白くねぇから帰る』と騒ぎ立てるってかい」

「へぇ」

「ああ、それは大丈夫だ。魔法の言葉がある」

「その言葉とは?」


「『どうぞどうぞ、おだいは見てのおかえりだ』」

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お題 やざき わかば @wakaba_fight

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