第2話  夏の終わりに。

 僕達は、繁華街のコンビニの前で通行人を眺めていた。


「崔、ほんまにやるんか?」

「うん、大和撫子をはべらすマッチョな白人、黒人はぶっ飛ばす。モンちゃん達は、僕の戦いを見届けてくれ」

「ほな、普通に付き合ってたらどうするん?」

「手出しせえへんよ。ちゃんと付き合ってるっぽい感じなら、何もせえへんわ」

「そこら辺にはこだわりがあるんやな」

「うん、恋人同士なら無視や。あくまで、大和撫子をはべらせてる悪い奴等だけに天誅や。そうや、これは天誅なんや」

「ほな、あれはどうなんの?」

「ヤマさん、あれは2対2,ただのダブルデートやろ。真面目に付き合ってるならスルーや」

「ほな、あれは?男3人に女5人、あれははべらせてるやろ?」

「ほんまや-!はべらせてるー!って、ダイサク、流石にマッチョ3人相手は無理やろ?僕が死んでしまうわ。そういうことも考えてくれや」

「おい、崔、あれや!」

「お、モンちゃん、あれ、ええなぁ。マッチョ2人に女5人やで。これは天誅や」

「崔、死ぬなよ」

「ヤバイと思ったら逃げろよ」

「見守ってるからな」

「おおきに、ほな、行ってくるわー!」


 無言で走って、手前の黒人にドロップキック。倒れないマッチョ。奥の白人、僕に鉄拳。“痛ーい!”と思ったら動けなくなるので、“痛くない、痛くない”と自分に言い聞かせる。白人の回し蹴り。踏ん張る。黒人の前蹴り。踏ん張れない。僕は勢いよく吹っ飛んだ。このままでは、フルボッコだ。


 と思ったら、モンちゃん達がまた乱入してくれて僕は逃げることが出来た。


 また、ファミレスで怒られた。


「崔、お前、ええとこ無しやったやんけ!」

「だって、あいつ等190くらいあるんやで。僕、169やで。勝つなんて、無理、無理」

「ほな、何のためにやってるねん?」

「ほら、全力でぶつかったら、スカッとするやんか。わかってもらわれへんかなぁ」

「無理、わからん」

「殴られて何が楽しいんか、理解出来へん」

「ヤマさん、ダイサク、ちょっとは味方してくれや」

「俺達も乱入するの疲れるねん、崔、当分異人狩りは禁止やからな!」

「…………はい」



 そんな或る日、モンちゃんから電話があった。


「どないしたん?モンちゃん」

「明日、ちょっと負けられない勝負をするねん」

「なんかわからんけど、ただ事ではなさそうやな」

「俺の彼女に、気になる男が現れたらしいんや」

「アカンやん」

「いや、もう、彼女はその男と付き合い始めたらしいんやけどな」

「もっとアカンやん」

「その男と彼女を賭けて勝負することになったんや」

「ほんで?」

「崔達には、俺達の勝負を見届けてほしいねん」

「うん、ええよ」

「ほな、明日、13時に〇〇駅前の公園に来てくれ」

「わかった、行くわ」



「モンちゃん、あいつやな」

「ああ、あいつや。あの白人や。聞いた話では軍人らしいわ」

「モンちゃんの彼女、あの男と腕組んでるやんか」

「ヤマさん、言うな!」

「ほな、俺達は見守るから」

「おう、行ってくるで!」

「「「いってらっしゃーい」」」


 モンちゃんは、マッチョな白人と対峙した。睨み合う? 相手のマッチョな白人は睨みもしない。余裕が感じられた。モンちゃんはレスリングをやっている。タックルしてマウントを取りたいはずだ。


 モンちゃんがタックルにいった。カウンターで膝蹴りを喰らった。かなりのダメージのはず。だが、モンちゃんはもう1度距離を取った。隙をうかがうモンちゃん。もう1度、必殺のタックル。また、膝蹴りのカウンター。モンちゃんは、もう立ち上がれなかった。白人はモンちゃんの彼女と腕を組んで去った。モンちゃんの彼女は、何回か振り返っていた。


「モンちゃん、骨は大丈夫か?鼻血まみれやけど」

「ああ、骨は大丈夫みたいや」

「そうか、骨さえ無事ならたいしたことないな」

「崔……」

「なんや?」

「俺も、“異人狩り”やる……」

「そうか、ほな、早速明日にでもやろか」

「おう、明日な。今日は、もうアカンけど」

「おう、今日は無理するな、なあ、ヤマさん、ダイサク」

「そうや、そうや、モンちゃんが起き上がるまで、幾らでも待つからな」

「コーヒーでも買ってきたるわ」

「俺、もう少し寝転がっててもええんかな」

「おう、好きなだけ寝転がったらええねん、今日は」

「そやな……今日は……」



 翌日、僕達はまた繁華街にいた。


「モンちゃん、恋人同士の邪魔したらアカンで。あくまでも、大和撫子をはべらせてる奴等がターゲットやからな」

「わかってる」

「あれ?モンちゃん、あれは行かへんの?」

「男2人に女4人やんけ」

「だから、ええんとちゃうの?」

「アホ、こっちは4人やで。2対4やったら、こっちが悪者になるやんけ」

「おいおい、2対4って、もしかして俺達も数に入ってるんか?」

「当たり前やんか、ヤマさん。ダイサクもやで」

「おいおい、マジか?」

「今日は4対4や!俺がそう決めた」

「あれ、白人と黒人、合わせて4人やで」

「おお!女6人もはべらせてるやんけ」

「おいおい、マジで俺達もか?相手はデカイしマッチョやぞ」

「行くで!」

「ヤマさん、ダイサク!」

「しゃあないなぁ」

「みんな、待ってくれ」


 とりあえず、僕は黒人に跳び蹴りを喰らわせて、体落としでひっくり返した。柔道の投げ技なら決まるのだが、相手に与えるダメージが少ない。だが、なんとかマウントをとって、相手を殴打しようと思ったら横面を蹴り飛ばされた。僕は派手に吹き飛ばされた。気付いたら、最初はタックルで相手を転倒させて、マウントをとっていたモンちゃんまで逆にマウントをとられて顔面を殴打されていた。僕もだ。4人全員がマウントポジションをとられ、両腕で顔面を防御していた。この時点で惨敗だった。


 勝手なもので、こっちから仕掛けたのに、マウントをとられて顔面を殴打され始めたら、“早く、どっか行ってくれ”と思う。気が付いたら、4人とも鼻血を流しながら、繁華街の通路に仰向けで寝転がっていた。


「モンちゃん、いけるか?」

「アカンなぁ、まだ立たれへんわ」

「スカッとしたか?」

「するわけないやろ」

「骨は? 骨は大丈夫か?」

「大丈夫や、崔はどうや? 骨までやられてへんか?」

「僕は大丈夫や、骨は丈夫や。ヤマさん、ダイサク、いけるか?」

「アカンなぁ、まだ立たれへんわ」

「俺もや。今は動かれへん」

「ヤマさん、ダイサク、骨は? 骨はやられてへんか?」

「多分、大丈夫や」

「俺も」

「ほな、コーヒーでも飲みに行こか?」

「おう、行く、行く。けど、ちょっとだけ待ってくれ」

「俺もちょっと待ってほしい」

「崔、もう少しや、もう少しだけ、このまま寝させてくれ」

「そやな、もう少しだけ……」



 人波は、僕等を無視して流れていた。







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