マインとスイーパー

有明の藻塩

第1話

旗手法希(ハタテノリキ):俺


水原まいん(ミハラマイン):えみさん


グレイド:ヌメヌメ


8号/ラジ子/ミス・ラジエーション:おいもさん


爆魔(ボマー):とろいか





グレ「2025年、突如としてこの地球上からは爆弾と呼ばれる一切が消えたことは、諸君らの記憶にも新しいだろう。

同年4月、ネバダ州で初めて観測された“それ”は、その後瞬く間に全世界で出現する。

人智を超えた超常的な力を振りかざす“特定外来危険存在・爆弾魔” 通称“爆魔(ボマー)”に対し、日本政府はその鎮圧を目的として、対爆弾魔災害国防機関を設立する。それこそが我々" A.E.G.I.S.(イージス)"である」


法希「うひぃ〜〜なんとか間に合ったなぁ......! 途中死ぬかと思ったマジで」


まいん「ちょっ、静かに! グレ様の声聞こえないじゃん! ってかなんでホウキさんが入学式いんの? 留年? 落第?」


法希「失敬な......! 仕事だ仕事! 俺だってホントはカラオケとか行きてえんだよぉ......!」


まいん「はいはい......だったらすみっこ行っててくださいよぉ。まいんは今グレ様以外視界に入れたくないので〜〜」


法希「すみっこね......そりゃ先輩はいるだけ邪魔ってのは分かってるけどね......別に俺の代はしょぼかったとかそういうこと言いたいわけじゃないしね......」


グレ「——そして今日。この時より、厳正なる門をくぐり抜けた然るべき者が、新たに仲間として加わる。君たちは、A.E.G.I.S.に選ばれし隊員となるのだ。

あえて言おう、私は君たちに期待する。だからこそ、それに是非とも応えてほしい。

どんな些細な働きであれ、自らが組織を支えているという誇りを強く持て。

揺るがぬ正義の下に、人々を守る盾であれ!! 歓迎しよう! 我がA.E.G.I.Sへ!!」


まいん「最っ高ぉぉ〜〜〜!!! 生演説フルで聞けるとかマジ新入生の役得すぎっしょ〜! てかてか! いまのグレ様絶対まいんに視線くれてたよね!? でしょでしょ!? ホウキさん!!」


法希「いやそんなん俺に聞かれてもわかんねぇって......」


まいん「んん〜〜〜〜!! よっし、これでようやく私も一人前!! やっと前線行ける身になったんだぁ......!! どうよ!ホウキさん!!」


法希「まあ、素直におめでとうとは言いたいんだけど......俺の名前ホウキじゃなくてノリキだからね!? 先輩なんだからそこ間違わんといて!」


まいん「えぇ〜〜? ホウキさんはホウキさんじゃ〜ん! それに今更変えんのもなんかキモくないですかぁ?」


法希「キモいの!!? ってかやべ、俺この後すぐ用事あんだったわ。急がねえと......!」


まいん「用事って、そんなの後回しでいいじゃないですかぁ。それより、まいんの入隊記念になんでも奢ってくれるって約束してくれたでしょ~~~」


法希「なんでもは言ってねえよ!? あれはあくまでリップサービスって言うかお気持ちって言うか社交辞令って言うかなんというかぁ......!」


まいん「えぇ~?? 後輩との約束日和るのって、先輩としてめっちゃダサくないですかぁ~~~??? ヘタレボウキさ~ん」


法希「~~~っ!! ヨシ、分かった! 一個だけね...!そこまでいうなら、一個だけは奢ってあげるから!!」


まいん「やりぃ~~っ! ホウキさん大好き!! 毟り取るだけ毟ってやろ~~っと!!」


法希「あぁ......お手柔らかにね......門出には出費がつきものだなぁ......」


まいん「どうしよっかな~...あの服前からほしかったしぃ、あとコスメもだし、ライブ代も捨てがたい......あ、そうだホウキさん! まいん遊園地行ってみたい!」


法希「遊園地かぁ......そういや何年も行ってないよな〜」


まいん「ぶっちゃけどこがいいとかはまいん全然分かんないんだけど、とりあえずあれ! 観覧車あるとこ!」


法希「雑だなぁ〜おい、そう言われとあんまり思いつかねえ.....」


まいん「やっぱ観覧車=遊園地って感じしません〜〜?? あとなんかキラキラしたメリーゴーランドも!」


法希「む、むずいな案外......ユニバースタジオもデニーズランドも当てはまらないってなると......みなとみらいか富士急か......? カジュアルor本格、果たしてどっちが良いのか......!」


グレ「やあ、今日はご苦労様だった。法希」


法希「う〜ん......ああ、はい......って、えぇ?! グレイドさん!?」


まいん「あっ! グレ様〜〜〜!!」


グレ「君が水原(みはら)まいんだな、法希から話は聞いてるよ」


まいん「やばっ! 認知されてるぅ〜〜〜!! まいんのこと話してくれてたの!? ホウキさんナイッス!」


法希「あははは......まあ、話題に尽きないからね......っていうかグレイドさん、どうしてここに?」


グレ「ああ、訓練課の伝達だ。突然になるが、水原まいん」


まいん「はいっ!」


グレ「新入生のスケジュールについて、この後ブリーフィングルームでオリエンがある。担当講師が私なのでな、直接伝えに来た。部屋はS-5(エスファイブ)だ、間違えないよう気をつけてくれ」


まいん「了解です! 間違えませんとも〜〜! ......ねねね、ホウキさん聞いた? まいんの担当グレ様なんだって!! 試験前に徳積んで良かったぁ〜〜〜!!」


法希「めでたいけど迷惑だけはかけないようにね......ホウキお兄さんはそこがすごく心配デス」


まいん「も〜〜〜! うざいこと言わないでくださいよぉ」


法希「グフっ! うざい、か......え〜っと......それより、式典の直後だと移動が多くて混みそうだから、今のうちに動いた方がいいんじゃない?」


まいん「あ、確かに。それじゃあグレ様! まいんとホウキさんのこと、今後ともよろしくお願いしますっ!」


法希「それ俺が言うやつ!!」


グレ「ははは......ひとまずこれで、全員分の伝達は終わりだ......ここからは裏の要件になる」


法希「......内密ですか?」


グレ「ああ、今夜18時“マンハッタン・ラウンジ”で待つ」


(ラウンジ入り口で)


グレ「やあ、早かったな、奥に良い席があるんだ、そこにしよう」


法希「うわぁ......こんなとこ初めてきましたよ......」


グレ「ひとまずは法希、色々とお疲れ様だな」


法希「ありがとうございます......! まあ今日は俺よりまいんちゃんが主役でしたけど」


グレ「随分懐かれてるみたいだったな。そういえば、あまり君たちの関係を詳しく聞いたことはないが......」


法希「まいんちゃんは......妹みたいなもんですよ」


グレ「妹、か」


法希「確か......5年くらい前ですかね、爆魔が引き起こした未曾有の大災害で、俺とまいんちゃんは互いに親を亡くしたんです。天涯孤独の身の俺たちには、生きていく支えが欲しかった......

だから俺は、何があってもあの子を守り抜くって決めたんです。今の俺にとって、たった一人のかけがえのない家族として」


グレ「なるほどな。通りで彼女も、あれほどお前のことを大切に思ってるわけだ」


法希「まいんちゃんが、俺を?」


グレ「今日の模擬戦でも息巻いていた、早くお前に並び立てるようになりたいと。支えになりたいんだろう、お前のな」


法希「気が早いなぁ......そんな早くに追いつかれたら、先輩の立つ背がないじゃないか」


グレ「そうは言っても、教え子の成長ほど嬉しいものはないさ」


法希「そりゃあね、嬉しいんでしょうけどねぇ......」


グレ「さて、本題に入る......前に。せっかくだ、何か頼もうか。今日はいくらでも奢ってやろう」


ラジ子「おや、随分と気前が良いねえグレイド。そのお言葉、私も甘えさせてもらって良いかなぁ〜?」


グレ「チッ、面倒なやつが......お前に奢るわけじゃあない、ミス・ラジエーション」


ラジ子「まさかまさか、君がそんな小さい男なわけなかろうよ」


法希「えっ、グレイドさん、この人って確か......?」


ラジ子「ふむふむ......君がホウキくん、だね? いつもウチの製品が世話になってる......いや、ウチが世話をしていると言うべきか?」


グレ「はぁ......まあ察してるだろうが、紹介くらいはしておくか。A.E.G.I.S.研究開発部の製造主任、ミス・ラジエーション、だそうだ」


ラジ子「訳あって本名は非公開だ、コードネームじゃあ堅いだろうし、気安く”ラジ子”とでも呼んでくれれば良いさ」


法希「あぁ〜〜......! いやこちらこそ、いつもお世話になってます本当! すいません毎回兵装めちゃくちゃで......」


ラジ子「なぁに、気にすることはないさ。おかげで毎回、改良を重ねる余地を見つけられるということだものね」


法希「というか、まさかグレイドさんの知り合いだったとは......」


グレ「散々ツケ払いを肩代わりしてる程度のな......ハレの日にまで集り来るとは想定外だ」


法希「なんか、どっかで覚えがある関係性な気が......」


ラジ子「まあまあ、流石の私も今日くらいは自腹を切ることにしよう。それなら良いだろ? 同席させてくれないか」


法希「俺は良いですけど、グレイドさんが......」


グレ「酒はやめろよ、また担ぐのはごめんこうむる」


法希「あっ、良いんだ」


ラジ子「ならばアイスココアとチョコレートサンデーを貰おうか、まずは甘味の補給が肝心だからね」


グレ「お前のテーブルじゃないぞ、仕切り出すな」


法希「あっ、俺ピザ頼んで良いですか? オリーブ入ってるやつ」


グレ「良いチョイスだ、ここのは美味いぞ。それとカルボナーラとビーフカレーを、カレーはサンデーの後でいい」


ラジ子「さすが、私の好みをわかってくれてるねえグレイド」


グレ「自腹と言ったからには、高いものを食べてくれなければ意味がないんでね」


法希「あっ、ラジ子さんこのビーフカレー神戸牛って書いてますよ......!」


ラジ子「あぁ〜〜〜......いや、まあ、これから聞く“本題”の代金だと思うことにしようか、それなら安く思える」


法希「え゛っ!? ほ、本題ってなんのことで......」


グレ「まあ構わん」


法希「あっ、良いんだ」


ラジ子「そろそろ料理も届きそうだ。食卓を囲みながら話そうじゃないか」


グレ「まずは比較的安全なところから行こう、法希」


法希「あ、俺の話なんですか?」


グレ「お前の人事についてだ。中央防衛局からのお達しで、爆弾処理班への配置が決まった。Cの4班になる」


法希「げっ、あそこって相当激戦区じゃないですか......しかも班長って」


グレ「それともう一つは、水原まいんについてだ」


法希「まいんちゃんが?」


ラジ子「あの地雷少女か、とうとう爆発の制御に成功したのかね?」


グレ「ラジ子、余計に口を滑らすな。そうではなく、彼女も処理班に配置される見通しだということだ」


法希「それって、もしかして俺と同じ......!」


グレ「ああ、お前と彼女のバディということになるな」


ラジ子「しかし随分ハイペースなものだね、今年新入であればまだ研修期間中であろうに」


グレ「彼女の資質はすでに局長の目にも留まっている。すぐにでも実戦投入したいと言ってきた」


ラジ子「あの頑固ジジイにしては珍しい」


法希「でも、資質はともかく今のまいんちゃんじゃあ経験の部分が......」


グレ「それも折り込み済みでスケジュールは調整してある。これから二週間かけて、訓練課の特別育成課程をクリアしてもらう」


法希「あの超ハードを二週間で!?」


ラジ子「興味深いね、是非とも訓練データが欲しいところだが......」


グレ「余計な手出しは禁物だ。局内でハッキングなどしてみろよ、流石に俺でも庇いきれん」


ラジ子「まさかそんな、冗談だとも」


法希「っていうか、まいんちゃんってそんなに注目されてるんですか?」


ラジ子「まあ、およそ新入生に与える待遇ではないね、良くも悪くも両方で」


グレ「正直なところ、A.E.G.I.S.において最高戦力に近しい扱いなのは否定できん。だからこそ、その配置先の情報は易々と漏らせないわけだ」


法希「ヤバい、なんかどんどんまいんちゃんに追い抜かれそうな予感がしてきた......先輩としての立場が......! というか兄としての威厳がぁ......!」


ラジ子「まあまあ、そう焦る事はないさ。君がそんなまいんくんと同班になったのは、組織からは信頼されているということさ。違うかい? グレイドくん」


グレ「そうだな、こうして機密を聞けるのも、俺からの信頼があってこそと言えるだろう」


法希「まあ、それは確かに......それに、今度はまいんちゃんを、もっと近くで守れるのか......」


グレ「そうだ、守るべきものがそばにあれば、人はさらに強くなる。俺はそう信じている。お前と、お前たちの未来も共にな」


法希「守るべきもの......俺がもっと、強くなる......」


ラジ子「その信じる人間に、私も付け加えさせてもらおう。君のことは、裏から長くサポートしている。だからこそ言えるさ、君には大いなる可能性を期待しているのだよ」


法希「......はい! ありがとうございます!」


ラジ子「さあ、決意表明もしたことだし、景気付けにアルコールタイムと行こうじゃないか!」


グレ「よし法希、今日の伝票は全部こいつ持ちで良いそうだ」


法希「んな無茶な!?!?」




まいん「あ゛〜〜頭いだぃ〜......ズキンズキンするぅ〜〜......ねぇホウキさ〜ん、まいん早退したいんですけど〜!! 今日絶対気圧悪いですって〜」


法希「残念ながらバリバリ快晴高気圧ですってよ。っていうか、気圧じゃなくて睡眠不足でしょうが。昨日全然寝てなかった自分を恨みなさいよ」


まいん「訓練であんなバキバキになって寝れるわけないじゃん! もぉ〜〜〜やだ! 今から全部すっぽかしてマッサージ行きましょうよ〜〜それか温泉〜〜〜!!」


法希「俺もちょっと揺れそうになること言わないで! 温泉はめっちゃ行きたいから!!」


まいん「だって聞いてくださいよホウキさん! てっきりグレさまとマンツーマンでみっちり個人レッスン♪ って思ってたのにぃ〜〜......よく分からんロボット相手にぶっ通しで二週間とか聞いてない〜〜〜! マジでしんどかったの!!」


法希「まあ、それはほんと同情するよ......」


まいん「でしょでしょ!? それで終わったら翌日即実戦とか......ブラックにも程がありますって! いつか絶対ぶっ飛ばしてやるあのクソジジイども〜〜〜!!」


法希「おぉうヤベエって!! 任務中にあんまそういうこと言うんじゃないよ! 通信入ってたら全部丸聞こえだからね!?」


まいん「う〜〜〜ん、まあホウキさんと一緒だからこんなこと言えてるんですけどねぇ。っていうかそれより! ホウキさん、約束の遊園地ちゃんと調べてくれました!?」


法希「ああそれね、観覧車とメリーゴーランドだったら、コスモワールドとかどう? って思ってるんだけど......」


まいん「それアリ! まいんみなとみらい超好き! えぇ〜〜待って待って、だったらいっそ赤レンガ倉庫も行ってみたいし〜......そうだ中華街!! ねね、ホウキさん、遊園地のあと中華街ディナーしましょうよ!」


法希「中華街かぁ......それは素直に俺も行きたいかも......まいんちゃんはなんか食べたいものある? 小籠包とか、胡麻団子とか......」


まいん「いやいやぁ〜、まいんがその程度で満足する安い女だなんて思われちゃあ困りますよぉ。お祝いなんですから、ここはどどんと豪勢に行かなきゃ! ズバリ〜〜......フカヒレ! 鮑! 上海蟹! くらいは行ってもらわないとぉ〜」


法希「フカァッ!? そ、それは流石にご勘弁を......」


まいん「あれれ〜〜?? せっかくまいんがホウキさんの隣に立てるように、二週間も必死で訓練したのに......そこの労いはないんですかぁ〜〜?」


法希「ぐぁっ......! それを言われると反論できないけど......!」


まいん「ねぇ〜〜ホウキさん? まいんすっごく頑張ったんですよぉ? だから、ね? お願いしますよぉ〜......」


法希「......よ、予算だけ俺に決めさせてね......」


まいん「やっちゃ〜〜っ! やっぱホウキさんしか勝たんっ! ありがとうございます、神様仏様ホウキさん! ホウキさんがパートナーで、まいんすっごく嬉しいですっ!」


法希「もぉ〜〜......そんなセリフどこで覚えてきたんだか」


まいん「さててて......ご褒美も決まったことですし、そろそろ任務といきましゅか〜〜〜さっきから通知ヤベエですよ〜、ホウキさん」


法希「えマジで? マジじゃん!!ちょっとぉ! まいんちゃん、スキャン頼む!」


まいん「出ました〜! 敵数20、距離80! タイプ・フェイズはB1! ホウキさん、フォーメーションは?」


法希「アルファで行こう、パラライズAoEでリロード!」


まいん「りょりょりょっ! さ〜て初任務、気合い入れてやりますよ〜〜〜! 終わったらフカヒレ、ですからね??」


法希「はいはい......そんじゃあ戦ろうか爆魔ども、生憎名乗りは規則なもんで、焦ったくてもお目溢しを」


まいん「爆弾処理班戦闘担当、コードネームも本名も、同じくまいんの水原まいん!」


法希「爆弾処理班清掃担当、コードはスイープ、旗手法希!」


まいん「We're A.E.G.I.S. マインスイーパー!」


法希「タイマーセット、ゲームスタート!」


まいん「とっつげきぃ〜〜〜!」


爆魔「ウ゛グゥ゛〜〜......ゴオ゛ア゛ァ゛ァ゛ーー!!」


まいん「ん〜〜〜そこ邪魔っ! わわっ、こっちもぉ!? も〜〜〜、ほらあっちいって!!」


法希「えっ、ちょ、ギャアァァァーーー!! ああああっぶねぇ!!! 今の防衛線飛び越えるとこだったよ!?」


まいん「だって、こいつらっ......想像以上に機敏でうざいんですもん! 散弾も全然効いてないし〜〜!」


爆魔「ウ゛ガァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ーーー!!」


まいん「うがーじゃない!!」


爆魔「オ゛ゥ゛〜〜......!」


法希「確かに妙だ......これだけ連携の取れた分隊行動は、普通の群集型じゃあり得ない......!」


まいん「ホウキさん! 作戦変更! ありったけシールド張っといてください!」


法希「まさか、それって......いや確かに効果的だけども! くそっ、コマンドスイープ MAOフラッグ!!」


まいん「それまで時間は、稼ぎます......からぁっ!」


爆魔「グル゛ゥ゛ァ゛ァ゛ァ゛......ニガサン、ミハラマイン゛ン゛ン゛ン゛!!!」


まいん「どこでその名前知ったか分からないけど......ホウキさん以外が気安くそれを呼ばないでよねぇっ!」


爆魔「......オイツメロ、ゼンホウコウカラ......タタキツブセェ!!」


まいん「......っ! こいつ......!? ホウキさん、早くっっ!!」


法希「全エリア完了だ!! ぶっ放せ、まいんちゃん!!」


まいん「サイッコー......です!! ——コマンドマイン!  マキシマム・CB・パラライザーーーッ!!!」


爆魔「ゴガァッ...!! ウ゛ボァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ーーーーッ゛!!!」


まいん「ふいぃ〜〜〜......いやぁ〜手早いお仕事、お疲れ様ですホウキさん!」


法希「無茶さすなぁ......っていうか、まいんちゃんも、あんなに全力で行く事ぁないでしょうよ」


まいん「だって長引かせるほうが疲れるんですもん......そ・れ・にぃ〜〜〜終わったら遊園地と中華街デートなんですからぁ、そりゃちょっとは張り切りますって! んんぅ〜〜......! ふわぁ〜〜あ......でもちょっと、眠くなってきちゃったかも、あとはホウキさんお願いしますねぇ......」


法希「えぇ〜......!? やるだけやって丸投げぇ......?? ま、こんだけやれば無理もないか」


グレ「法希か? そちらに通知が入ったと思うが」


法希「あ、グレイドさん、報告しようと思ってたところで......C4地区の爆魔、合計21体拘束完了です」


グレ「いや、それは確認できているんだが、不明な反応がお前たちの近くまで来ている。爆魔とも違う......警戒態勢は解かん方がいい」


法希「不明な反応......? そんなのこっちでは何も......」


まいん「来る」


法希「まいんちゃん?」


まいん「さっきのやつ......さっきのあいつ、が......狙ってる——ホウキさん、逃げて!!!!」


法希「待って、なんのこ——ぐはぁっ!?」


グレ「くそッ! なんてことだ、まさかよりにもよって!!」


爆魔「全く貴様は、勘のいい女だよ全く」


法希「誰だお前......! いや、お前ら!!」


まいん「仲間......? どうして感じるの、あなたは、まいんの仲間......? でも、ホウキさんの敵......? 訳わかんないよ......」


グレ「聞こえるか法希!! すぐにそこから逃げろ、そいつらと交戦するな!! 反応を特定した!“ヒューマイン”だ!! そいつらの狙いは間違いなく——!」


爆魔「やかましくてかなわん。8号、遮断しろ」


法希「あっ......!」


8号「すまないが、邪魔はできるだけ入れたくない......」


爆魔「そいつの相手は任せたぞ、でなければ私の役目が終わらん」


法希「お前らの狙いは、まいんちゃんか......!!」


爆魔「まあそうだ。そこで貴様が大人しくしていれば、私はこの女を連れ去るだけで済む。こんな火薬臭いところに来て、さらに面倒ごとが増えたらたまらんからな」


8号「これは君自身と、彼女のための忠告でもある。どうか手荒な真似をさせないで......」


法希「......っざけんな」


爆魔「んん? 今なにか言ったか?」


法希「ふっざけんなぁぁぁああああ!!!」


まいん「ホウキさん! ダメ!!」


法希「連れ去るだと!!? お前らが誰だか知らないが! まいんちゃんを! 俺の家族を! 好き勝手させる訳ねぇだろうが!!」


爆魔「グゥッ......! 貴様はもう少し物分かりがいいと思ったんだがなっ......! ここで叩き潰して躾なおしてやろう!!!」


まいん「ホウキさんっ......!」


8号「くっ......! とてつもない余波だな......! まさか生身の人間がヒューマインとここまで戦えるとは......調子に乗って本来の目的というのを忘れていなければいいんだがな......」


まいん「......ねえ、あんた達の言ってる目的って、まいんのことなんでしょ? ——だったらさ、まいんがこうしたらどうするわけ?」


8号「何をしてる......!」


まいん「見て分かんない? 脅してんの」


8号「全く、君たちバディは揃いも揃って......どこまでイレギュラーな行動を取れば気が済むんだい」


まいん「いいから答えて! このままホウキさんを傷つけるつもりなら、まいんはここで死んでみせる。それが嫌なら、あんたはここで、まいんがホウキさんを助けるのを黙って見てて」


8号「......なるほど、どうやら君は、私が思っていたよりもずっとクレバーだったようだ......それほどまでに、あの少年のことが大事なのかい」


まいん「当たり前でしょ! ホウキさんは、たった一人の家族だもん......」


8号「家族、か——」



爆魔「逃げるなぁぁああ!! ちょこまかと小賢しい!! 何を企んでいる!!」


法希「チッ...! さっきから声がでかいんだよ本当に......! まあでもいい、ここまでくれば十分だ」


爆魔「何ィ......!?」


法希「——JBフラッグ パラライザー・リムーブ」


爆魔「これはっ......!」


法希「21発、くれてやる!!」


爆魔「グアァァァァアア!!!!」



8号「——この爆発は......! まさか、拘束した爆魔を利用したのか......!?」


まいん「っ...! どうする? これであんたの仲間は一人居なくなった。このまま退かないなら、この銃口をあんたに向けてもいいの......!」


8号「残念だが、君の判断には二つ間違いがある......まだあちらの戦いが終わったわけではないということ。そして、その銃では私は倒せないということだ」


まいん「どういうこと......? 今更何を言って......!」



爆魔「ハァ゛ァ゛〜〜〜ア゛ア゛......本当に馬鹿げた真似をしてくれるな、貴様という人間は......!!」


法希「どういう、ことだよ......! なんで傷一つ、付いてないんだよ......!!」


爆魔「至極当然のことだ、フグが自分の毒で死ぬと思うか?」



8号「——ついさっき爆発させたあの爆魔の軍勢こそ、あの男の分身なんだ。爆弾人間......ヒューマインの性質上、自分の能力で起こる爆発でダメージを受けることは、まず無い。さらに言えば、分身体が倒されることで、そこへ割かれた戦闘力が本体へと還元される。つまり......」


爆魔「気をつけておけよ、この体になったばかりでは、殺さない加減が難しい......!!」


法希「っ! はや——あ、がッ......! ゲホッ......! ハァッ......ハァッ......!」



まいん「ホウキさんっ!!」


8号「もう一つの間違いを教え忘れていたな」


まいん「今すぐあいつを止めて!! じゃないと、本当にこのままトリガーを引く!! まいんが死んでもいいの!?」


8号「......説明するよりは、君の体で実証した方が早いか」


まいん「あ゛っ゛......! うっ、ぁ゛ぁ......? なに、が......」


8号「——ハッキングしたのさ。君の銃に装填されていた弾丸を、非致死性の物に切り替えた。A.E.G.I.S.の兵器の欠点は、電子制御のセキュリティが突破された時の無防備さだ。外部からシステムを書き換えれば、君の意思に関係なく発砲することすらできる」


まいん「そんな暇......あの短時間で、できるわけ無い、のに......!」


8号「できるから言ったんだ、その銃で私は倒せないと」


まいん「どうして、こんなこと......」


法希「ゲホッ......! ハァ......ハァ......」


爆魔「......! 8号ォ! 終わったならばその女を持ってこい!!」


法希「——終わっ、た......? そんな、うそだろ......まいんちゃん......?」


8号「偉そうに言うなよな、今回の功労者は私なんだぞ、クラスター」


爆魔「フン......! 俺がやればもっと早くに終わらせていた」


8号「戯言に付き合っている時間は無いんだ。任務に貢献したければ、君が彼女を連れていけばいいさ」


法希「グフッ......! おい、待てよ......! 連れて行かせるかよ......お前らなんかに、まいんちゃんを......!!」


爆魔「チッ、こいつは......!」


8号「——止せ、今の君じゃ無闇に被害を増やすだけだ。地味な仕事は私がやろう、早く彼女を」


爆魔「ほう......殊勝な心がけだな、ならばお言葉に甘えるとしよう......!!」


法希「ゴハァッ......!! やめろォ!! フーッ......グッ、ウゥ......! まいん、ちゃん......! 行くな......! かえせっ、返せよっ......!!! くそッ!! くそォ......!!!」


8号「......こちらエリアC4、A.E.G.I.S.本部へ連絡。旗手法希隊員の負傷を確認、至急救護を要請する。以上だ」


法希「お前、なにを......! なにを、してる......? その通信機を、なぜ、持ってる......」


8号「本当に、すまない......」


法希「なんで、敵が謝るんだよ......なんで、俺を助けようとするんだよ......!」


ラジ子「こんなことに巻き込んでしまって......本当にすまない......“ホウキくん”」


法希「なんっ、で......ラジ子、さん、が......?」


ラジ子「水原まいんは、拉致された。全て私がやったことだ」


法希「待って、くださいよ......信じられるわけ無いでしょう......! あなたのことも、まいんちゃんのことも!!」


ラジ子「罪は全て私が被る。なんの慰めにもならないだろうが......煮るなり焼くなり好きにして構わない」


法希「あなたを、殺しても......まいんちゃんは帰らない......なら俺は、もう何もかも、どうでもいい」


ラジ子「——そうか。君の怒りは、よく分かる......」


法希「何も......守れなかったんだ......俺は、またっ......!! うっ......うああああああああああああ!!!!!!!!! ——ちくしょう......」


——————————————————


ラジ子「......まさか君が相手だとはね。意外に似合っているじゃないか」


グレ「ミス・ラジエーション、これは尋問だ。黙秘権はあっても、余計な発言をする権利は無い。答えるか、答えないかだ」


ラジ子「これは失敬。ふむ......それでは尋問官どのは、一体何をお望みなのかい? 目的か? 手段か? 計画か? 好きなように聞きたまえよ」


グレ「やけに協力的な態度だな、減刑でも願いたいか?」


ラジ子「君がくれるというのならね」


グレ「それは、お前がよこした情報の真偽の程にもよるがな」


ラジ子「嘘はつかないさ......約束する」


グレ「ならば聞こう、この作戦の目的は?」


ラジ子「無論、水原まいんを拉致することさ」


グレ「計画はいつから始まっていた?」


ラジ子「本格的に準備を始めたのは二週間前、君がラウンジで彼女の話をした時だな。まあ、報告書には私が盗聴していたとでも書いてくれ」


グレ「俺への余計な気遣いは不要だ。計画上想定されていた流れを話せ」


ラジ子「エリアC-4での戦闘が始まると同時に、まずは侵入感知システムをダウンさせ、A.E.G.I.S.本部との通信も遮断。水原まいんを無力化したのちに速やかに引き上げる......という感じかな」


グレ「水原まいんの今の状態は推定できるか」


ラジ子「まあ殺されてはいないだろう。テロに利用するか、プロパガンダにでも使うか、エネルギー開発か、量産兵器の研究材料になるか......そこら辺の方針は我々の方でもまだ決まっていない」


グレ「疑わしき可能性は全て話してもらうが、その前に......」


ラジ子「全てか......骨が折れる」


グレ「襲撃事件では、お前の他に仲間がいた。個人での裏切りではないならば......お前たちは、組織なのか?」


ラジ子「さすが鋭いね、その通りだ。とはいえ、私から出せる情報はほとんど無いが」


グレ「あるだけ吐いてもらおう」


ラジ子「仕方ないな......奴の名はクラスター、無論コードネームだが、なんの捻りもないのが笑えるよ」


グレ「クラスター爆弾、か......」


ラジ子「その通り、ヒューマインの中では、比較的初期に誕生したようだ。無駄に先輩風を吹かされたからね」


グレ「だが、ヒューマインとは本来、爆魔が人間と融合した存在。つまり、同じ爆弾のヒューマインと爆魔が同時に存在することはない。しかしあの時、C-4に現れた爆魔とあの男の波長は一致していた。これはどういうことだ?」


ラジ子「それ自体が、奴の能力であり特異性だ。奴は自身の体を親として、そこから分割させた子爆弾を作り出すことができる。クラスター爆弾が、かつては親子爆弾とも呼ばれたのと同じ所以だな」


グレ「つまり本体は司令塔で、戦線に行かずとも襲撃することが可能というわけか......ともすると、同時に、多発的に......」


ラジ子「ただ、あまりに多くの分身体を作ると一体あたりの戦闘力や知能は低くなるし、自立行動は難しい。この前のように、はっきりと個体の意思がある分身は数体が限度だろうかね」


グレ「待てよ? まさか、C-4に出現した奴は本体ではないということか?」


ラジ子「そこが恐ろしいところさ。いくらでもトカゲの尻尾切りができる」


グレ「こうなると厄介だな......爆魔どもが組織を結成しているというだけで脅威だというのに、その一員がこれとはな......」


ラジ子「だが、奴の正体を探ることは勧めないよ。観察を重ねた私ですら......分からずじまいだったからね」


グレ「何も知らないよりはマシと考えるべきか......話を戻そう」


ラジ子「そうだな、確か水原まいんの運用可能性についてだったが......」


グレ「いや、それはもういい」


ラジ子「なんだい、全て話せと言ったのは君の方だろう?」


グレ「改めて聞くことができた。話を最初に戻そう、ミス・ラジエーション......なぜ、こんなことをした?」


ラジ子「それは話しただろう、彼女を拉致し、運用する目的だと——」


グレ「目的ではない、動機の話だ」


ラジ子「それは......」


グレ「お前が個人の都合でまいんに手を出したのならば簡単だが、組織ぐるみの計画となると話は別だ。必ず思想や信条、利得が絡むことになる。お前はそう易々と集団に迎合するタイプではないだろう」


ラジ子「......悪いが、それについては黙秘権を使わせてもらおう。はぐらかしているわけではない、正当な権利のはずだ」


グレ「構わん、得られた情報としてはもう十分だ。真偽の程とお前の処分を本部で検討してから、また来るとしよう」


ラジ子「それまでは監禁か......寂しくなるね」


グレ「くれぐれも、下手なことはするな」

(ドアを閉め、退出する)

ラジ子「さて......君はどうするつもりだい? ホウキくん」


法希「......気づいてたんですか、ここマジックミラーなのに」


ラジ子「音まで消せるわけじゃないからね。さしずめ君は書記役だろう」


法希「まあ、はい......」


ラジ子「なら全て、聞いていたわけだ。改めて説明する手間が省けたな」


法希「認めるんですね......本当に、俺たちを裏切って、騙してたんですか......!?」


ラジ子「そうじゃない、と言ったら......信じてくれるのかい?」


法希「......分からない。あなたは、戦いが終わった俺を助けようとした。逃げることもできたのに、逃げなかった......そこが妙に引っかかる。あなたは、何かを隠してる気がするんだ」


ラジ子「そうか......やはり君は鋭いな」


法希「これは尋問でも取り調べでもない。俺とあなたの、一対一の話です。教えてください、動機について」


ラジ子「......守りたかった仲間がいた。それが全てだ」


法希「守る? 誰から......」


ラジ子「——A.E.G.I.S.さ。この戦いは、奴らによって仕組まれたからだ」


法希「この戦いって......まさか、A.E.G.I.S.がヒューマインと......!? なら、クラスターの正体は......」


ラジ子「確定ではないが......十中八九、A.E.G.I.S.内部の人間だ。それも上層部のね」


法希「そんな......! いや、でも......おかしいと思うところは、いくつもあった。どうして今年入ったばかりのまいんちゃんが、前線に配置されたのか......普通じゃあり得ないことだから」


ラジ子「奴らはずっとこの機会を窺っていたのさ。水原まいんという人材を、いつでも戦場に駆り出せるこの状況を」


法希「いつからそんなこと......! いやそもそも、一体どこまでが......どこまでが味方で、どこまでが敵なんですか......!?」


ラジ子「少なくとも、彼は......グレイドは違う。君の味方だ。だからこそ、知らせることはできなかった。彼の立場上、どんな危険が伴うか分からない。それほどまでに、敵は強大だ......」


法希「もしかして、あなたが守りたかった仲間って......」


ラジ子「ふふふ......ああそうさ、もう隠すことはないな。グレイドだよ、そして君たちだ」


法希「俺たちも......?」


ラジ子「私にとっては......家族同然の仲間だ。奴らはそれを知っていた。知っていた上で、私を誘ったんだ。その時拒めなかったのは、私の弱さだな......

けれど、君たちを失うことになって私一人が助かるくらいなら......私は汚名を被ろうとも、君たちに生きていてほしかった......!」


法希「そんなことって......」


ラジ子「結果として、これほどまでに君たちを傷つけてしまった。それは逃れようのない事実だ。許してもらおうなどとは思わないが......本当に、すまない......」


法希「......あなたを責める気はない。今まで信じてきた組織が本当は敵だったなんて知ってたら......俺なら、どうすればいいか分からない。何を信じればいいのか、今はもう何も......」


ラジ子「分かるよ。私も、今の君と同じ目をしていたことがある。濁って淀んで......全てがくすんで見えた。だが......それでも私は選択した。最後の最後に信じられるものがあったからだ、たった一つでも」


法希「最後の最後に......たった一つでも......」


ラジ子「“守りたい仲間がいる”それだけは、何があろうとも変わらない。信じられると信じていたから、犠牲は払えど後悔はしていない」


法希「だから、ラジ子さんは戦えた......」


ラジ子「君にもあるはずだ、私よりもずっと強いものが」


法希「俺が、最後の最後まで信じられるもの......」


ラジ子「さて......改めて聞こうか、ホウキくん。君は、どうするつもりだい?」


法希「俺は......守ります! まいんちゃんを! 俺が信じる家族を!」


ラジ子「......その言葉が聞きたかった。私のラボへ向かえ、兵装一式と、まいんくんの座標データがある」


法希「ラジ子さん......俺は、あなたのことも信じます......!」

(部屋から出る)

ラジ子「ふっ......嬉しいことを言ってくれるじゃないか......やはり君にはあるんだ。大いなる可能性が......」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

マインとスイーパー 有明の藻塩 @kaiza_113

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る