【内容変更版】硝子の少女の生命譚

紅杉林檎

硝子の少女の誕生


「おぎぁーおぎぁー!」

「あぁ......生まれた....生まれたぞ幸子!」


 成人した男性の幸声が病室中に響く。どうやら我が子の誕生を祝ってるようだ。


「頑張ったな......よく頑張ってくれたよ幸子......」


 男性はさっきの嬉しそうな声から一転して今にも泣きそうな声で出産を終えた妻を慰めた。


「おぎゃーおぎゃあ! おぎゃあ!」

「ふふあなた......そんなに騒がないで......赤ちゃんが泣いちゃうわ」

「ごめん、でもそれぐらい俺は嬉しくて嬉しくてたまらないんだ」


 今も、未来も、幸せそうな家族の輪をぐちゃぐちゃにする、最悪の一報がゆっくり、ゆっくり、と向かってきていた。


「ご出産おめでとうございます。では、これから、一週間診断を行います」


 産湯に浸っていた赤ちゃんが助産師の手によって連れてかれた。


「小枝さん、幸子と赤ちゃんをよろしくお願いします」


 深々と医者に頭を下げて、男性は病室を後にした。

 小枝というのは幸子のかかりつけ医の名前である。


「輝さん、お話をしたいんですが......体調はいかがですか」

「お医者さん......はい....出産直後に比べたらマシです」

「それは良かったです。それでですね、話というのは____」

「お医者さん、もう分かってますよ。ズバリ、赤ちゃんのことでしょう」

「話が早くて助かります。もう分かっているでしょうがあの子は十万人に一人が罹る奇病、【砂晶さしょうしょう】を患ってます。今ならまだ間に合います、あの子を捨てましょう」

「でも夫にはもう生んだことはバレてるし......」

「その点は僕に任せてください、医療もいの字も分からない一般人を誤魔化すことなんて簡単です。それにあの子は......」

「それ以上は言わないで! 分かった、あの子は捨てる。夫も捨てる。だから私だけは!」

「おやおや......お子様だけでなく夫までも......ふっふっふ良いでしょう。では今日はこのぐらいで。


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