私の居場所

ゆ〜

居場所

向こうの方からだ。

どぉん、どぉんと花火の上がる音。

雲ひとつない澄んだ夜空に大輪の炎が華の如く瞬間的に咲き誇る。

遠くから、ここまで響いて聞こえてくる囃子の音と人々の笑い声で出来た華やかな雑音が、私の居場所はあそこにはないんだと突きつけてくる。


看護師さんに無理を言って連れてきてもらった病院の屋上で治りかけの足をさすってベンチに座りながら1人、花火を見る。


どこを間違えてしまったのだろう。

なにを間違えたのだろう。

どうして…?


JK最後の夏。もっと楽しみたかった。


*・*・*・*・*・*・*・*・


私はなにをとっても周りの人より上にいる。


「お宅の〇〇ちゃんほんっとうに可愛いわよね〜」

「〇〇ちゃん足はっや!!いいなぁ〜」

「うちの子も〇〇ちゃんを見習ってほしいわ」


母と一緒にいて何回聞いただろうか。

始めは嬉しかった。褒められることが大好きだった。

でも、小学校の学年が上がるにつれ周りが私に抱く感情は「憧れ」から「妬み」に変わった。

褒められることが嫌いになった。怯えるようになった。


「いつも先生にほめられてんね」

「〇〇ちゃんってぶりっ子?」


次第にその「憧れ」だったものは私に牙を向いた。

だから、中学と高校ではずっと気をつけて怯えた。

昨日まで私と笑っていた人が憐れみを含んだ冷たい視線を向けてくる。

友達だと思っていた人が、自分の持ち物を隠す。

無視される。

この怖さ、孤独さは実際に受けていない君等には絶対に分からない。

頭の中の思い出が全部黒で塗りつぶされる。



*・*・*・*・*・*・*・*・*・


あの日の朝は普段通りの教室だった。

私もいつも通り大人しく親友しんゆう達と話していた。


「***の雑誌見た?今回付録のやつめっちゃ可愛くない?」

「一時間目から数学とかちょーダルいぃ」

「そのグループイケメン揃ってるよね〜」

「サッカー部全国大会だって!!」

「それうちのクラスじゃないっしょ」

「JKアイドル私もやりたーい」


ガラッ


「みんな静かにしろー!!!!」

「せんせー、その子誰??」

「ほんとだったん!?」

「ハーフかな?」

「はいはいはい。いいから先ず静かにしろよー?」


先生の後ろに立っていた転校生は先生に促され喋りだした。


彼女は大人しくて、綺麗だった。

ロシアと日本のハーフだと言った声は涼しげな凛とした声。

緊張したようにクラス全体を見回した目は色素の薄い透き通った目をしていた。




おとなしい彼女は読書が好きらしく、私達のグループにすぐに馴染んだ。

大学受験を目前にした私達はあまり遊ぶことはできないが、近くの土手で毎年行われる夏祭りはみんなで行こうと決めた。


その頃だったと思う。

クラスの一軍に目をつけられる。


初めは無視、っていうのが定石なのかもしれないが私達のような静かなグループとは合わないのでスタートはネットへの悪口だった。

一軍の中でも成績の良い子より成績が良かったり、体育の成績がよかったり…

そんな鬱憤がきっと私が彼女と一緒にいることで行動に移されたのだろう。

あいにく、悪口には慣れていた。

小学校のいじめなんて無視・悪口・物隠すくらいしかなかったし。

お金を要求されても、教科書をズタズタにされてもそんなに堪えなかった。


それがもっとつまらなかったのかもしれない。

散々だったな。

殴られ蹴られ階段から落とされ、重度の骨折。




・*・*・*・*・*・*・*・*・


「ごめんね。」


一人呟く。

この声はお祭りに行ってるみんなには届かない。


♬ピコンッ


「花火ちょー楽しいよ!!

 そっちもボッチで観てんのかな?w」

―写真が添付されています。


あの一軍女子からだ。

その写真には照れ笑いを浮かべた転校生の姿と共に――

親友たちが写っていた。

信じられなかった。

信じたくなかった。


気づくと私は走っていた。

フェンスを乗り越えるまでは一瞬で痛みなんて感じなかった。


やけにゆっくりと看護師さんが何かを叫んでいるように感じた。

私のことなんて知らないとでもいうように華やかな雑音は途切れない。


花火を写した目から流れる一筋の涙は七色に光りながら地に落ちていく。




真っ暗な闇の中に私が溶けていくのだと、そう思った。

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