クレインの神々

@jiggy_jay

第1章 ロテジアの島々

1おおロテジアの島々は、アンティアの地とルーニアの地のあいだにあって、なみは青くぎ、深く鬱蒼と茂った森があり、果実が豊かに実り、花々が咲き乱れ、獣たちは自由にその中を闊歩し、鳥たちは蒼穹あおぞらを自在に飛び回っている。まこと、ロテジアの島々ほど豊かな所はない。2まだ世界が種々くさぐさの事どもを知らぬ幼児おさなごだった時代から、即ち種々くさぐさの事どものあるよりも先に、天の諸々もろもろと地の諸々もろもろが開かれるよりもずっと先に、まだ天と地の境界さかいめも模糊として知らず、何者もまだ黎明よあけを知らず、天地を創った神々の遠く呼ばわる声が雲のはざまから微かに聞こえていた時代から、ロテジアの島々は海のまんなかにその体を横たえて、神々の創造を見守っていた。3やがてロテジアの島々は黎明よあけを知った。数ある者のうちで、はじめ黎明よあけを知っているのは神々とこの島々の他にない。4ロテジアの島々のうちで最も大きなラカルの島は、草木が特に深く生い茂り、この世の中で最も豊かである島々のうちでも、最も豊かである。森の最も奥深く、ゆたかな果実と、美しい花々と、みどりいろの草木と、多くの獣と、鳥たちの小唄に囲われて、リュート神の寝所しんじょがあり、この世で最も古い神々が微睡んでいると、いにしえ口伝いいつたえに聞く。5森の奥深くに分け入って、神々の寝所しんじょを見たという者がある。その者が言うには、神々は皆、悠久の時を生きてきたとは思えないほど若々しく、その顔は穏やかで静かにつむり、眠っているようでありながら、深い瞑想に耽っているようでもあったという。またある者が言うには、神々は皆年老いて、厳めしく、眉間に皺を寄せた険しい表情で、光輝をふりまく金色こんじきの鳥が一羽、寝所しんじょの屋根に留まっていて、人の謡うような声で鳴き、他所よそ者が来れば追い払うという。本当のところ、森の奥深くに分け入って、その寝所しんじょを見たという人は居ないのである。6さて、ロテジアの島々のうちで二つ目に大きく、ラカルの島のすぐ隣に浮かぶガウンダリの島には、幾条いくすじもの細い川が流れている。そのうちの一つ、タリクの川に小舟ボートを浮かべ、船頭もなしに、少ない荷物だけを積んで、ただ一人櫂を漕ぎ川を下ってきた者があった。彼の腰はもうすっかり曲がり、髪は総て白くなり、顔には既にその苦労の跡を畳んでいた。老人は昔のめずらしい話をよく語ったので、村老むらおさは彼を歓待し、夜、大きく燃え盛る薪の火を囲んで、皆が老翁おきなの話に聞き入った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

クレインの神々 @jiggy_jay

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ