第11話 炎の化身イフリート

「うじゃうじゃと雑魚が出てきたわね。アタシは興味ないから、ポチやっておしまい。」

ゾラは使役しているイフリートをポチと呼んでいる。


「ガガガ」

イフリートは頷くと、その巨体をゆっくりと動かし始めた。

足を引きずるように一歩ずつ、その重量により、舗装された地面がひび割れ、舗装石がめくれ、地面があらわになる。イフリートの軌跡は明確にメビウスの地に痕跡を残していった。


「イフリートが動き出したぞ!!一斉攻撃だ!」


メビウス側は主戦力の団員が既に別世界へ出発した後だった為、残存兵士は下級準団員や訓練生が中心で構成されていた。唯一レイの対応の為に残った、スミスとアリスが上位に属する。ジャイは序列13位、ピートは14位(最下位)、ヒョロとブッチャは準団員だ。

戦力差は歴然だった。


「出発直後だから団員への伝達手段もない。頭を使えスミス・・・考えろ」

いつもほおけているスミスだが、この状況下では真剣そのものだ。


「アリス!『合成魔法』で束縛する!」


(あれは確か、イースのブレインの関係者と・・・誰だったかしら。)


アリスの水とスミスの植物魔法をかけ合わせた合成魔法は、生命力を強化し、イフリートの体中に大樹を巻き付けた。イフリートの灼熱とは相性が悪いがアリスの水魔法で熱を沈下させている。


イフリートの体中から湯気が立ち上っている。大樹を巻き付けるがその歩みは止まらない。取り巻く炎とアリスの水魔法の駆け引きが行われているが、かなり分が悪いようだ。


「ブチ、ブチッ!!」

身体の関節部を束縛しようとしていた大樹が音を立てて引き千切られる。千切られて破片になったスミスの樹木が無残に焼却されていく。


(アリスのもともとの魔法属性は火だが、イフリートを滅却するほどの業火は出せない。苦手だが訓練中の水に頼る他ない。もう少し訓練の時間があれば。)


スミスは術式を操作し、細かい蔓をその大樹から生やした。関節部の奥深くに侵入し、外装ではなく内部からの束縛を試みた。イフリートは無数の岩石が筋肉のように構築され体をなしている。体を覆っている鎧は特段特殊なものではないように見える。細かな蔓がその岩石のつなぎ目にそって這わされた。効果はあったようで、足と腕の動きが徐々に不規則になってきた。


「イフリートの動きが鈍くなっている今一斉攻撃しろ!」

下級準団員や訓練生は各々の武器や魔法で一斉にイフリートを攻撃する。

がダメージが入らない。


ここぞとばかりに、ジャイ達漆黒三連星が攻撃を仕掛ける。


「いくぞ!おめーら!!ジェット・リーム・アタックだ!!」


ジャイを先頭に、ヒョロ、ブッチャが縦一列になり、順に攻撃を繰り出す。

・・・今はその連携不要ではないだろうか。


3人の主武器は全員が斧だ。術式が付与されているのだろうか武器自体に魔力の波が見受けられる。


振り下ろした斧の刃先が、岩石に食い込む。ジャイが切り口を与え、続く3人が連撃でさらに傷口を広げる。


流石に漆黒三連星は他の兵士達と比べれば攻撃力が高く、攻撃個所を集中したこともあり、足の一部分が欠けた。


(その程度ではポチの身体に致命傷を負わせることはできやしない。たとえ炎を帯びなくてもその躯体はゴーレムに匹敵する強靭さよ。さて雑魚はどうでもいいけど、ブレインは捕獲したいところね。)


合成魔法による拘束でスミスとアリスは攻撃に転じることができない。イフリートの動きを封じ込むのに精一杯だ。ピートはタンク職のような存在で、攻撃力は下級兵団以下の力量だ。


「く、火力が足りない。」


イフリートの動きに蔓が耐えられず所々でぶちぶちと引きちぎられる。体から迸る炎がさらに高温になり、大樹を炭に変えそうな勢いだ。


「アリス、一旦解除し攻撃に移るぞ!」


二人が魔法を解除した瞬間をイフリートは見逃さなかった。

一旦身を縮め、大きく仰け反った後、青い灼熱のブレスを吐いた。


反応の遅れたスミスを灼熱のブレスが襲う。


スミスは守りの魔法が間に合わず、直撃を受けた。

数秒の間ブレスが浴びせ続けられる。周りにいる誰しもが死んだか致命傷との共通認識を持った。助けられる者はおらず、ブレスの終焉をただ見つめるだけだった。


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バタフライ・エフェクト 五十嵐圭 @kei_igarashi

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