眼鏡を付けてる時だけ、女の子に変身するようでして……。女の子姿の時だけ、学年一の美少女から迫られるんです。

米太郎

第1話

 春の陽気は、気分も陽気にさせる。


 僕は、今日から高校生。

 新生活が始まると思うと、自然と笑顔になるな。

 僕の中に眠ってた元気だって、湧き出てくる。


 玄関で、新品の革靴に足を入れる。

 これからの成長を期待して、ワンサイズ大きくしたから、靴がするりと入る。



 靴を履いて立ち上がる。

 振り返り、お母さんに挨拶をする。


「行ってきます!」

「はい。気を付けて行ってらっしゃい」


 玄関で見送る母も、明るく見送ってくれる。



 よし、これから新しい生活だ。


 新しい靴。

 新しいカバン。

 新しい制服。


 これから、僕の新生活が始まるんだ。


 中学時代は、パッとしない学生生活を送っていたが、高校生になったら、そんな生活とはおさらばしてやるぜ!


 僕には、作戦があるんだ。

 カバンに入れた眼鏡ケースを見ると、期待に胸が踊る。


 中学時代と違うところは、これだ。

 視力が落ちてきてるのは感じていたが、それが致命的な弱点だったことに気がついたんだ。

 人の表情が見えないと、上手くコミュニケーションが取れない。


 これがあれば、人の表情が見えるはずだから。

 そうすれば、僕だって人並みにコミュニケーションが取れるはず。


 試しに、この眼鏡を掛けながら高校へ向かってみようかな。

 カバンから眼鏡ケースを取り出してみる。


 せっかく掛けるならと、少しオシャレな眼鏡にしてみた。

 今までの僕から変われるように。

 今までの暗いイメージを払拭できるように、赤色の眼鏡フレーム。

 真っ赤にすると、さすがに目立ちすぎるなと思って、抑え目の薄い赤色。

 このくらいが、軽い印象を与えられると思うんだ。


 フレームの形は、堅いイメージがしないように、横に長い丸形。

 この眼鏡だけを見ると、少し女子っぽい気もするけれども。

 そのくらいの方が、僕の堅いイメージを壊せるだろう。


 これを掛けたら、世界が変わるんだろうな。



 僕は、眼鏡を掛けてみる。



 初めての眼鏡だけれども。

 これは、すごいぞ。


 世界が明るくて、綺麗に見える。


 ぼやけていた世界がくっきりとした輪郭を持ったようだ。

 ぼやけていた色も、こんなに目に飛び込んでくるんだ。


 空ってこんなに青くて。

 曇ってこんなにくっきりとした輪郭をしていたんだ。


 これは、気分が上がる。



 人もいっぱい。

 少し緊張したフレッシュな新人サラリーマンもいたり、学生はどこか楽しそうに歩いているのがわかる。


 いいな、いいな。

 世界ってこんなに楽しさにあふれているんだ。



 あ、あの子、僕と同じ制服着ている。

 可愛い子だな。

 僕の高校生活、あんな子と仲良くなれるチャンスだってあるかもしれない。

 これからは、希望だっていっぱいある。


 そう思っていると、その女の子が近づいてきた。


「同じ制服ですね。一年生ですか?」

「はい。そうです」


 女の子はニコニコと笑っている。

 いきなり僕に心を開いてくれているのかな?


 女子から話しかけられるなんてことなかったし。

 この眼鏡の効果が出ているのかも知れない。


「最近はジェンダーフリーといいますけれども、珍しいですね」


 早速、眼鏡の話題を振ってくれてる。

 高校生活、この眼鏡で上手くいけそうだ。


「これ、初めてなんですけれども、これ似合いますか?」

「もちろんです。私そういうの好きですよ」


 初対面での会話だけれども、好きって単語を聞くとちょっとドキッとしちゃうな。


「女子が男子の恰好をしたり。男子が女子の恰好をしたり。女子が女子を好きでも、男子が男子を好きでも良いと思います」


 なんだか、後半部分はそこまで同意できないけれども。

 僕を受け入れてくれているって感じちゃうな。


「僕も、その考えに同意です。ジェンダーフリーですよね」


 そう答えると、女の子はすごい可愛く笑う。



「その格好で、僕っ子なんですね。素晴らしいです。私そういうのすごーーーく好きです!」


『僕っ子』って、そりゃあ男子が『僕』と言っても普通なわけで。

 女の子は、いきなり僕の手を取ってきた。


「女子同士、これから仲良くしましょうね!」


 女子同士……?

 この子は、何か勘違いしているのかな?


 眼鏡は確かに女子っぽいけれども。



 ふと、街角に駐車された車の窓ガラスが目に入る。


 眼鏡をかけると、見える景色は全てが新鮮に見えて。

 何もかもが綺麗に見えて。


 窓ガラスに反射して見える僕の姿も、どこか綺麗に見える。


 くっきりと見える僕の姿は、綺麗に見えて。

 ……というか、可愛く見える?


「初対面ですけれども、女子なのに男子の恰好をしているあなたなら、わかってくれそう。私、女の子が好きなんです!」


 瞬きを連続ですると、カメラで撮ったこのように、世界が切り取られるようで。


 僕の視界には、可愛い女の子がくっきりと写っていた。



 なぜか可愛くなった僕は、抜群に可愛い女子からカミングアウトを受けた。


 綺麗な世界は、色めいて。

 季節的にはまだ早いというのに、百合の花が咲くのが見えた。

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眼鏡を付けてる時だけ、女の子に変身するようでして……。女の子姿の時だけ、学年一の美少女から迫られるんです。 米太郎 @tahoshi

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