第11話

 翌日、タケトは『巨神』グームの前に来ていた。


 さっそく、AFアマードフレームの操縦を指導することになったのだが――

「えーと、スチュワートさんでしたっけ? まさか、パイロット候補って――」

「オレだと何か問題か?」

 彼は相変わらず不満そうに応える。


「い、いえ、そういうわけではありませんが――」

 苦笑いになるタケト。一番、やりにくい相手に指導しなければならないとわかって、頭をいた。


「タケト様、それではマナを『巨神』に送ります」


 ナタリアの声に、タケトはドキッとした。(意識するなと思えば思うほど、意識してしまうなあ……)


 自分の背中に残る、二つのふくらみの感触――

(ダ、ダメだ思い出すな――)

 タケトは頭を振って、煩悩を払い除けようとした。


 ナタリアが自分のムネの前で手を組み、祈りのポーズをして数秒後、アーマードフレーム――彼女たちは『巨神グーム』と呼ぶ――の胸部、コックピットハッチが開く。


「それじゃスチュワートさん、搭乗してください」

「キサマはどうする? どうやって指導するつもりだ?」

「ボクも乗り込みます」


 タケトは昨日、グームに搭乗したとき、後部にもう一つ座席があると気づいていた。

 宇宙移民解放軍の主力機だったザブレグは単座だった。

 どうして、この機体が複座になっているのか、その理由はわからない。ただ、指導するには好都合だ。


 グームに乗り込み、安全な場所までタケトが操縦したあと、スチュワートが操縦席側へ移動する。


「――レバーとペダルの説明は以上です。それではまず前進、後進の練習をします。レバーを前に押して、メダルを踏み込んでください」

「――こうか?」

 するといきなりフレームアーマーが全速力で走り出した! 強烈なGを受ける。

「うわっ!」

「スチュワートさん! ペダルを戻して!」


 すぐに止まったのだが、二人とも焦って、息がゼエゼエ言っている。

「ペダルはそーっと踏んでください。そーっと……」

「わ、わかった……」


 はあ――と、タケトはため息をつく。


 本来、パイロット候補生は百時間以上、シミュレーション装置で訓練してから実機に乗る。もちろん、この世界にそんな装置はない。だから、いきなり実機に乗せたのだが、さすがに危険すぎる。


(最初にペダルの踏み方を練習してから、実機に乗るべきだった)

 いまさら、失敗したと後悔する。


 それから、前後の移動をゆっくり練習する。スチュワートも最初はおっかなびっくりだったが、一時間ほど続けると、スムーズな移動ができるようになった。


「だけどなあ……」

 この調子だと、実戦ができるまでに上達するのは数年先になりそうだ――と苦笑いする。


 さて、練習以外でわかったことがひとつ。


 だいたい十分ほどの稼働で、この機体はマナ切れを起こしてしまう。つまり、動かなくなるのだ。

 そうなると、またナタリアにマナを供給してもらわなければならない。かなり、燃費が悪いのだが、これだけ大きな機体なので、致し方ないかと考える。


「まあ、祈るだけでマナを無尽蔵に供給できるのだから、大きな問題ではないのだろうけど……」


 戦い方にはいろいろ制限ができてしまうな――とタケトは頭を悩ませた。

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