第6話

 タケトはある建物の中に入った。


「ここは?」

「スータム寺院です」とナタリアは応える。

「寺院?」

 石材が積み上げられた重厚な作りは、西洋の教会を思わせるモノだった。


「どうぞ、こちらへお入りください」

 ナタリアが招き入れた部屋は、たくさんのテーブルを置かれたホールのような場所。タケトはそのほぼ中央の席に座らされた。

「スチュワートさん、お願いできますか?」

 彼女は隣の男性にそう声をかける。聖職者らしき男性は「かしこまりました」と返事をして、離れていった。


 待っている間、タケトは自分の手を触る。

(ナタリアさんの手、柔らかくて暖かかったな――)

 彼はその時の感触を思い出そうとしていた。


「どうかしましたか?」

 ナタリアが顔をのぞき込むので、ドキッとするタケト。慌てて「なんでもない」と応える。


「そ、そういえば、さっきマナがどうって言っていたよね? マナってなんなの?」

 そう話題を振ってみた。


「——マナは、女神ガルパ様からすべてのモノに分け与えられた、チカラの源のことです」

「チカラのみなもと――?」


「はい、先ほどのようにマナが不足すると気力がなくなり、ケガの回復も遅くなったりします」

 生命力みたいなものか――そう、タケトは想像する。

「ということは、マナを送り込めば疲労だけでなく、ケガも回復するということ?」

「はい、そうです。周りから少しずつマナを分け与えていただき、不足したマナを補充するのです」


 なるほどと思う。まるでファンタジーだな――なんて考えてしまう。


「そういえば、AFにもマナを送り込むとか言っていたよね?」

「……えーえふ?」


 彼女が大きな目をパチクリするので、ここでは言い方が違うのだったと思い出す。


「えーと、巨神――だったかな?」

「あ、はい。そうです。巨神はマナを送り込むことで起動します。私のような、聖女の能力を持つ者だけが、他のモノからマナを受け取り、別のモノへ送ることができるのです」

「えっ? それって――」


 ここまで話したところで、たくさんの料理が運び込まれた。とてもイイにおいである。ビジュアル的にも美味しそうだ。


「それではどうぞ、お召し上がりください」

 ナタリアにすすめられ、「それでは――」とタケトは手を合わせる。

「いただきます!」


 目の前の煮込みをスプーンですくって食べる。少し塩加減が薄い気もするが、充分おいしいと感じられる料理だ。


「お口に合いますか?」

 ナタリアにたずねられて、「うん、オイシイ!」と応えると、彼女がうれしそうに笑った。


 一度、スイッチが入ると食欲が一気に湧くものだ。それからは無我夢中で食べたので、先ほどまで話していたことを忘れてしまう。


 しばらく食べていると、なにか違和感を覚えた。と、いうのも――

「――他の人は食べないの?」


 そう、自分だけが食べている。ナタリアを含め、他は誰も食べていないのだ。じっと、タケトが食べるいる姿を見ていた。それを気にしてしまうと、食べづらくなる。


「私たちは――イイのです」

 そう、うつむいてしまうナタリア。なにかオカシイ。他の人も、タケトの前に並んだ料理をうらめしそうに眺めていた。


「もしかして、食べていないのでは?」

 タケトの質問に誰も答えない。やはり、そうか――タケトの手が止まる。


 慌てて、ナタリアは「どうぞ、気にせず食事を続けてください」と言うのだが、そういうわけにはいかない。

「よかったら、事情を話してもらえない?」


 ナタリアはしばらく黙っていたが、「実は――」と声にする。


「謎の軍に西方の国が侵略されて以降、この二週間、この町に食料が入ってきていません」

「――えっ?」


 ナタリアの話はこうだ。


 彼女たちの国、バルム聖国は宗教国家という以外、特に大きな産業はない。その西端にあたるスータム地方は、食料を隣接するコルネイ王国からの輸入に頼っていた。その王国が侵略され、備蓄も底を尽きようとしていた。そんな状況なのだそうだ。


「やっぱり、そうだったんだ――」

「ですが、タケト様はこの町を守っていただきました。この食事はその報酬でもあるのです」


 ナタリアはそう言ってくれるのだが、さすがにそれを聞いて自分だけ腹いっぱい食べているわけにはいかない。


「あのさ――もっと詳しく、この世界のことを教えてもらえない?」

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