お土産

清明

第1話

お土産は何がいいだろうか。

とりあえず、駅前にあったお土産屋に入る。

思ったより店内は狭く、薄暗かった。

「…いらっしゃい…」

店の奥から、か細い声が聞こえた。

失敗したかな…と思ったが、入店した以上一通り商品を見るのが礼儀だろうと思い、ぐるりと店内を見渡す。

地元の農産物を使った食品、ご当地もののキーホルダー、木刀、まあまあラインナップはあるが、どれも古さを感じる。

賞味期限は大丈夫なんだろうか。

近くにあった地方限定のポテトチップスの袋を手に取り裏返す。

賞味期限は一週間前の日付になっていた。

やはり失敗したようだ、別の店に行こう。

「お客さん…ちょっとお待ちなさい」

呼び止められる。万引きを疑われたのだろうか。

「お客さんは運がいい…ちょうど今日入荷した商品がありましてね…」

店の奥から箱を抱えた店員が出てきた。店主かもしれない。

「滅多に手に入らない一品ですよ…いやぁ、本当にお客さんは運がいい」

胡散臭い。

店員が箱から商品を取り出す。それは水玉模様のラベルが貼られた瓶だった。

商品名は書いていない。ラベルには文字が一切無かった。

中身はドロリとしたオレンジ色の液体だった。

「なんですかこれは?」

「これは知る人ぞ知る逸品でね…猫を絞ったジュースなんだ」

「え、何を絞った?」

「猫だよ、猫。キャット」

「え…?え、猫を絞る…?猫の血、体液という事ですか?」

「違う違う。そんな恐ろしいものじゃないよ」

「どういうことですか?」

「うむ、簡単に説明するとだね、まずはまるまる太った猫を用意するんだ。そしてこのくらいの箱を用意して、中央に空の瓶を置き、その周りをぐるぐる回るおもちゃのネズミを仕掛けるんだね。そうして箱の中に猫を離すとネズミを追いかけて瓶の周りをぐるぐる回るわけだ。ネズミが捕まらないように調整するのがとても難しいんだが、それが滅多に手に入らない理由だね。それでうまく捕まらないように調整できたら箱を閉め、しばらく放置しておく。猫が疲れて静かになったら箱を開けるとだね、中には少し痩せた猫と、猫から失われた成分がこの瓶の中に残るわけだ。これを瓶がいっぱいになるまで繰り返す。猫には都度十分な餌と休養を与えるから安心してほしい。ともあれ、この瓶の中身はそうやって作られたものということだ」

「いやおかしいでしょう。そんなことしても瓶の中に液体は溜まりませんよ」

「うん、実際にはもう少し色々箱の中に入れるのだが、この辺は企業秘密となっているんだね」

「いや、だとしても猫を絞ったというのは…」

「まあまあまあ、お客さんとりあえず試飲してみなさい。これが実に美味いんだ。体にも良い」

そんな怪しげな液体なんぞ飲みたくない。

「結構です。すみませんが帰ります」

「本当にいいのかい?滅多に手に入らないんだよ?」

「いいです。いらないです。では」

しょんぼりした顔の店員を置いて、私は店を出た。

結局お土産は駅の地下にあったお店で購入した。


「ということがあったんだ。はい、これお土産」

「ありがとう…でも私は猫ジュースが良かったなぁ」

「本気か?絶対嘘だしただのオレンジジュースだと思うぞ」

「え?嘘じゃないよ。猫ジュース知らない?私も小さい頃に一度だけ飲んだことあるけど、すっごく美味しかったよ」

「知らない。どんな味なんだよ」

「そうだなぁ…ちょっとしょっぱくて、干した布団のような匂いがして…」

「あんまり美味しそうな気がしないのだが」

「美味しいんだよー、ああ、もう一度飲みたかった…何で猫ジュース買ってこなかったの」

「何でって、え、俺が悪いのかこれ」

「あー猫ジュースー」

「なんだよ、そんなこと言うならお土産返せよ」

「いや、これはこれでもらう。はー、猫ジュース…」

「ええー…」

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お土産 清明 @kiyoaki2024

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