一重にかける、言葉と眼鏡

あめはしつつじ

一重一重に、瞳

 朝、起きる。

 眠い、目を擦る。

 眼鏡をかける。

 ベッドから出る。

 顔を洗いに、洗面台に。

 鏡の前、かけた眼鏡を外す。

 鏡の前、私は私の、目、を見る。

 可愛い、と思った。

 擦った目が、二重になっていた。

 嫌だ、と思った。

 いつもは、目を閉じて、顔を洗う。

 けれど、今日は、目を、思いっきり開けて。

 顔を洗って、顔を拭く。

 鏡の前、いつもの、一重の私。

 可愛くない、と思った。

 そんな目。

 分厚くて、腫れぼったくて、野暮な眼鏡を、かけて、隠す。


 学校。

 同じ制服、同じ格好。

 同じつつみに身を包み。

 けれど、あの人は、格好良い、とか、あの人は、格好悪い、とか。

 やっぱり、違って見える。

 外側が、ちょっと、違って、それだけで。

 良いも悪いも、ないとはいう、けど、やっぱり、良い人は、良いと思ってしまう。


「良いじゃん、それ、変えたんだ、眼鏡」

 見た目のいい人が、私に言う。

 分厚くて、腫れぼったくて、野暮な眼鏡。

 死んだおじいちゃんの、かけてた眼鏡。

 変えたんだ、かけてた眼鏡。

 なんで、変えた、と言うのだろう。

 フレーム。

 かけてた眼鏡の、変わったフレーム。

 けれど、レンズは、一緒なのだ。

 度数、矯正、乱視調整。

 焦点距離、紫外線防止。

 めがねは、がんきょう。

 鏡が、レンズが、眼鏡なのに。

 フレームが、外側が。

 変われば、変えた? かけてた眼鏡。

 透明な、レンズが変わっても。

 誰も、眼鏡を変えた? とは言わない。

 けれど、かけてる私には。

 ちゃんと、分かるのだ。

 透明なものが、変わっても。

 みんな、誰も、分からない。

 みんな、みんな。

 そんな色眼鏡をかけている。

 色に見えねど、なにぬねの。

 ながね、にがね。

 ぬがね、ねがね。

 のの字に、払って、

 めがね色。




「そんな、そんなことを、考えたの。つつじくん」

「女子は大変だね、あめはしさん。一重なだけで、そんな悩むなんて。二重の僕には、分からないよ」

「つつじくん、一重じゃない? とっても、ぱっちりの、一重じゃない」

「何を言っているんだい、あめはしさん。いちたすいちは?」

「に」

「一重たす一重は?」

「二重……、じゃないでしょ」

 眼鏡の奥。つつじくんの一重は、笑っていた。

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